アステラス製薬は、同社が3～5年後に導入を目指す「Decentralized Clinical Trials (DCT＝分散型臨床試験)」のプラットフォームについて、「１つのアプリ」完結型ベンダーとの提携を目指す方針だ。3月4日の専門誌等のグループ取材で明らかにしたもの。すでに同社はデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者を対象とした米国でのASP0367の臨床試験でビデオアセスメント、e-ダイアリー、ウェアラブルデバイスなどのデジタルを活用した分散型臨床試験を経験している。取材に応じた同社開発本部日本・アジア臨床開発第２部の大室信太郎氏は、「（その際は）それぞれ機能ごとに異なるベンダーと契約したが、治験参加者やマネージする製薬企業にとって最適ではなかった」と振り返り、「今後は複数の機能を１つにまとめたプラットフォーム型のサービス提供ベンダーと提携したい」と述べ、提携先の選定を行う方針を明らかにした。

同社は1月21日に開催した「ＤＸメディア説明会」で、今後３～5年以内に「リモート臨床試験」のプラットフォームを構築する方針を明らかにした（関連記事）。同社が目指すDCTとは、革新的な技術やサービスを活用し、治験参加者にとって身近で負担の少ない治験と定義している。

◎DCT　治験参加へのハードを下げ、治験への理解や負担を軽減する

グループ取材で大室氏は、①オンライン診療、②訪問看護、③近医との連携、④自宅への検体改修―などの選択肢を提供することで治験参加のハードルを下げることができると指摘。治験参加者向けの説明動画の提供や遠隔モニタリングなどのツールを活用することで、参加者自身が治験への理解や負担を軽減することができ、「治験に参加してよかったという経験をして頂くことができる」と強調。また、治験途中の逸脱を減らすなどの効果にも期待を寄せた。

◎患者のリアルタイムデータをセカンダリー評価で活用も「治験のゴールが変わる可能性も」

一方で、DCTを活用した治験のメリットとして、ePROやeCOA（電子的にアウトカムを評価するシステム）、ウェアラブル機器、患者日誌などを通じ、リアルタイムに得られるデータから患者の日常生活等に関するアウトカムデータを取得することが可能となる。治験の場合、治験薬の有効性・安全性に関するデータをプライマリーエンドポイントとして評価するが、DCTで実施する治験の場合、患者のリアルタイムデータをセカンダリーエンドポイントに用いることもできるため、通常診療では見抜けない「患者の不安や課題」の解決方法の抽出にも寄与すると期待され、同社が目指す「患者中心の臨床試験の実現」により近づけることができる。

大室氏はDCTを用いた治験について、「治験の最終的なゴールについても今後大いに変わっていく可能性があると考えている」と強調。さらに、「セカンダリーでとったデータも含めてFDAなど規制当局と相談し、なにが患者の生活やQOLなどの評価ポイントとして一番適しているかディスカッションの余地があるのではないか」と期待感を込めた。

◎プラットフォーム構築は「各国の規制や慣習について精通しているベンダーで」

同社が導入を目指すDCTプラットフォームについて大室氏は、「自社で開発するには、時間とコストがかかり非効率と考えている」と述べ、ベンダーとの提携を優先する方針を表明した。一方で、ベンダーの選定に際しては、「グローバル開発品が多く、それぞれの国や地域でDCTベンダーを導入することは非効率」とし、「アステラス製薬の主要な開発地域をカバーしていることを確認する必要があり、各国の規制や慣習について精通しているベンダーを選定する必要がある」との見解を示した。