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厚労省「流通・薬価有識者検討会」初会合 日本市場の魅力向上と不確実性打破へ流通・薬価論議スタート

公開日時 2022/09/01 05:27
厚生労働省は8月31日、「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会」(遠藤久夫座長・学習院大経済学部教授)の初会合を開き、有識者全員から課題認識を聴取した。検討会では、革新的新薬のドラッグ・ラグ回避に向けた日本市場のあり方や薬価改定方式、薬価制度、流通のあり方について各構成員から意見が出された。検討会は、革新的な医薬品や医療ニーズの高い医薬品の日本への早期上市、医薬品の安定供給の観点から、現状の課題を踏まえ、流通や薬価制度のあり方について議論を進める。23年度改定を見据え、10月までに提言を取りまとめ、その後24年改定に向けて22年度中に提言を取りまとめる。製薬業界のヒアリングを踏まえ、議論を加速させる考え。

◎「革新的医薬品の投資を促すためにも経済成長率と名目GDPの伸び確保を」小黒氏

検討会では、製薬業界から日本市場の魅力低下を指摘する声があがるなかで、日本市場についての意見があがった。小黒一正構成員(法政大経済学部教授)は、「世界における日本市場の魅力を高めることがドラッグ・ラグの回避につながるのではないか」と主張。前日に開かれた日本製薬工業協会(製薬協)の岡田安史会長の会見を引き合いに、日本市場への懸念や市場拡大再算定に同意を示した。そのうえで、「革新的医薬品の投資を促すためにも、財政当局との調整が必要になるが、薬剤費の総額について少なくとも経済成長率、名目GDP以上の伸びは確保すべき」との見解を示した。

◎日本市場を魅力的にするため「先進国に比肩し得る薬価算定のあり方考える」菅原氏

菅原琢磨構成員(法政大経済学部教授)は、「残念ながら日本のメーカーのCEOと話しても、“日本で出しても良い薬価が就かないので、日本で最初に出さない”というくらい深刻な状況と認識している。未承認薬の問題は深刻だ。多くの国民はこのことを知らない。グローバルの視点でみると、17.7%は日本で使えないという状況を深刻に捉えるべきだ」と指摘した。そのうえで、「保険財政は国内の問題だが、基本的に薬の話はグローバルマーケットの話なので、良い薬を持ってくるためには日本市場を魅力的にしなければならない。先進国に比肩し得るような薬価算定のあり方を考えるべき」との考えを強調。原価計算方式に代わる新たな薬価算定方式の導入を提案したほか、市場拡大再算定に問題意識を表明。「市場拡大再算定については、すべて廃止でなく、リーズナブルな再算定はあってもよいと思う」と述べ、効能効果再算定や用法用量再算定を除く再算定の見直しを求めた。また、「将来世代に対する持続可能性のある医療保険制度には懸念材料が生まれるので一定程度の財政措置、財政の統制措置があるべきではないか」との考えを示した。

◎香取氏「市場に歪み、価格形成に問題があるとすれば、改定方式そのものに問題がある」


香取照幸構成員(上智大総合人間学部社会福祉学科教授)は、「医療用医薬品の流通の構造、基本的な市場の枠組みを決めているのは薬価制度そのものだ。市場に歪みがある、価格形成に問題があるとすれば、改定方式そのものに様々な問題がある」との課題認識を示した。

日本市場については、「低分子からバイオに基礎的技術が変わる中で立ち止まれば必ず遅れるというなかで競争が行われている。それをどれくらい意識して薬価政策が取られてきたか。これだけ日本国内の市場環境が悪いとなると、日本国内で研究開発投資をする意欲は内資も外資も低下するので、国内の研究所は次々と閉まっている。国内での薬価の値決めがこうなると、最初に上市して価格を決めるメリットはメーカー側からは何もない。十分な市場環境が整っていないのであれば、日本に上市しないことになる。21世紀の新たなドラッグ・ラグが無視できない形で実際に起こっている。画期的な医療が日本国内では受けられない事態が生じることになる」と懸念を表明した。このほか、薬価制度の透明性のなさについても指摘。「そのことによって、各メーカー、流通は予見可能性を阻害されている。経営計画、投資計画が立てられないということが起こっているのではないか」とも述べた。一方で、「医療費の最適化の努力は必要だが、統制は無理なので達成するために、連なる政策を立てるのは無理があるのではないか」と述べ、薬剤費の統制については異なる見解を示した。

◎成川氏 日本市場「ネガティブな印象ばかりもたれてしまっている可能性も」

一方、成川衛構成員(北里大薬学部教授)は日本市場について、「新薬が公的医療保険で使用できる環境は、OECD加盟国の中でも抜群の位置づけにある」との見解を表明。薬価算定ルールについては特例が多く、「相当に複雑な内容となっている」と指摘。「海外の新興バイオファーマには身近に専門家がいないので、今後日本への投資を考える際の材料がなかなかない。日本の市場がシュリンクしているというネガティブな印象ばかりもたれてしまっている可能性があると思う。そういう海外の方々に日本の魅力を伝えることを考えないといけない」との考えを示した。また、市場実勢価格主義の現行薬価制度については、「合理性があるものと理解している」との見解を表明。「新薬であっても価格でしか競争できないものは、価格が下がっても仕方ないのではないか。よって、類似薬効比較方式は合理的と理解いただいているので、その適用範囲の拡大は今後検討の余地があるものと考える」との考えを示した。

