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小林化工・小林社長が会見 申請時の虚偽記載は「特許切れ後すぐ承認が目的」 営利に走った結果

公開日時 2021/04/17 11:00
小林化工の小林広幸代表取締役社長は4月16日、福井県あわら市の本社で会見を開き、申請書類の一部に虚偽の記載があったことなどから、12品目の製造販売承認が通り消される見通しであると発表した。これまでは製造部門での不正が報告されてきたが、新たに研究開発部門でも不正が見つかったことになる。小林社長は問題が起きた原因について、「有望なジェネリック製剤については、多くのメーカーが製造販売に向けて開発に凌ぎを削る中で、特許切れ後すぐに承認をとろうとしたことがこうした不適切な行為の背景にあった」と営利に走った結果であることを認めた。ガバナンスの欠如が指摘されるなかで、自らの進退にも改めて触れ、「解決への道筋をつけたうえで、なるべく早い段階で辞任ということを考えている」と述べた。

◎「売り上げがないと生き残れない」-。出荷優先の意識が全社にあった 小林社長


「製薬企業としてある程度の売上高がないと生き残っていけないという判断があって、売上を中心とした出荷を優先するという意識が全社的にあった」―。GMP違反に加え、GCP違反も明らかになり、製薬企業としてのガバナンスが強く問われる事態に発展している。小林社長は一連の問題について会見でこう語った。

◎特別調査委員会 全135ページに及ぶ「調査結果報告書」(概要版)を公表


この日の会見には、外部有識者3名で構成する「特別調査委員会」が実施した調査結果報告書(概要版)が公表された。社員・退職者89人へのヒアリング、フォレンジック調査(役職員のPC、メール、サーバー等)、全従業員848人を対象としたアンケート調査、通報窓口の設置-などを20年12月17日~21年4月15日まで実施。収集した情報を精査・分析した。調査結果報告書の概要版は全135ページに及ぶ。

◎生産部門だけでなく研究開発部門でも不正が横行 社員の申告で発覚


イトラコナゾールへの睡眠薬の混入をきっかけに、承認内容と異なる医薬品の製造や二重帳簿の作成、品質試験結果の捏造が数百品目に及んでいることがすでにわかっていた。しかし、調査委員会が調査を進めるなかで、生産部門だけでなく、研究開発部門でも不正が横行する実態が明らかになった。社内でコンプライアンス体制刷新を目的としたタスクチームの立ち上げに向けた準備に動くなかで、候補者の一人から申告があったことが発覚のきっかけだった。

◎承認申請での違反実態 安定性試験の日付改ざん 「承認申請の遅れ回避」が目的


今回、新たに明らかになった承認申請での違反は大きく分けて、①安定性試験の日付を改ざんし、申請書類に虚偽の記載をしたこと、②承認申請書に記載された製造方法とは異なる製造方法で製造した製剤を使用して安定性試験を行い、重要な事実を記載していなかったこと―だ。安定性試験については最低でも6か月間の期間が必要だが、十分な時間が残っていない場合には6か月間たっていないにもかかわらず、製剤を取り出したうえで試験を実施していた。2019年2月に承認申請されたセレコキシブについては承認書と記載の異なる方法で製造された製剤で安定性試験が実施されていたことも判明している。

この理由について、報告書では、「他のジェネリック医薬品の製造販売業者よりも承認申請が遅れてしまうことを回避することにあった」と指摘した。特に売上規模の大きい製品には、数多くのジェネリックメーカーが参入するため、競争が激しい。「承認申請の遅れは、他の製造販売業者に市場シェアを奪われることを意味しており、予定通りに承認申請を行わなければならないとのプレッシャーは、薬事分析部に重くのしかかっていた」と指摘した。こうした事実は、研究開発本部長を務める総括製造販売責任者(総責)も把握していたという。報告書ではヒアリングに対し、総責が「共同開発先との関係を考えると、安定性試験が終了しないので、一番早い承認申請を諦めるという選択肢は取りえなかった」と述べていることも記載されている。

