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第一三共・眞鍋CEO 米メルクとADC3製品で戦略提携 激化するグローバル開発競争に勝ち切る経営判断

公開日時 2023/10/23 04:52
第一三共の眞鍋淳会長兼CEO(写真左上)は10月20日夜、オンライン会見に臨み、米メルク社と締結した独自の抗体薬物複合体(DXd-ADC)技術を用いた3製品の戦略提携で総額最大220億米ドル(3兆3000億円)を受け取る可能性があると強調した。米メルク社をパートナーに選んだ理由について眞鍋CEOは、ADCの開発競争がグローバルで激化している中で、「より早く、より多くの患者さんにイノベーティブな薬を届ける最善の手段は戦略的提携だと判断した」と明かした。また、メルクが強みとするキイトルーダなどで培ったがん領域での豊富な経験、専門性、高い開発力に、第一三共のADCを組み合わせることで、「最も多くの新たな標準治療を創出できる」と強調。これが米メルク社をパートナーに選んだ理由のひとつだと説明した。

◎ロバート・M・デイビスCEOから「本社で日本の国旗を立てている」とのメール受領

「今朝も(ロバート・M・デイビスCEOから)メルク本社で日本の国旗を立てているとのメールを受け取った。早く(戦略提携した)3つのアセットを患者にお届けしたいという内容だった。メルク社は第一三共の研究力を含めてリスペクトをしてくれている」-。オンライン会見で眞鍋CEOは、大型契約締結の発表に力を込めた。

米メルク社と合意した戦略提携は、第一三共のDXd-ADC技術を用いた、①抗HER3 ADCのパトリツマブ デルクステカン(一般名、以下「HER3-DXd」)、②抗B7-H3 ADCの「DS-7300」(開発コード)、③抗CDH6 ADCの「DS-6000」(開発コード)―の3製品を対象とする。日本を除く全世界で共同開発・共同販促する。今後は、ジョイントコミッティを設置して両社協議・合意のもと、開発や販売戦略を立案・実行する方針。第一三共が契約締結に伴う一時金40億米ドル(6000億円、1ドル=150円)を含む、総額最大220億米ドル(3兆3000億円)を受領する可能性がある大型の提携契約となる。

◎複数企業から提携に関するオファーあった 眞鍋CEO

眞鍋CEOはオンライン会見の質疑で、これまでに複数の製薬企業から提携に関するオファーを受け取っていたことを明らかにした。詳細は最後まで明かさなかったが、「それぞれ興味の対象や提携内容が違っていた」という。ただ、提携の誘いを真剣に考えた背景の一つには、「ADCのグローバルでの開発競争の激化がある」と語る眞鍋CEO。3製品について、「社内外の環境変化を踏まえ、自社開発と他社との戦略的提携のどちらがより早く、より多くの患者さんに薬剤を届けられるかを社内で十分に検討した」と振り返った。その上で、開発スピードの加速化や被験者獲得で競争優位に立つには戦略的提携が「最善の手段と判断した」という。さらに、自社開発より提携の方が、「より大きな企業価値、製品価値を実現できる」とも強調してみせた。

◎メルク社を選んだ“決め手” 「研究開発力に対するリスペクトが最も伝わった」

米メルク社をパートナーに選んだ理由について眞鍋CEOは、メルクが持つキャパシティ、リソース、ケイパビリティを含む高い開発力や、がん領域の豊富な経験、キイトルーダで培ったがん免疫療法に関する専門性、さらにグローバルでの事業展開などをあげ、これらに第一三共が持つADCの強みを組み合わせることで、3製品をグローバル規模で、かつ迅速に提供できると強調。新たな標準治療を創出できると判断したと語った。さらに対象3製品で総額最大220億米ドルというファイナンス面での評価に加え、「当社の研究開発力に対するリスペクトが最も伝わった」ことも“決め手”になったことも明かしてくれた。

