中医協 保険外使用の品目はNDB活用で特例拡大再算定適用へ 製販業者の「適正使用推進」は大前提
公開日時 2025/12/04 04:55
中医協薬価専門部会は12月3日、保険外での使用が一定数見込まれる品目に対し、NDBの活用により販売金額を把握し、該当する場合は市場拡大再算定の特例(特例拡大再算定)を適用することを診療・支払各側が了承した。保険外診療で用いられた販売数量を除外するが、薬価改定以外の機会でも該当すれば適用する考え。肥満症治療薬が保険外で瘦せ薬として使用されていることなども指摘される中で、「製造販売業者による適正使用の更なる推進を図る」ことが「前提」とした。診療側の江澤和彦委員(日本医師会常任理事)が「公的医療保険制度で扱う医薬品であれば、たとえ自由診療であっても適正使用がなされるようしっかり対応を行っていただくことが大前提」とクギを刺すなど、診療・支払側からは適正使用の徹底を求める声が相次いだ。
◎保険外の販売数量捕捉は特例再算定の趣旨に「一部そぐわない」
年間販売額が1000億円超などで要件を満たした年間販売額が極めて大きい品目については、特例拡大再算定が適用されるルールとなっている。一方で、販売額の把握に薬価調査を活用すると、保険外で使用された数量も一定程度含まれることになる。このため、事務局は「医療保険財政を考慮するという本来の趣旨とは一部そぐわない側面がある」と説明。保険診療分のみ捕捉するNDBは、現行制度では効能追加による市場拡大の把握に活用されているが、保険外での使用が一定数見込まれる品目については、効能追加の有無によらず活用することを提案した。
◎対象品目選定は「企業からの申請に基づいて厚労省が精査」
対象品目の選定について問われた、厚労省保険局医療課の清原宏眞薬剤管理官は、薬価調査を踏まえて対象品目を選定し、「企業側が自社データで該当しないということであれば、理由をつけて資料を提出する」と説明。「我々の方で、できる限り保険診療で使われている数量データを集め、その数字の確からしさを確認し、確かだろうとなれば除外する。基本的には企業からの申請に基づいて、その数字を我々が精査するという形で対象品目を選定していこうと考えている」と説明した。これに対し、診療側の江澤委員は、「これまでも自由診療では適切かどうか疑義があるような使用がなされているが、タイムリーな把握は事務局で可能か」と質した。これに対し、清原薬剤管理官は、「タイムリーにというのは難しい。NDBも含め、それを後から取ってくるので、少し時間はかかるが、我々としては確認できる方法で企業からの指標に対して不足するデータを集めて検証する」と説明した。
◎製薬企業の適正使用は「当然」の声 安定供給への懸念も
診療・支払各側から方法論には異論があがらなかったが、適正使用を求める声が相次いだ。診療側の江澤委員は、「企業の対応としては当然だが、国としても適正使用に向けた環境整備をいただく必要がある」と指摘。診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「保険外で使用されることによって、本来保険診療で使用する人への医薬品の供給が不足するようなことがあってはいけない。そこはしっかりと気をつけていただきたい」と要望した。
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)も、「薬価収載された医薬品は保険診療の中で使用することがそもそも前提で、適応外使用の場合でもレセプト審査で認められるケースや保険外併用療養費制度による対応もある。こうした枠組みの外で完全な自由診療として使用することは、患者の安全に対する懸念があり、さらに保険診療で使用する医薬品の安定供給に支障をきたす可能性も否定できない」と指摘。「製造販売業者による適正使用の推進は当然であり、効能追加等の有無にかかわらずNDB で販売額を把握し、保険診療での販売額が特例の基準に該当した場合には、速やかに再算定で薬価を引き下げるべきだ」と主張した。
◎26年度薬価改定に向けた検討項目案を提示
この日の中医協薬価専門部会では、26年度薬価改定に向けた検討項目案を示した(本誌既報)。新薬創出等加算を「革新的新薬薬価維持制度」(仮称)、市場拡大再算定の特例を「国民負担軽減価格調整」(仮称)とすることなどを提案した。
