ヘルスケア産業プラットフォームは６月28日、今夏の概算要求を見据えた要請書を厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課の安藤公一課長に手渡した。国産の新型コロナワクチンや治療薬を創出できなかった状況を踏まえ、「高まるヘルスケア産業への期待に応え、誇りと尊厳をもって働き続けるため」に革新的新薬や医療機器創出、安定供給に向けて早期に実現が必要な施策について要請を行った。中間年改定については、「廃止、もしくは当面の間、実施を見送っていただく」ことを要請した。このほか、研究開発人材の減少が顕著になっているとして。高度な研究人材の維持・拡充に向けた施策の実現などを求めた。

要請書では、「コロナ禍における治療薬やワクチンの研究開発の遅れや医薬品等の供給不安問題は、中間年改定をはじめとする度重なる価格引き下げによる製薬産業全体の体力低下が一つの要因であることは明らか」との見方を表明。「体力低下に伴う、“イノベーション創出の源泉である研究開発人材の流出”、“安定供給にかかる人員や設備にかかる投資余力の低下”、日本市場の魅力低下に伴う“我が国に対する研究開発投資意欲の減退”、すなわち“ドラッグラグの拡大”が強く危惧される状況にある」との意見を示した。

医薬品卸についても「供給不安の需給調整業務に忙殺され、個々の医薬品の価値に基づく丁寧な価格交渉を行うことが極めて困難な状況に陥っている。このような中、薬価調査や中間年改定を強行することは、本来求められる市場実勢価格とは大きく乖離し、薬価制度の信頼性を根底から失墜させるとともに、安定供給をさらに大きく損ないかねない」との考えも示した。「メーカーやCMO等、様々な流通当事者が、原薬や生薬、原材料や燃料等の高騰に苦しみ、それらを価格転嫁することが出来ない状況にあるにもかかわらず、中間年改定を実施し、薬価の下落速度を倍加させることは、現在危機に瀕している医薬品等の安定供給や品質確保をさらに悪化させることは明らか。経済安全保障の観点からも懸念は増大している」と訴えた。

そのうえで、中間年改定が決定された時点から物価上昇や社会情勢などが変化しているとして、「我が国におけるイノベーション創出環境を取り戻し、かつ国民生活に必要不可欠である揺るぎないサプライチェーンを再構築させるとの観点から、中間年改定は廃止、もしくは当面の間、実施を見送っていただくよう」要請した。薬価や流通についての有識者検討会に、「労働者代表を加えるなど、実態把握の強化に努める」ことも求めた。

◎原薬製造　薬価引下げの影響で薬剤師確保できず　要件緩和求める

人材関連では、「ここ数年、製薬メーカー、特に先発医薬品メーカーにおいて収益性と競争力の確保を背景とする人員削減施策が続いており、この5年間で1割強の組合員が減少している」と説明。「研究開発人材の削減傾向が顕著になっており、他業種や海外への人材流出によって、我が国の創薬国基盤そのものが失われることが強く懸念される状況にある」と指摘した。そのうえで、研究者が安心して研究に没頭できる環境整備として、▽企業とアカデミアとの間での人材の相互受け入れにかかる支援制度の構築や産官学での人材交流施策等の充実（キャリア選択肢の確保）、▽アカデミア・研究機関における基礎研究に対する研究費拡充や研究員（特にポスドク）に対する給与・待遇改善のサポート（アカデミア等の研究活性化）－を求めた。

原薬・中間体等の品質管理業務の人材については薬剤師資格保有者のみが従事できるが、「原薬製造販売事業者では薬剤師の確保が財務面から極めて難しい実態がある」と指摘し、「資格業務に関する規制緩和をはじめ、実態に合った管理体制となるよう対応」を求めた。「度重なる薬価引き下げの影響等もあって、人材獲得競争力が低下しつつあり、これらの人材の獲得に苦慮しているとの声がある。品質管理や原薬製造にかかる人材の育成と確保を進めるうえでの助成制度の創設等を検討いただくようお願いする」とした。

要請は、「ヘルスケア関連産業に集う仲間の声を代表し、コロナ禍の影響も踏まえながら、革新的な医薬品や医療機器の創出と安定供給の確保、社会保障改革や国民の健康寿命の延伸等の観点から、早期の実現を目指す政策や重要度が高い政策について取りまとめを行った」としている。

なお、ヘルスケア産業プラットフォームは、UAゼンセン医薬化粧品部会(篠原正人部会長)、JEC連合医薬化粧品部会(鴻上達也委員長)、JAM医療関連労組連絡会（西口竜也代表幹事）で構成されている。