政府は７月17日、臨時閣議を開き、「経済財政運営と改革の基本方針2020（骨太方針2020）」と成長戦略実行計画を閣議決定した。新型コロナウイルス感染症拡大の影響を踏まえ、「危機の克服、そして新しい未来へ」を副題に掲げ、デジタル化の推進を強力に進める方針を打ち出した。医療関連では、「オンライン診療について、電子処方箋、オンライン服薬指導、薬剤配送によって、診察から薬剤の受取までオンラインで完結する仕組みを構築する」ことを明記した（関連記事）。薬価調査・薬価改定については、「本年の薬価調査を踏まえて行う2021年度の薬価改定については、骨太方針2018等の内容に新型コロナウイルス感染症による影響も勘案して、十分に検討し、決定する」と明記。薬価調査、薬価改定の在り方は中医協に議論の場を移すことになる（関連記事）。

「世界が新型コロナウイルス流行という正に歴史的な危機に直面する中で、我が国として、思い切った社会変革を果敢に実行することによって、自ら未来を切り拓いていく」―。安倍首相は、経済財政諮問会議と未来投資会議の合同会議で、こう述べた。新型コロナウイルス感染症の拡大で、デジタル化・オンライン化の遅れなどが鮮明になるなかで、政府は今後１年間を集中改革期間に位置付け、「10年かかかる変革を一気に進める」ことを柱に据えた。

医療分野では、骨太方針、成長戦略実行計画ともにオンライン診療の推進を盛り込んだ。新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、初診を含めて全面解禁されているが、骨太方針では効果や課題について、「受診者を含めた関係者の意見を聞きエビデンスを見える化しつつ、オンライン診療や電子処方箋の発行に要するシステムの普及促進を含め、実施の際の適切なルールを検討する」と明記した。診療から薬剤の授受まで一貫した体制構築には電子処方箋の整備も必須になるが、「電子処方箋について、既存の仕組みを効率的に活用しつつ、2022年夏を目途に運用を開始する」ことも明確化した。成長戦略実行計画でも、「健康相談など非対面・遠隔サービスの充実を図る。また、患者のみならず、医師・看護師を院内感染リスクから守るためにも、オンライン診療を積極的に活用する」と明記した。成長戦略フォローアップには、「次期診療報酬改定に向けて、オンライン診療料の普及状況を調査・検証し、安全性・有効性が確認された疾患については、オンライン診療料の対象に追加することを検討する」とした。22年度診療報酬改定に向けて議論が本格化することとなりそうだ（関連記事）。

また、医療・介護のデータの利活用推進も明記。「医療・介護分野におけるデータ利活用やオンライン化を加速し、ＰＨＲの拡充も含めたデータヘルス改革を推進する」ことを明記。レセプトに基づく薬剤情報については2021年中に稼働させることなども盛り込んだ。このほか、医薬品をめぐっては、「全ゲノム解析等実行計画を着実に推進し、治療法のない患者に新たな個別化医療を提供するべく、産官学の関係者が幅広く分析・活用できる体制整備を進める」ことも盛り込まれた。これまで、デジタル化の遅れが指摘されてきた医療・介護分野のデジタル化も一気に加速することとなりそうだ。

◎財政再建明記は避けるも「社会保障と財政の持続可能性に係る構造的な問題」指摘

財政再建をめぐっては、新型コロナウイルスの感染拡大で歳出が膨らみ、財政規律が緩むことを懸念する声もあるが、基礎的財政収支（プライマリーバランス）の2025年度の黒字化目標などの明記は避けた。ただ、「社会保障と財政の持続可能性に係る構造的な問題がある」と指摘した。

このほか、医薬品関連では、新型コロナウイルス感染症の根本的な解決に向けて、「有効な治療薬やワクチンの開発・普及を世界の叡智を結集して一気に加速する」ことを明記した。また、第１波の到来で医薬品原薬の確保など、課題が明るみになるなかで、「感染症の拡大の影響により脆弱性が顕在化したことを踏まえ、生産拠点の集中度が高いもの等について、国内外でサプライチェーンの多元化・強靱化を進める」ことを明記。「医療現場で必要となる感染防護具や医療機材、医薬品原薬等の確保・備蓄、国内生産体制の整備を進める」ことも盛り込んだ。

◎規制改革実施計画　スイッチOTC選択肢拡大　20年度中に措置

同日閣議決定された「規制改革実施計画」では、「一般用医薬品（スイッチOTC）選択肢の拡大」を明記。既存の厚労省内の検討体制を見直し、厚労省内に新たに部局横断的な体制を構築することを検討することなどを20年度中に措置することを明記した（関連記事）。