中医協 薬価中間年改定の「薬価調査」で業界ヒアリング 卸・製薬業界とも「実施する環境にない」
公開日時 2020/06/11 04:52
中医協は6月10日、薬価専門部会、総会を通じて薬価毎年改定(中間年改定)の前提となる薬価調査について議論した。薬価専門部会では医薬品卸、日米欧製薬団体から意見陳述が行われた。卸側は新型コロナウイルス感染症の拡大で、医療機関との価格交渉そのものが停滞していると説明。「価格交渉の状況が通常とは大きく異なっており、 中間年の薬価調査のための環境整備どころではない」と主張した。製薬業界側も「医療現場は甚大な影響を受けており、平時とは大きく異なる」と指摘し、薬価調査、薬価改定を実施する状況にはないとの見解を示した。
薬価毎年改定は2016年12月に4大臣合意した「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」に、その実施が明記されたもの。2年に1回行われる薬価調査に加え、その間の年(中間年)においても、大手事業者等を対象に薬価調査を行い、価格乖離の大きな品目について薬価改定を行うと規定している。このため、中医協としては、21年4月に実施する薬価毎年改定(中間年改定)の前提となる薬価調査をどのように行うかが、この日のテーマとなった。
◎卸連・渡辺会長「見積書の提示どころか、条件面の調整も行えていない」
業界陳述に臨んだ日本医薬品卸売業連合会(卸連)の渡辺秀一会長は、新型コロナウイルス感染症下の医薬品流通について、「ほとんどの医薬品卸は、医療機関等から納品以外の訪問自粛要請を受けており、見積書の提示どころか、条件面の調整も行えていない」と強調した。その上で、「自粛要請は継続されており、同時に、未妥結減算制度を念頭においた極めてタイトな期間での交渉にもなるため、単品単価契約や早期妥結などを踏まえた適切な価格交渉は困難な状況にある」と指摘。「コロナウイルス感染症の影響により、価格交渉の状況が通常とは大きく異なっており、 中間年の薬価調査のための環境整備どころではない」と訴えた。
◎日薬連・手代木会長「医療現場に甚大な影響」薬価改定を実施する状況にない
一方、日本製薬団体連合会(日薬連)の手代木功会長は、「医療現場は甚大な影響を受けており、医療提供体制の確保や医薬品流通における安定供給のために様々な取り組みが行われている」と強調。「海外から原薬の調達において混乱が生じ、コストの上昇も懸念されるところ。先行きを見通すのが非常に難しい状況の中、医薬品の安定供給確保に取り組みつつ、危機発生に柔軟に対応できるサプライチェーンの強化を早急に進める必要がある」と述べ、「COVID-19対応下にあることを踏まえれば、今回の薬価調査・薬価改定を実施する状況にはないと認識する」との見解を示した。
◎診療側「何が正しい実勢価か分からない」 支払側「政府方針に基づき検討するのが役割」
診療・支払各側委員を交えた議論では、診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)が、「現況では購入側、販売側ともに薬価調査を実施する状況になく、適切な市場実勢価格を反映することは極めて困難という理解でよいか」と質問。これに卸側、製薬産業側ともに同意する姿勢を表明した。
一方で、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、「大前提として、中間年改定は2016年12月の4大臣合意で決定されたもの。その方針はいまも変わっていない。中医協は、この方針に基づき、どうやって調査をしていくか検討するのが役割では」と事務局を質した。
これに対し、医政局経済課の林俊宏課長は、「6月中に薬価調査の内容については準備を進める必要がある」と強調。保険局医療課の田宮憲一薬剤管理官は、「今回の薬価調査の実施は、昨年の骨太方針など閣議決定されている」と述べ、「骨太方針2020を決める7月までの(中医協での)議論が一つのタイミングになる」と見通した。
ただ、診療側委員からは、「薬価の交渉が時間的に不可能となっており、何が正しい実勢価格かわからない。不確かで検証不能なものでは、エビデンスに基づかない改定となると思う」との薬価調査の実施そのものに対する慎重意見が相次いだ。薬価専門部会後に開かれた総会でも、この日の業界意見陳述の内容が事務局から報告され、その後、各側の議論が行われたが、薬価調査については結論を得るには至らず、6月中を目途に継続審議となった。