東和薬品の吉田逸郎社長、京都大iPS細胞研究所（CiRA）の井上治久教授、三重大大学院医学系研究科の冨本秀和特定教授は6月３日、京都市内で記者会見に臨み、家族性アルツハイマー病患者を対象に、iPS細胞を用いた治療薬候補スクリーニングで見出されたブロモクリプチンの第２／３相試験（企業治験）を開始したと発表した。医師主導治験で実施した第１／２相試験ではPSEN1遺伝子変異を持つアルツハイマー病患者の神経細胞で高いことを見出している。吉田社長は会見で、「CiRAの研究からアルツハイマー病治療薬の候補探索手法が確立された。これはドラッグ・リポジショニングの成功確率向上の可能性を秘めたものだ」と評価。「安全性情報が豊富な既存薬を活用し、新たな薬効を開発するドラッグ・リポジショニングは、社会全体にとってメリットのある有効な手法だ」と述べ、今回の企業治験の実施に強い意欲を示した。

◎CiRA・井上教授　Aβ抑制効果が最も高い既存薬としてブロモクリプチンを検出

この日の記者会見でCiRAの井上治久教授は、iPS細胞を用いて行ったアルツハイマー病治療薬の候補探索結果を紹介した。プレセニリン1変異アルツハイマー病患者のiPS細胞から大脳皮質神経細胞を分化したところ、アミロイドβ（Aβ）抑制効果が最も高い既存薬としてブロモクリプチンを見出した。また、ブロモクリプチンの有効性は、PSEN1遺伝子変異を持つアルツハイマー病患者の神経細胞で高いことも見出した。この結果をもとに東和薬品が製造販売承認を取得するブロモクリプチン錠2.5mg「トーワ」を用いて第１／２相試験（医師主導治験）を実施。井上教授は、「参加者は8人と少なかった」と述べながらも、「認知機能と行動・心理症状の病状進行が、抑えられる傾向がみられた」として、さらなる検討の必要性を強調した。

◎三重大・冨本特定教授　例数24例（実薬群、プラセボ群各12例）　試験期間は28年3月まで

これを受け、三重大大学院医学系研究科の冨本特定教授は、５月から開始した家族性アルツハイマー病に対するブロモクリプチンの臨床第２／３相試験（企業治験）を紹介した。対象は、iPS細胞を利用したスクリーニングからプレセニリン1遺伝子変異を有するアルツハイマー病患者(MMSE 2点～19点)。目標症例数は24例（実薬群12例、プラセボ群12例）。経口投与の実薬群（ブロモクリプチン）とプラセボ群の二重盲検比較試験および非盲検継続投与試験を行い、有効性、安全性を評価する。試験期間は25年5月～2028年3月。

◎東和薬品・吉田社長「安全性情報が豊富な既存薬を活用して、新たな薬効を開発できる」

東和薬品の吉田社長は、「井上教授をはじめ、京大iPS細胞研究所では、iPS細胞で薬剤の可能性をスクリーニングする手法を開発した。これはドラッグ・リポジショニングの成功確率の向上の可能性を秘めた手法で、既存薬のまだ明らかになっていない価値に光を当てる有意義な研究である」と強調。「通常新薬の開発は臨床試験など莫大な開発費が必要となるが、安全性情報が豊富な既存薬を活用して、新たな薬効を開発できる可能性がある。ドラッグ・リポジショニングは社会全体にとってメリットのある有効な手法になる」と述べた。

◎「我々の豊富な既存薬の情報を活用することは非常に有効で、GEメーカーの務めである」

さらに、東和薬品においては314成分730製品の既存承認薬を有しており、「希少疾患や特殊疾患に対する治療薬開発のために、我々の豊富な既存薬の情報を活用することは非常に有効であり、ジェネリックメーカーの務めであると考えている」とも強調し、「iPS細胞でスクリーニングされた成功確率の高い薬剤を効率よく選択できる点において、我々がiPS創薬におけるドラッグ・リポジショニングに取り組む大きな理由の一つだ」とも述べた。

一方で治験を含む社内の実施体制についても触れ、「ジェネリック医薬品以外で承認を受ける機会も増えている。スタッフや経験を現在は蓄積しているがまだ不十分な段階。今回の治験に関わるアカデミアの先生方の知見や経験を活かして協力を頂きながら進めていきたい」と述べた。