厚生労働省が12月１日の中医協薬価専門部会で、2022年度薬価制度改革の論点のひとつに安定確保医薬品をあげた。安定確保医薬品は、安全保障上、国民の生命を守るため安定確保に特に配慮が必要な医薬品で、特に優先度の高い品目（カテゴリA）に21成分が指定されている。診療側の城守国斗委員（日本医師会常任理事）は「一律に薬価を引き上げることには賛同しかねる」と述べ、慎重な姿勢を示した。調整幅についても議論が及んだ。支払側の安藤伸樹委員（全国健康保険協会理事長）が「２％で長年やってきたが、本当にそれでいいのかどうか。上がるときもあれば下がるときもあると思う。その部分を柔軟に調整できるような調整幅の使い方やルールも今後検討したほうが安定供給のためにはいいのではないか」と述べる場面もあった。

◎安定確保医薬品　診療側でも意見分かれる

安定確保医薬品については、セファゾリンの供給不安をきっかけに問題が発覚し、検討会で議論が進められてきた。ワルファリンやシクロスポリンなど、「最も優先して取り組みを行う安定確保医薬品」として指定されている。一方で、薬価上は、不採算品再算定や最低薬価になる前の薬価を下支えする制度として基礎的医薬品がある。

診療側の城守委員は、医薬品の確保について「中間体や原薬の確保なども課題となり、総合的な対策が求められている」と指摘。「薬価制度には、不採算品再算定や基礎的医薬品の枠組みがあることから、カテゴリAについて適応の可否を検討したうえで、対応できなかった品目に限って特例的に対応を検討するべき」として、一律の薬価引き上げに慎重な姿勢を示した。

診療側の有澤賢二委員（日本薬剤師会常務理事）は、「安定確保医薬品は医療上不可欠なもので、安定確保が難しくなってきた段階で評価の検討に入るのでは遅い。国民の生命にかかわる問題ですので、切れ目ができてはいけない。基礎的医薬品など薬価上の評価の対象とすべき。カテゴリAの品目を対象とすることは妥当ではないか。あわせてG1、G2などのほかのルールとの整合性も図る必要性もある」との見方を示した。

◎長期収載品の適正化に慎重意見　後発品の不祥事件踏まえ　

長期収載品については、“さらなる適正化”を図ることも論点にあがった。診療側の城守委員は、「薬価適正化。長期収載品の薬価適正化は重々理解しているが、後発品の置き換えを促進するために累次にわたり、制度を見直してきた。しかしながら最近は販売後の供給不安を回避するために、保険収載されても発売開始日が決まらないという品目も散見されるという状況もある。後発品が収載されなければ、市場の競争原理が働かないために、長期収載品の取引価格は下がらない」と指摘。「現状、長期収載品の価格を後発品と一緒にできるだけはやくすればいいというのはなかなか難しいという側面もある」との見方を示した。

診療側の有澤委員も、「スピーディーにしすぎると、後発品メーカーがスピードについて来られず、また不祥事につながる可能性がある。長期収載品は後発品に道を譲ることが必要ではあるが、安定供給を最優先にしたうえで、スピード感が過度にならないような配慮が必要だ」との見方を示した。

一方、支払側の松本真人委員（健康保険組合連合会理事）は、「段階的な引き下げを前倒しで適用することやZ2置き換え率の水準を引き上げることは今後、継続して考えていく必要がある」との見方を示した。

後発品については、現状のルールを維持することも提案された。2020年薬価調査の結果では６月に収載された後発品の平均乖離率は18.9％であることも示されている。一方で、「もう少し細かいデータを示していただけないか」と要望した。

◎調整幅の議論で支払側・松本委員「カテゴリ別データの提示求める」

調整幅について厚労省は、「薬剤流通安定のため」としての調整幅の意義を問うた。診療側の城守委員は、「コロナ対応や後発品問題による供給不安等で、流通経費や様々な在庫管理コストが増加していることは確実だ。業界ヒアリングでも、卸の経営が危機的であるという報告もあった。調整幅は下げるのではなく、上げていただきたい状況という見解が卸からも示されたことを考えると現時点で調整幅を下げたり変動させたりということはなかなか難しい状況にあると認識をしている」と述べた。診療側の有澤委員は、「様々な役割や意義があり、薬剤流通安定のために必要なもの。現状鑑みると、設定している調整幅は変更すべきではない」と述べた。

一方で、支払側の松本委員は、「過去に市場実勢価格や乖離率の分布をカテゴリ別に出してほしいとお願いしたいと言ってきたが、なかなか対応いただけないことは残念だ」と述べ、厚労省側に詳細なデータの提示を求めた。