日本製薬団体連合会保険薬価研究委員会（薬価研）の加茂谷佳明委員長（塩野義製薬常務執行役員）は６月10日の記者懇談会で、高額薬剤議論について製薬業界として「適正使用、最適化使用を図っていく」姿勢を改めて強調した。その上で、「具体的な絵に示せということであれば、絵柄は示していく必要性はある」と述べ、学会などとの協力のもとで具体像を描く考えを示した。消費税増税が2019年10月まで延期されることで、増税に伴う今年度中の薬価改定は回避されたが、財源確保は厳しさを増す。財源確保のために薬剤費適正化の流れが強くなることも想定されるが、高額薬剤などで「特例的な算定（引き下げ）を行うということは、業界としては予見性の観点から、新薬の創出、イノベーションの促進の観点からも反対する」ことも強調した。


◎すべての薬剤で最適化使用推進を

加茂谷委員長は、高額薬剤の問題が国内だけでなくグローバルでも共通した課題との認識を示した上で、「高額だから問題なのではなく、医薬品が患者、国民のためにどのような価値を与えていくのか。きっちり評価した上での対応が必要だ」と述べた。医薬品の価値を評価する方策として、2016年４月に試行的導入された費用対効果評価が該当する可能性も示唆した。その上で、製薬業界としては、「適正使用、最適化使用を図っていく」ことを強調。2016年４月実施の診療報酬改定については、長期投薬や残薬の是正が盛り込まれたことを引き合いに、高額薬剤に限らずすべての薬剤について情報提供も含めた最適化使用の推進を行うことが必要との考えを示した。

一方で、個々の製薬企業による最適化使用だけで議論が収束しない場合には、「どう対応するのかは知恵を絞らないといけない。次のステップまでいくかはまだ見えていない」と述べた。具体的に製薬企業が最適化使用にどう取り組むかについては、まだ明確ではないとしながらも、「例えば臨床現場の先生、学会などの協力を得ながら描いていく」考えを示した。

高額薬剤をめぐり、中医協では、診療側・支払側双方から、適応拡大などでの期中改定を求める声があがっているが、「基本的には反対だと個人的には考えているが、業界のコンセンサスが得られているわけではない」と説明した。期中に薬価が変わることは臨床現場への影響も大きいことなどから、「非常に難しいだろうと思っている」と述べた。


◎増税延期で「いまそこにある危機は逃れられた」　薬剤費からの財源捻出を警戒


消費税増税延期については、増税に伴う16年度中の薬価改定は免れたことから、「いまそこにある危機は逃れられた」と述べた。一方で、増税が延期された2019年10月は、2018年度の診療報酬・介護報酬の同時改定と、20年度の通常改定の狭間の年になる。政府は2020年度までに基礎的財政収支（プライマリーバランス）の黒字化を目指しており、社会保障費の伸びを３年間で１兆5000億円に抑制することを掲げている。

加茂谷委員長は、「財政的には非常に厳しい。前回改定で行われたような差分すべての財源を薬から出すということはあってはならない」と危機感を示した。2016年度薬価改定では、7000億円を超える薬剤費が削減され、年間販売額の大きい薬剤には特例拡大再算定が導入された。加茂谷委員長は、売上規模が大きいことだけで薬価を特例的に引き下げることは、イノベーションの評価から相反すると主張。特例引下げなどには反対の姿勢を改めて強調した。また、薬価改定のタイミングについても、改定のタイミングを半年間ずらすなどの議論も必要になるとの見方を示し、「状況はかえって複雑になってしまう」と危惧を示した。


◎費用対効果評価　効果が上回れば薬価に影響与えない


そのほか、2016年４月に施行的導入された費用対効果評価については、C型肝炎治療薬などが対象となっているが、「効果が上回っている、いわゆるドミナントという世界になることを期待している」と述べ、効果が費用を上回る場合には「薬価に影響を与えるものではない」との認識を示した。また、効果指標については、質調整生存年（QALY）だけでなく、生存年なども視野に入れることの必要性も指摘した。

新薬創出・適応外薬解消等促進加算については、取得に際し、適応外薬等の開発に取り組む企業であることが前提条件となるが、こうした業単位での絞り込みから、品目単位での絞り込みが議論となる可能性を指摘。医薬品の価値を市場が決めることの必要性を指摘し、現行制度での制度化を目指す姿勢も改めて強調した。基礎的医薬品については、位置付けを明確にしながら、該当する薬剤の範囲を拡充することを目指す考えも示した。