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厚労省 官民対話に「医薬品産業ビジョン2021」(案)を提示 製薬業界の要望「ほぼ反映」眞鍋日薬連会長

公開日時 2021/08/25 05:00
厚生労働省医政局経済課は8月24日の官民対話に、「医薬品産業ビジョン2021」(案)を提示した。自民党PTや製薬業界などの意見を踏まえ、今後5~10年を視野に入れ、①世界有数の創薬先進国として、革新的創薬により我が国の健康寿命の延伸に寄与するとともに、医学研究や産業技術力の向上を通じ、産業・経済の発展に寄与する、②医薬品の品質確保・安定供給を通じて、国民が安心して良質な医療を受けらえる社会を次世代へ引き継ぐ―姿をビジョンとして打ち出した。これらのビジョン実現に向け、「投資に見合った適切な対価の回収の見込みが重要」と明記した。日本製薬団体連合会(日薬連)の眞鍋淳会長(第一三共代表取締役社長兼CEO)は、「我々の要望は、ほぼ取り込んでいただいた」と述べた。厚労省経済課は引き続き調整を行い、早ければ8月末にもビジョンを正式に公表する見通し。

2013年以来、8年ぶりの改訂となる医薬品産業ビジョンは、この間の製薬産業を取り巻く環境の変化を踏まえたものとなった。RWDの利活用やサプライチェーンのグローバル化などの創薬環境や供給環境の変化に加え、2021年度から導入された毎年薬価改定で、製薬産業は大きな打撃を受けた。一方で、新型コロナの拡大が続くなかで、新型コロナのワクチンや治療薬など革新的新薬への国民の期待感は高まっている。こうしたなかで、策定される医薬品産業ビジョンは、創薬環境を整備し、内外資問わず、投資を呼び込むことで、革新的新薬創出を強力に後押しする内容となっている。

ビジョンでは、革新的新薬創薬、後発医薬品、医薬品流通に焦点を当て、経済安全保障の視点を加えた産業政策を展開する必要性を強調。薬価については、“透明性・予見性”の重要性を強調した。革新的医薬品の創出には、「投資の回収の見込みが重要」と指摘。研究開発資金のほか、安全性リスクや新たな創薬への投資費用なども必要になるとした。ワクチンについては、定期接種化プロセスの効率化の実施や緊急時の国による買い上げ制度、プル型インセンティブの導入などを検討することも盛り込んでいる(本誌既報)。

◎「革新的新薬創出」と「品質確保・安定供給」をビジョンに示す


ビジョン策定に際しては、製薬産業の意見を聞いたほか、自民党の社会保障制度調査会「創薬力の強化育成に関するプロジェクトチーム(PT)」(橋本岳座長)で議論がなされてきた。ビジョン案は、8月4日に開かれた自民党PTで、厚労省として医薬品産業のビジョンを明確に示したうえでバックキャストする必要性を指摘する声があがったことなどを踏まえて修文された(関連記事)。医薬品産業ビジョン2021には、「医療と経済の発展を両立させ、安全安心な暮らしを実現する医薬品産業政策へ」と副題を付けた。

また、「医薬品産業政策が目指すビジョン」を追記。国民の健康と成長を守り、我が国の経済成長を支える観点から、内外資を問わず、①世界有数の創薬先進国として、革新的創薬により我が国の健康寿命の延伸に寄与するとともに、医学研究や産業技術力の向上を通じ、産業・経済の発展に寄与すること、②医薬品の品質確保・安定供給を通じて、国民が安心して 良質な医療を受けられる社会を次世代へと引き継いでいくこと―をビジョンとして示した。

◎政府の司令塔機能は「引き続き議論」

こうしたビジョン実現に政府としての司令塔機能を求める声もあがったことを踏まえ、厚労省の体制を強化する必要性に言及。厚労省と関係省庁との間で「引き続き議論する」ことも明記した。

◎実務者レベルでの官民対話WG立ち上げへ ビジョンフォローアップのKPIを検討

フォローアップのためのKPIも設定。「グローバル売上高上位100品目に占める日本起源医薬品の数」、「グローなる売上高上位品目についての日本市場の上市順位と、上市までのタイムラグ」、「日本企業の海外売上高」などを参考として示した。今後、実務レベルでの官民対話を立ち上げることも盛り込んだ。まずは、官民でKPIの設定に取り組む考えで、継続的にKPIを把握しながら、求められる改革や支援などを継続的に議論していく方向性を示した。