GCP上で作成が求められているが、承認申請の際にPMDAへの提出が義務付けられていない書類については作成を怠っていた。PMDAの実地調査の対象となる製品が決まると、後付けで作成することが頻発していたという。医療機関に対する監査も、初めて治験を依頼する際に実施して以降、実施されておらず、監査証明書などで虚偽の書類が作成されていた。
試験データについても、規格外の結果が出た試験結果を破棄し、再試験の結果のみを記録していた。

◎GMP違反で新たな事実 20年10月に赤色異物混入が発生 逸脱報告されず

GMP違反についても、新たな事実が明らかになった。2020年10月には製品に赤色異物が混入する事故が発生していたことが判明した。機械の洗浄不足が原因とみられるが、逸脱報告はされず、目視で赤色異物が除去された。逸脱報告をしなかった理由については、「逸脱報告を行うことで、問題となった機械の使用が相当期間できなくなり、他の製品の製造に大きな遅れが発生し、現場にさらなる負荷がかかることを懸念した」としている。異物の混入は半年に1、2回程度の頻度で発生したとの証言もあるという。

◎「製造現場は、依然として出荷スケジュールに追われ、逼迫した状況に陥っている」


承認書と齟齬のある製造実態があった品目は、矢地第一工場で131品目、清間事業所で52品目あった。これらの品目では現場フローに基づいた作業が実施され、正規の書類である製造指図・記録書には架空の製造記録が記載されていることが常態化していた。また、一部の試験については実施されていなかった。こうした背景には、出荷スケジュールを優先する企業姿勢がある。報告書では、「製造現場は、依然として出荷スケジュールに追われ、逼迫した状況に陥っている」と指摘している。

◎品質管理試験の承認書との齟齬142品目「回収は極力回避するとの暗黙の了解が」


また、品質管理試験が承認書と齟齬する方法で行われていたのは142品目にのぼった。元品質管理責任者(品責)は、ヒアリングで「当時、小林化工には製品の回収は極力回避するとの暗黙の了解があり、皆製品の回収をすることに心理的な抵抗を感じている」と話したという。試験で規格外の結果が出ても“試験室エラー”として、再試験を実施するように上長から指示されていた。繰り返し指示を受けるなかで、試験室エラーとして処理することへの抵抗が薄れた人もいるという。客観的科学的に分析し、品質を確認するという品質管理部の責務を果たしているとは言い難い現状であることも浮き彫りになった。そして、長年にわたるGMP違反が続くなかで、イトラコナゾールへの睡眠薬の混入が起きた。

◎外部有識者の指摘 経営陣の自覚欠如と誤ったガバナンス 社長がイニシアチブ発揮せず


「小林化工が違法状態から脱却し、真っ当な製薬企業として再出発するためには、代表取締役社長のイニシアチブが不可欠であったが、製造現場の抱える問題は、総括製造販売責任者を始めとする薬機法上の役職者に“丸投げ”されているに等しい状態であったと言わざるを得ない」―。報告書で問うたのは、小林社長をはじめとした経営陣の自覚の欠如と、製薬企業としての誤ったガバナンスだ。

承認書の齟齬については2005年の改正薬機法の施行、16年の化血研の業務停止命令を受けた一斉点検など、正すチャンスは何度もあった。小林社長自身が05年4月から総責を務めるなかで、「当時あった約200品目のうち6から7割の製品について、承認書との間に何らかの齟齬があるという状態だった」、「承認整理、すなわち終売に向けた動きを取らざるを得ない製剤が100余りあったと思う」と話している。当時、承認整理や一変申請などを通じて段階的に齟齬を解消するとの決定に小林社長自身も関与していた。しかし、研究開発本部が新製品の開発に追われるなかで、一変申請は後回しにされた。小林社長は一方で、「承認整理すると決めた段階で、終わった問題だという感覚に陥っていたと思う」とも述べている。報告書では、「当時の経営陣の判断は、承認書と齟齬のある製造実態を隠蔽し、当面温存するとの決定をしたとの評価を免れられない」、「小林化工の経営陣は、医薬品を製造販売しているという自覚が著しく欠如していた」と指摘している。