◎不採算品再算定 シェアが一定割合以上は該当 全社手上げルール廃止へ
不採算品再算定については、「(当該既収載品と組成、剤形区分及び規格が同一である類似薬がある場合には、全ての類似薬について該当する場合に限る。)」と全社の手上げが条件となっていたが、この規定は廃止。該当する類似薬のシェアが一定割合以上の場合は、要件に該当するものとすることを提案した。ただし、平均乖離率を超える品目は対象外とする考え。診療側の森委員は、「不採算品再算定を受けた品目は確実に増産となることが必要だ」と指摘。支払側の鳥潟委員は、「少数多品目構造を解消し、安定供給を確保する方針を後押しする観点から重要だ。加えて、供給改善に寄与するもののみを対象とするべき。市場から撤退する予定の品目については対象外とする必要があるとともに、例えば数量シェアが極端に低い品目について、今後安定供給に寄与するほどの供給増が見込まれないと想定されるため、対象外とすることもあり得るのではないか」と指摘した。
このほか、最低薬価については、「外用塗布剤について、規格単位に応じた最低薬価を設定する」、「点眼・点鼻・点耳液について、点眼液の最低薬価を適用する」ことなどが提案された。
支払側の松本委員は、「いずれも安定供給のために必要なことは理解しているが、そもそも市場取引の中で医薬品の価値に見合った実勢価格が形成されることが重要であり、財源に限りがあることを踏まえますと、優先順位は慎重に判断すべきだと改めて強調する」とクギを刺した。
◎AGは薬価基準収載希望書に記載求める 支払側「選定療養や加算の見直しを」
AG・バイオAGについては、適切な競争環境を形成する観点から、先発品・先行品と「同額」とすることを提案した。AGについては「薬価基準収載希望書にAGであるか否かを記載する」ことを求める考えも示した。診療側の江澤委員は、「特許切れの医薬品が先発品や先行品と同価格であるということは、医療保険の持続性や、患者さんのご負担も考えると簡単に納得できるものではない。先発品、先行品と同価格とすることの意義やメリット、デメリットなどを踏まえた上で、引き続きの検討が必要だ」と指摘した。支払側の鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は、「AG、バイオAGについては、長期収載品と同様に扱っていくという方針で受け止めている。このため、長期収載品の選定療養制度や各種加算等の後発品使用状況の要件においても整理し直す必要がある」との考えをしめした。
薬価収載後にガイドラインで標準療法となった場合は、薬価改定時に評価することも提案した。診療側の江澤委員は、「標準的な治療と位置付けられれば当然市場も拡大するはず。その点も踏まえた評価方法となるよう、引き続きのご検討をお願いする」と指摘した。
このほか、調整幅については28年度薬価改定まで結論を先送ることも提案されたが、支払側の松本委員は「カテゴリー別や投与経路別、剤形別、高額薬剤かどうかといった切り口で調整幅を変える余地は十分にあると考えておりますので、事務局には早急な議論の準備をお願いしたい」と訴えた。
◎藤原専門委員 特例再算定の名称変更に反発 荒川専門委員「20円未満の薬価引上げは喫緊の課題」
業界代表の藤原尚也専門委員(中外製薬執行役員渉外調査担当)は、特例拡大再算定の名称を「国民負担軽減価格調整」に変更することについて、「これは前提条件に大幅な変更があった際に薬価を再算定するという市場拡大再算定の本来の趣旨からは大きく変わるものであり、単に名称を変えるということではない」と反発。「国民負担の軽減は薬価だけで行うものでもなく、その方法については十分に時間をかけて丁寧に議論を行う必要がある」と主張した。
荒川隆治専門委員(アルフレッサホールディングス代表取締役社長)は医薬品卸の立場から、「低薬価品であっても流通不採算が生じることのないように、薬価の下支えをぜひお願いしたい。特に20円未満の薬価引上げは喫緊の課題」と訴えた。また、薬機法改正で新設された「重要供給確保医薬品の対象品目について、供給不安が発生することのないよう、薬価の下支えをぜひお願いしたい」と要望した。