◎ビジョン実行に”官民共同”の必要性の声


会議冒頭で田村憲久厚労相は、「医薬品は国民の命、健康を守るとともに、経済の活動を支える重要な役割、産業としても重要な意味合いがあろうと思う。今後とも、革新的な創薬や医薬品の安定供給を通じて医薬品産業が日本社会に貢献いただけるよう、官民での協力体制を構築する」と述べた。

ビジョン案が業界の意見や要望を踏まえた内容となっていることから、製薬業界からは歓迎する声が相次いだ。欧米製薬団体からは、“内資外資問わない”内容となっていることを支持する声もあった。日本製薬工業協会(製薬協)の岡田安史会長(エーザイ代表執行役COO)は、社会保障費抑制の調整弁として薬価が活用されていることにも触れ、「医薬品産業の成長が日本経済を成長させる、将来を支える、国家戦略として医薬品産業戦略が講じられていくべきだ。国と産業界がスクラムを組んでいかないと、ライフサイエンス分野での日本の立ち位置はさらに薄れ、世界から立ち遅れてしまうと思う。そのような観点で官民一体となって医薬品産業ビジョンを実行に移していきたい」と述べた。

◎ジェネリック 品質確保・安定供給で医療現場・患者に信頼され選択されるビジネスモデル確立を


焦点となった品質確保・安定供給の重要性についてビジョン案では、ジェネリックメーカーに対し、「品質確保・安定供給の取組・担保状況の評価なども踏まえて、医療現場・患者に信頼され選択されるといったビジネスモデルを確立していく必要がある」とした。また、製造販売業は品質確保と安定供給について「最終責任を負う主体」と指摘。共同開発などであっても、「製造所の実態を把握し、適切な GQPで製品が製造されているかを管理監督できるもののみが 製造販売業者となるべき」とした。

日薬連の眞鍋会長は、「GMP、GQP遵守などの各企業の体制強化に加え、企業と行政が一体となった施策が不可欠」との考えを表明。国内製造回帰への国の支援や、サプライチェーンの多元化に向けた薬事規制の調和、安定確保医薬品の供給を下支えする薬価制度上の対応などを求めた。日本ジェネリック製薬協会の澤井光郎会長(沢井製薬代表取締役会長)は、「製造品目数・製造量に見合った管理体制を構築できるよう、承認段階およびGMP適合性調査時の確認を徹底すべき」との考えを表明。欠品などで収載を見送るルールが厳格化されたことにも触れ、「後発品への置き換えおよび供給に支障を生じない運用をすべき」とも述べた。

◎卸連・鈴木会長 中医協での調整幅議論先行を牽制


流通については、医薬品卸の存在意義を示したうえで、商慣行による商流機能(市場価格形成)を改選する必要性を強調した。「納入価格は薬価(公定価格)を決定する重要な位置づけのもので、単なる民間契約を超えた社会的・制度的位置づけを有するものである。まず、このことについて、流通に携わる全関係者で改めて共通認識を持つことが必要」と強調した。そのうえで、「交渉段階から個々の医薬品の価値を踏まえた納入価交渉を行う単品単価交渉をさらに促進することが必要」とした。「流通コストを含めた納入価の根拠と妥当性を医療機関等に説明し、協議を尽くすことも重要」としている。

日本医薬品卸売業連業界の鈴木賢会長(バイタルネット代表取締役会長)は、「薬には尊厳性がある。薬価にも公共性と共に尊厳性がある。薬価は誰のものでしょうか、という根源的なテーマを提示したい。特に薬価制度は医薬品卸の生命線だ」と述べた。そのうえで、高額薬剤が増加する一方で、後発品が過半数を占めるなかで、「時代にふさわしい薬価制度を構築していただき、医薬品卸がこれからも地域住民の健康と生命を守れる役割が担えるようお願いする」と訴えた。

2022年度診療報酬改定で「調整幅」に議論が及ぶ可能性にも言及。「薬価制度における医薬品流通経費の負担のあり方が明確になっていないなかで、調整幅のみの議論を行い、引下げるようなことがあれば、医薬品の安定供給に重大な支障が生じる」として、調整幅の議論が先行することを牽制した。

◎榎本審議官 調整幅議論は「安定供給への配慮が当然必要」

榎本健太郎大臣官房審議官(医療保険担当)は、「イノベーションの評価と薬剤費の適正化のメリハリを利かせていくことが重要だ。薬価制改定のなかでこれまで以上に業界の意見陳述の機会を設けることを検討していきたい。あわせて、薬価算定組織の検討プロセスの透明性向上に向けて、議事録を公開する」との考えを表明した。調整幅については、「調整幅も今後の議論の対象になると考えている。安定供給への配慮が当然必要になる」との考えを示した。
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