◎遠藤座長 制度改革が頻回で複雑化した「このことが将来性を不確実化している」

遠藤座長は、「日本の薬価基準制度の制度改革が頻回であり、複雑化している。このことが日本のマーケットの将来性を不確実化している。その辺のところは事実であるということ。もう一つは医薬品の経済安全保障と言った時に、どう考えるのか。世界でイノベーティブな医薬品を迅速に日本に上市してもらう、いわゆるドラッグ・ラグ解消という文脈なのか、あるいは日本のメーカーの今後の国際競争力を増強するという意味合いなのか。どちらもイノベーションというという言葉で統一されてしまう。若干違うところ。そこを分けて議論しないと薬価制度で対応できるものとそうでないものがある」と指摘。内資系企業の開発力強化については薬価制度での評価は難しいとの認識を示し、「ベンチャーの育成や産学共同、税制など別の施策で対応すべき」との見解を示した。

◎「医薬品を買う側は購買力を増すために、共同購入組織・機能を作っている」坂巻氏


ジェネリックについては、供給不安が顕在化しており、課題となっている。坂巻弘之構成員(神奈川県立保健福祉大大学院教授)は特許切れ市場での商取引が薬価引下げの一因となっているとの見方を披露。「医薬品を買う側は購買力を増すために、共同購入組織・機能を作っている。製薬企業もすべてとは言わないが、大量に購入しているところに価格を下げて買ってもらう行動をとっている」と説明した。特に、製薬企業が医療機関・薬局と直接交渉する直販ルートでは、こうした実態が多いと指摘した。「薬価の仕組み、公定価格の下で市場実勢価格が決まる中で、薬価差益が生まれてしまう。株式会社である薬局では薬価差益を強く求める行動に出るのではないか。企業側も製造力を増しながら、数量シェア80%目標の中で、価格を下げてシェア拡大を図ろうという行動をとっているのではないか」と述べた。

このほか、共同開発については、「単に規格揃えするだけの品目数、共同開発により価格がばらついて市場でどう選択していいかわからない、どこで作っているかわからない。共同開発先で、きちんとした品質管理の監督がなされていなかった」と課題を列挙した。AGについては、「先発メーカーにとってみると形を変えた、長期依存品体質」との見方も示した。

成川構成員は、「製品の価値もさることながら、それ以上に医薬品の製造販売企業としての市場への責任ある供給にも目を向けて、品質確保と安定供給のための体制や活動を下支えするような工夫が薬価上の求められるのではないか。ただ、仮に一律に価格を上乗せしても、その利益を品質や安定供給に回してもらえる補償はない。なので、日々の品質確保、安定供給を誠実におこなっている企業をどう評価するかということを考えていく必要がある。新薬とは異なるアプローチで考える必要があるのではないか」との見解を示した。


◎三村教授 後発品、非特許薬、特許薬の区分けで価格交渉の透明化を 最低薬価引き上げも


流通問題をめぐっては、三村優美子構成員(青山学院大名誉教授)が有識者検討会で議論する3つの論点を披露した。一つ目は、薬価制度上において、例えば後発品、非特許薬、特許薬の区分けについて取り扱いを分離して工夫するというもの。区分けする過程の中で薬価交渉が透明化する狙いを込めると同時に、価格交渉の負荷を下げていく必要性がると指摘した。2つ目のポイントとしては、長期収載品を含む後発品について、「その供給の安定化、健全化のための総合的施策が必要だと思う」と指摘。特に後発品については、「供給全体の採算割れの状態が放置されていることはあってはならない。合理的な根拠で最低薬価の見直し、引き上げが必要だ」と述べた。3つ目のポイントとしては、経済安全保障との関連で、「緊急時に迅速に対応できる医薬品供給スキームの制度化については、厚労省がイニシアティブをもって作ることが重要だ」と述べた。

◎三浦教授 「小規模組織の医療機関・保険薬局で単品単価取引は無理」価格交渉代行業者活用を

単品単価取引について三浦俊彦構成員(中央大商学部教授)は、「小規模組織の医療機関・保険薬局では基本的に単品単価取引は無理だと思っている」と強調。「良い面、悪い面がクローズアップされている」と前置きしながらも価格交渉代行業者の活用を提案。何らかの制度化を検討するよう求めた。ただ、価格交渉代行業者の活用をめぐっては、三村構成員が「適切ではない」と表明する場面もあった。

このほか三浦構成員は、メーカーの仕切価について、「メーカーの仕切価をそのまま納入価としている小薬局が多数あるという話を聞いた。交渉力の弱いところには仕切価でそのまま買わせるということもあるようだ。そう考えると仕切価は、卸にとっての目安価格であり、損しない価格でもある。小薬局に対しては仕切価で売っているので、高納入価になることもある」と指摘。「仕切価をやめない限り、一次売差マイナスは永遠に変わらないと思う。川下の納入価を単品単価にするためには、川上の出荷価格を(透明な)単品単価にするべきだと思う」と強調した。




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