厚労省医薬局監視指導・麻薬対策課の佐藤大作課長は本誌取材に応じ、ジェネリックメーカーを中心に相次ぐ行政処分の根底にある問題として、ジェネリックの「上流問題」を指摘した。市場競争が激しい中で、新規品目の十分な技術移転を行わないまま、発売を優先する「拙速な技術開発・検討」があったと強調する。116日間の業務停止を受けた小林化工は、品質問題だけでなく、申請書類の一部に虚偽記載があったことが報告されており、いわゆる“上流問題”のあった企業の典型例と言える。「小林化工だけでなく、他の企業も共通の問題を抱えている」と指摘する佐藤課長。第二の小林化工を生み出さないためにも、製薬企業の行動変容に加え、後発品の承認時のGMP査察の強化が必要との考えだ。佐藤課長に話を聞いた。(望月 英梨)
佐藤課長のインタビューの一問一答は、Monthlyミクス2月号(2月1日発行)に掲載しています。
◎「常に誰かに見られているという意識を」 もっと気を引き締めてほしい
「世間の信用を損ねることをしてはいけない。正直で、かつオープンであり、常に誰かに見られているという意識をしっかり持っていただきたいと常に申し上げている」と強調。「世の中に不信感を持たれている状況であるにもかかわらず、製薬企業が作る薬がないと医療は成り立たない。不信感はあるけれども、モノがほしいためにユーザーは製薬企業に怒りをぶつけることは難しい状況になっているのではないか。だからこそ、製薬企業にはもっと気を引き締めてほしいと思っている。処罰を受けないためにどうするか、まずは考えるべきだ」-。ジェネリックメーカーを中心に行政処分が相次ぐ中で、こう佐藤課長は協商する。
製薬業界からは、行政処分が相次ぐ理由として、承認事項の一部変更申請(一変申請)の手続きの煩雑さを指摘する声もあるが、「“ルールが悪いから、従えない”との意識があるように映る。まず、製薬企業には安定した品質を確保した医薬品を本当に作れているのか、問いたい」と厳しい姿勢を示す。
◎不正の根底に「拙速な技術開発・検討」 「ジェネリックの世界で技術移転は十分にできているか」
ジェネリックメーカーを中心とした相次ぐ行政処分の根底に潜む課題とは何か。佐藤課長は、“上流問題”を指摘する。実際、行政処分を受けた企業の第三者調査委員会の調査結果では、「実際の製造の準備を行う段になって、規格通りの製品を製造することができない」、「製造開始時における製剤開発や工業化検討が不十分」などの指摘があがっている。
佐藤課長は、「特にジェネリックの世界では、技術移転が十分できているのかという課題があると考えている」と話す。「一つは、リバースエンジニアリングの話になるが、先発メーカーの技術と同等の技術を実現できているか。もう一つは、承認を取得する際に、商用生産のためにスケールアップした場合であっても製造工程の堅牢性が保証できるよう、十分な技術移転がなされ、データとして保証できているのか。これをジェネリックメーカーがどこまでできているかが、根本的な問題と考えている」と指摘する。
最終製品が見た目上、同じものであっても、「検査データをごまかしたり、製造プロセスを許可なく変更したりして違う部分をリカバーすることが起こり得る」と説明。「ひとことで言えば、“拙速な技術開発・検討”ということになるが、法令違反や隠蔽の上流に、製造管理上の根本的な原因を共通に抱えているのではないか。発売を優先し、スケジュールから逆算したタイトなスケジュール感で技術移転しようとすることによる蓄積した課題に加え、少量多品目生産のなかで、何かトラブルが起きたときに振り返る時間的にもキャパシティー的にも余裕がない。このため、適切な問題解決対応をせずに済まそうとしたり、隠蔽したりする方向に向かってしまうのではないか」と強調する。
◎「小林化工だけでなく、他の企業も共通の問題を抱えている」