◎経営陣のGMP、GQPに対する無関心・無責任体質 違法状態を長年存続させた


さらに、「代表取締役就任以降は、営業活動や渉外活動に注力をしており、製造現場の管理は、生産本部長を 始めとする 部下に任せていた」、「代表取締役社長 は、 GQP 及び GMP に不適切な影響を及ぼすことのないよう、一線を引いておく方が望ましいと考えており、敢えて製造現場の管理を部下に任せていた」 などと小林社長は話している。報告書では、「この認識は根本的に誤り」と断言。経営陣がGMPやGQPに無関心、無責任であることが、違法状態を長年存続させた要因であると断じた。

◎事件発端の睡眠導入剤混入事件 「決してヒューマンエラーではない」と断言


不正の発端となった経口抗真菌剤イトラコナゾール錠への睡眠導入剤混入事件に際し、発覚当初から小林社長は“ヒューマンエラーが原因”との発言を繰り返し強調してきた。しかし、今回公表された調査報告書では、「決してヒューマンエラーではない」と断言。「代表取締役社長および総括製造販売責任者を中心とする小林化工の経営陣が直ちに抜本的な措置を講じることなく、放置していたことが根本的な原因と言うべき」とも指摘している。

◎総責 製造現場は限界を迎えていた「中期経営計画は絵に描いた餅」 社長と認識に祖語も


国の後発品使用促進策の風に乗り、小林化工は2000年代初頭から急成長を遂げてきた。2018年度に策定した中期経営計画は、20年度の目標として売上高320億円、生産数量32億錠を掲げた。総責は、製造現場は限界を迎えていたとの認識を示し、「中期経営計画は絵に描いた餅であった」としている。

一方で、小林社長はヒアリングで、中期経営計画の数値目標は、「決して非現実的なものではなく、目標達成に向けた設備投資も十分に行ったうえでのものだ」としており、認識に齟齬もみられる。人員不足も指摘されるが、小林社長は会見で、「工場に見合った人員は必要だと思っていた。社内で人的抑制をしたということはない」と述べた。一方で、「各部門から要請があって初めて雇用したという状況だった。現場の状況を十分把握できていなかった」とも語った。

◎調査報告書「再発防止策という用語はそぐわない」 新たに生まれ変わることを提言

報告書は、「小林化工に対する提言には、再発防止策という用語はそぐわないものと考えている。小林化工に必要なのは、再発防止策ではなく、製薬企業として新たに生まれ変わることだと考えている」と提言。製薬企業としてのガバナンスや従業員教育の重要性などを指摘した。

◎外部有識者・清原氏「事態はかなり低レベルの話だと感じている」

清原孝雄氏(薬学博士・元独立行政法人医薬品医療機器総合機構専門委員)は、「正直、今回起きた事態はかなり低レベルの話だと感じている」と述べたうえで、全社的にGMPやGQPについてのガバナンスを再構築すべきだと話した。

◎外部有識者・三村氏「ルールや手順に従って物(医薬品)を作るという認識が薄かった」


三村まり子氏(西村あさひ法律事務所・弁護士)は、「ルールに従う、手順に従って物を作ることでよい薬ができるという認識がそもそも薄かった。従業員の方々が悪いと思ってしたのではなく、知らなかった、教育がなされていなかった」との見方を示した。

◎外部有識者・平尾氏「GMP,GQPの三役の再生で生まれ変わりは必要」ただ再生は難しい


平尾覚氏(西村あさひ法律事務所・弁護士)は、「小林化工は製薬企業、会社としてのガバナンスが機能していなかった。経営陣、GMP,GQPの三役の再生という言葉をあえていったが、抜本的な生まれ変わりは必ず必要だ。それなしに小林化工が再生するというのは難しいと考えている」と表明。そのうえで、「正しい仕事をしたい、きちんとした薬を作って患者に届けたいという想いを抱いている人がいるのも事実だった。かつての自分の判断、考えの甘さということについても見識を深めているということも事実だ。真剣な検討を進めていくのであれば、それは立て直していくことが可能だろうと感じている。そうなってほしいと思うのも事実だ」と話した。

◎小林社長 「これまではガバナンスが守られていなかった」と反省の弁


小林社長は会見で、「これまではガバナンスが守られていなかった。根本的な精神としてはまずは、品質ありき。有効性、安全性で品質が担保された医薬品を作るという意識を全社員が持って取り組んでいくことが必要だと感じている」と述べた。(望月英梨)

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