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新薬イノベーションめぐり企業経営者から相次ぐ苦言 来日中の米メルク・フレージャーCEOは改革論議に不信感

公開日時 2017/10/31 03:52

衆院総選挙明けの永田町、霞が関は、早くも医療関係団体や製薬業界を巻き込んで2018年度薬価・診療報酬改定への熱が高まってきた。10月30日は製薬業界が先手を打つ。来日中の米メルクのケネス・C・フレージャー会長兼最高経営責任者(CEO)は10月30日、東京都内で行った米国研究製薬工業協会(PhRMA)主催のプレスブリーフィングで、新薬創出・適応外薬解消等促進加算の維持を求め、政府が推し進める薬価制度改革の進め方に対し、不信感を表明した。一方で中外製薬の永山治代表取締役会長兼CEOは都内で記者会見に臨み、政府の主張するイノベーション評価の方向性に疑義を示し、売上規模のみを理由とした突発的なルール変更・導入を強く批判した。長期収載品についての引下げを覚悟する意見も聞かれた。

◎フレージャーCEO 革新薬へのアクセスとコスト「最適なバランスを達した」

「日本がもっている制度はすでに素晴らしい投資を呼び込んでいる。新薬に手が届くようになっており、制約はない。これより良いシステムがあるのだろうか」-。フレージャー会長兼CEOはPhRMA主催のプレスブリーフィングでこう語った。

日本国内の状況についてフレージャー会長兼CEOは、新薬創出・適応外薬解消等促進加算の試行的導入やPMDAの体制強化などで、ドラッグ・ラグは解消してきた。一方で、今後の国内市場の成長率は0.5~1.5%のマイナス成長と見通されており、医療費もコントロールされていると指摘。「日本政府は、最適なバランスを達成した」との見方を示した。その上で、「国民皆保険制度は非常に素晴らしい。ビジネスにとっては新薬を開発する中で、日本市場で安定性と予測可能性が重要だ」と述べ、現行制度の維持を求めた。

特に、「新薬創出加算を維持してほしい。日本の患者にとって、より新しい薬を同じタイミングで、アクセスできるようにする。それにより医療費が増えないことが重要だ」と強調した。新薬創出加算の対象品目が画期性や有効性がある品目への絞り込みが行われることも議論の俎上にあがっているが、「イノベーションを狭く定義すると、投資をしようという魅力がなくなっていく」と述べた。

米・セルジーン社のロバート・J・ヒューギン会長も、「日本の制度は米国よりも薬価が低く、ドラッグ・ラグを解消できる」との見方を示し、イノベーションとコストのバランスがすでに取れているとの考えを表明。「せっかくうまくいっている制度を壊してはいけない」、「制度の一部だけ変えて、ほかに影響が出てはいけない。今ある制度のベネフィットを残し、進化することでコストを下げられる良い方法があるのではないか」などと指摘した。

◎塩野義・手代木社長「長期収載品の犠牲も甘んじて受け入れるべき」

日本市場への投資について、イーライリリー・アンド・カンパニーのデイビッド・A・リックス会長兼CEOは、「投資先としては米国に次ぎ、2番目に大事だ」との見方を示した。国内で革新的新薬の承認が迅速化している背景として、グローバル臨床試験に日本人が含まれており、国内施設で実施されており、それが同時申請・承認につながっていると説明した。その上で、新薬創出・適応外薬解消等促進加算によるイノベーション評価の重要性を指摘し、「予見性がないと投資ができなくなってしまう」と制度変更を牽制した。

塩野義製薬の手代木功代表取締役社長も、「日本の企業にとっても、日本の市場が最優先というのは決定事項ではない。日本にそれだけの価値があるということを判断しないといけない」と指摘し、政府のイノベーション政策は内資系企業にとっても重要だとの考えを示した。国民皆保険の下で革新的新薬を評価する重要性を強調する一方で、「長期収載品の犠牲も甘んじて受けるべき。国民皆保険制度が一番重要だ」と語った。

そのほか、2018年度に本格導入が予定される費用対効果評価については、「新たな制度を導入することは冗長的だと考えているし、再考してほしい」(手代木社長)、「価値のある薬剤を評価するときに価格だけで考えてはいけないこともある。HTAというのは進む方向ではない。(患者のQOLなど)ベネフィットを全体で、長期にわたって評価すべき」(リックス会長兼CEO)、「患者のためにと思って制度設計はすべきだ。(HTAの導入は)アクセスが遅れることにつながる。革新的新薬へのアクセスが遅れることでかえって、長期の入院などにつながり、コストが増大する可能性もある」(フレージャー会長兼CEO)などと改めて導入に反対する姿勢を示した。


◎中外・永山会長「イノベーションの価値に見合った価格を」

同日に会見した中外製薬の永山会長も、今後の薬価制度改革議論について、「イノベーションに対して価値に見合った価格をつけてほしい」と述べた。革新的新薬の多様な価値を評価した薬価算定を行った上で、特許期間中は新薬創出加算で薬価を維持することを求めた。一方で、「特許期間後はZ2(長期収載品の特例引下げ)で覚悟をした。いま長期収載品の値段を何とか守ってほしいと言っている企業はほとんどないだろうと思う。それを言っても、(政府や行政に)聞く耳はないと思っている」と述べた。

2016年度の薬価制度改革でアバスチンなど販売金額が大きい品目に対して特例拡大再算定の導入、17年には抗がん剤・オプジーボが期中に薬価を50%引き下げられるなど、“特例”の引下げが相次いだ。永山会長は、米・タフツ大の研究開発費が1剤当たり25億ドルとの推計を引き合いに出し、製薬企業がイノベーションに対して莫大な投資を行っている現状を説明。「10年、20年かけて開発をして先の見通しを立ててという会社は突然ルールを変えられてしまうと中期計画も含めて困る」、「単に売上規模が大きいという理由による薬価再算定はイノベーションモデルの否定だ」と反発する姿勢を示した。

C型肝炎治療薬などでは治癒も見込めることから、総治療費の削減や社会復帰による経済効果など長期的なスパンで見れば、プラスに転じる可能性もあった。永山会長は、「予算は、単年度決算。その年の財政にヒットするということで価格を切ったのは残念なことだ」と述べ、長期スパンに立った制度設計も求めた。

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