こうした問題を起こした事例としては、行政処分を受けた小林化工が記憶に新しい。特別調査委員会の調査では、品質問題に加え、申請書類の一部に虚偽の記載があったことも明らかになった。佐藤課長は、「根底に潜む課題として、小林化工だけでなく、他の企業も共通の問題を抱えているのではないか。少なくとも、行政処分を受けた企業の第三者調査委員会の報告書では同様の指摘があがっている」と指摘する。「なぜ、承認書通りに製造できないのか。承認前段階から技術移転が十分にできていないケースもある。製造販売業者側も十分に見ていない可能性もある。また、我々規制側も十分にチェックできていない可能性もある」との課題認識を示す。
◎GMP調査経験少ない都道府県で強化が必要 品質問題の予防、発見に重点
このため、薬事監視の観点からは、「後発品の新規品目の承認時のGMP査察において品質問題の予防、発見に重点を置こうと考えている。そのためには、GMP査察におけるモノの見方を強化する必要がある」との考えを示す。
GMP調査の主体は、制度導入当初は都道府県だったが、02年の薬事上改正で新薬はPMDAへと変更されている。後発品のGMP調査は都道府県が主体となって実施されているが、都道府県間で格差が生じていることも指摘されている。佐藤課長は、「工場の数も多く、GMP調査員の多い都道府県では、査察の機会も多く、経験を積むことができる。一方で、調査対象施設が少なく、査察の経験が乏しく、調査員を十分に教育する機会のない県もある」と指摘。「GMP管理体制強化等事業の枠組みで、都道府県調査員の教育・訓練などの支援を行っているが、都道府県内での人事異動もあり、限界がある」との見解を示す。
そのうえで、「新薬だけでなく、後発品の“上流問題”が指摘される中で、上市段階などはリスクが高いことも懸念される。工場の数が少ない都道府県でも、大手ジェネリックメーカーが製造所を有するケースもある。このため、現在都道府県が主体となって調査している品目であっても都道府県の体力に応じて、査察体制をサポートする必要性もあるのではないかと考えている」と話す。具体的な手法については、「PMDAが有する専門的なノウハウを活用して調査能力を補強するという考え方もあれば、余力のある都道府県がサポートするという考え方もあるかもしれない。いずれにしても、皆で方策を考えることが必要だ」と対策の必要性を強調する。
◎品質問題は「人災」 経営者は「些細なことと思わず責任持った対応を」
一方、「製薬企業側にも、しっかり上流問題を意識してほしい」と話す佐藤課長。「人に投与するという責任を持ち、誰に見られてもおかしくない行動をしていることが大事だ。それができる企業でなければ生き残ってはいけない。上流の段階から厳しい査察が入り、企業が課題を解決できていなければ乗り越えられない仕組みになっていけば、簡単な参入は難しくなり、自ずと企業数も淘汰されるのではないか」と見通す。
医薬品の副作用などと異なり、「品質などの不良・不正は、人が起こした事故で “人災”と言える」と指摘。「経営者の方には気を付けていただきたい。品質トラブルや自主回収など、品質に関連する問題を些細なことだと捉えずに、責任をもっていただきたい。一歩間違えれば小林化工のような問題が起きてしまう。皆さんには本当に考えていただきたいし、そのために法令遵守が必要だ」と改めて強調した。
◎次期薬機法改正は責任役員変更命令も焦点に
このほか、次期薬機法改正に向けた議論もスタートする中での検討課題についても言及した。厚労省は昨年12月、胃腸薬・テプレノンカプセルの不正が薬機法違反に相当するとして、沢井製薬に対し、総括製造販売責任者(総責)の変更命令を行った。佐藤課長は、「今回の事案は、長年にわたる問題を検知できなかったシステムの問題だと指摘している。品質保証はシステムだ」と話す。
総責の変更命令を行った理由の一つとして、「不正行為が継続的に行われていたにもかかわらず、これを検知できる体制を構築せず、品質管理業務を適正に行わなかった」ことをあげているが、「総責は品質保証のシステムを代表している。現場の人だけを切り捨てるのではなく、システムの責任者を処分するという考えだ」と話す。一方で、19年の薬機法改正では責任役員の変更命令を盛り込むことが見送られたことに触れ、「金融商品取引法には役員解任命令がある。これも参考に次期薬機法改正では再度検討の俎上に載せたいと考えている」とも話した。