厚労省・磯部課長 集積ゲノム情報をAIで解析・実用化へ
公開日時 2017/04/10 03:53
厚生労働省医薬・生活衛生局の磯部総一郎医療機器審査管理課長は本誌取材に対し、「将来的には、個人に実施するゲノム検査が実診療の場に入ってくる可能性まである」と述べた。がん治療などで、個々の患者に最適な治療を届ける、プレシジョン・メディシン(最適医療)の基盤となることが期待される、次世代シークエンサーが早ければ来春にも臨床現場に登場する。国民のゲノム情報をデータベースに集積し、人工知能(AI)を活用して解析・分析することで、新たな治療方針の確立や、医薬品の適正使用推進、創薬の新たなターゲットが発見される。こんな医療の実現も迫っている。
インタビュー全文(一問一答記事)はMonthlyミクス4月号に掲載。文末の関連ファイルは4月10日のみ無料公開、その後はプレミア会員限定コンテンツになります。
◎シークエンサーはプレシジョン・メディシン推進の基盤
厚労省は2月28日、次世代シークエンサー「がん関連遺伝子パネル検査システム」(シスメックス社、国立がん研究センター開発のNCCオンコパネルを基に開発)が先駆け審査指定制度の対象品目に指定した。
これまでがん治療は、EGFRやHER2、ALKなど特定の遺伝子異常に着目されてきたが、シークエンサーの登場で、複数の遺伝子状態を一度に把握することが可能になる。検査の回数を減らす物理的メリットはもちろんのこと、データが蓄積されることで、「がん細胞の特徴に基づいた新たな治療方針の確立や、医薬品の適正使用推進、創薬の新たなターゲットの発見なども期待できる」と磯部課長は説明。「プレシジョン・メディシン推進の基盤となるツールであることから、システムは先駆け審査指定制度の対象品目に指定する価値があると判断した」と述べた。
◎次世代シークエンサー 条件付き承認も視野
課題もある。ターゲットとする遺伝子以外の変異を発見してしまう(偶発的所見)可能性があることだ。すべての遺伝子変異に対する治療法が確立されていない中では、患者を不安に陥れてしまう可能性もはらむ。そのため、「検査結果に適切に対応できる医療機関、例えばその経験や知識を積んだ医師や遺伝カウンセラーが配置されている医療機関に使用を限定する。その上で、安全性が確認された後に広げていくことが必要だ。条件付き承認も考慮しなければならない」との考えを示した。
◎継続的連続的な性能の変化に着目 情報提供のあり方も検討
ゲノムやAIはデータの蓄積で性能の進歩・変化を遂げるため、「継続的連続的な性能の変化があるため、どう評価するかは一つの課題だ」との考えを示した。通常であれば、性能の変化があれば一部変更承認が必要になるが、それでは「技術革新に制度が追い付かない」との考えを表明。診断精度の向上などで臨床現場での活用法も変わってくることなどから、「重要なのは、ユーザーである医療従事者に現在の検査精度について知ってもらうことだ。実際に医療現場で適切な使用に結びつけるための情報提供のあり方も考える必要がある」との考えを示した。