◎開発費 1製品20億米ドルまでメルクが75%を負担

今回の提携で3製品の開発は単剤療法や併用療法について共同開発する。開発費は1製品あたり20億米ドルまでを米メルク社が75%負担する内容。それ以降は両社で折半する。奥澤宏幸社長兼COOは、「当社全体の研究開発費マネジメントに大変ベネフィシャルな契約ができたと思っている」と述べた。一方、販売は、第一三共が独占的権利を有する日本を除く国・地域で共同販促し、売上総利益と販促費等は折半する。日本では第一三共が単独販売し、米メルク社にロイヤルティを支払う。製造と供給は第一三共が担う。

◎開発マイルストンなし メルクが契約締結1年後、2年後に“後払い一時金”の支払い選択

第一三共は、契約締結に伴う契約時一時金としてHER3-DXdで7.5億米ドル、DS-7300で15億米ドル、DS-6000で7.5億米ドル――の計30億米ドル(4500億円)に加え、開発費関連一時金としてHER3-DXdとDS-7300で各5億米ドルの計10億米ドル(1500億円)を受領する。結果として第一三共は契約締結に伴う一時金として計40億米ドル(6000億円)を受領する。なお、この開発費関連一時金は、開発の早期終了などがあった場合は米メルク社に払い戻される可能性がある。

今回の契約では開発マイルストンは存在しない。メルクは契約締結の1年後にHER3-DXdの契約時一時金としてさらに7.5億米ドル(1125億円)を支払うかどうか、2年後にDS-6000の契約時一時金としてさらに7.5億米ドル(同)を支払うかどうかを選択できるスキームとなった。仮にこれらの“後払いの一時金”を米メルク社が支払わない場合、既に支払済みの契約時一時金は第一三共に留保され、対象製品の権利は第一三共に返還される。

3製品の契約時一時金は、DS-7300は契約締結時に15億米ドルを一括受領するが、HER3-DXdは契約締結の1年後に計15億米ドル、DS-6000は契約締結の2年後に計15億米ドルを受け取る可能性があることになった。3製品の契約内容の差は、現時点で得られているデータに基づくポテンシャルの違いが背景にあるのかとの質問に眞鍋CEOは、「3製品とも額を見てもらうと、(結果として)同じ額になっている。試験の進捗は各製品で異なるが、同等に評価してもらったと考えている」との認識を示した。

なお、これらの契約時一時金は、想定される独占販売期間を踏まえて、複数年度にわたり、売上収益として繰延計上する。

◎販売マイルストン 1製品ごとに最大55億米ドル

販売マイルストンは1製品ごとに最大55億米ドル、合計最大165億米ドル(2兆4750億円)を受領する可能性がある契約となった。達成年度に一括で売上収益に計上するが、達成条件は非開示。これらにより、第一三共は今回の戦略提携による受領対価として、契約時一時金(合計最大45億米ドル、後払い分含む)、開発費関連一時金(10億米ドル)、販売マイルストン(最大165億米ドル)の合計で最大220億米ドルを受領する可能性がある。

◎HER3-DXd  EGFR変異を有し前治療歴のあるNSCLC、23年度下期に米国申請予定

提携対象のHER3-DXdは、細胞の成長因子のファミリー受容体のひとつであるHER3と特異的に結合する完全ヒト型モノクローナル抗体と薬物DXd(トポイソメラーゼI阻害薬)をリンカーを介して結合したADC。複数の開発プロジェクトがあるなか、EGFR変異を有する前治療歴のある非小細胞肺がん(NSCLC)を対象疾患に23年度下期に米国で申請を予定している。

◎DS-7300は進展型小細胞肺がんでP2 DS-6000は卵巣がんでP1

DS-7300は、B7ファミリーに属する免疫調節分子のひとつであるB7-H3と特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体と薬物DXdをリンカーを介して結合したADC。前治療歴のある進展型小細胞肺がんを対象疾患に日本を含むグローバルで第2相試験を実施している。

DS-6000はCDHファミリーのメンバーで細胞接着、上皮間葉転換(EMT)、転移に関連しているとされるCDH6と特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体と薬物DXdをリンカーを介して結合したADC。卵巣がんや腎細胞がんを対象疾患に日米で第1相試験段階にある。
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