日本医師会の松本吉郎会長は５月22日の定例会見で、骨太方針に向けて保険外併用療養の一部拡大が検討される中で、「混合診療とは全く異なるものだ」と改めて強調した。標準治療前のがん遺伝子パネル検査などの最先端医療について保険外併用療養を適用することについては、「保険外併用療養費制度は、時代に応じて一定程度柔軟な運用も必要かと思う」と理解を示した。一方で、混合診療については、「所得や資産の多寡により受けられる医療に差をつけるものであり、我が国の医療を根底から覆し、世界に冠たる国民皆保険制度を崩壊させるものだ」と指摘。「国民の理解を得られず、日本医師会としても到底受けられるものではない」と断じた。

保険外併用療養の一部拡大をめぐっては、自民党の新しい資本主義実行本部経済構造改革委員会ヘルスケア・トランスフォーメーションプロジェクトチームが骨太方針に向け、有効性評価が十分ではないがん遺伝子パネル検査や再生医療等製品などについて、保険外へ医療療養制度の柔軟な運用を求める提言を取りまとめる方向で検討を進めている。また、民間保険の活用など、混合診療についての議論を求める声も一部にある。

◎混合診療は　所得・資産で受けられる医療に差「国民皆保険制度を崩壊させる」

松本会長は保険外併用療養と混合診療を混同されている人が一定数いると指摘。そのうえで、混合診療について、「市場開放を志向する混合診療は、保険診療の範囲を制限して患者負担が増えても構わないという考え方に基づく。すなわち、所得や資産の多寡により受けられる医療に差をつけるものであり、我が国の医療を根底から拡大し、世界に冠たる国民皆保険制度を崩壊させるものだ」と強調。「混合診療は国民の理解を得られず、日本医師会としても到底受けられるものでは受けられるものではない」と述べた。

◎保険外併用療養「時代に応じて一定程度柔軟な運用も必要」

一方で、保険外併用療養については、「国民皆保険制度の中で保険診療を平等に提供することを原則としつつ、イノベーションの進展に伴い、新たに開発された医薬品や高度な医療技術を一定のルールの下で、患者が自己負担によって活用できるもの」と説明。特に、評価療養については「安全性・有効性の確保を担保として、将来の保険収載を前提としている」と説明。「保険外併用療養費制度は時代に応じて一定程度柔軟な運用も必要かと思う」との考えを表明。「患者さんの健康・生命に資するということであれば、議論は反対しない」とも述べた。

◎財政審建議　医師の偏在対策を解決する「魔法の杖はない」　

財務省の財政制度等審議会が21日に取りまとめた建議についても改めて日本医師会としての見解を表明した。財政審は医師の偏在対策として、「診療所の報酬適正化に加えて、地域別診療報酬を活用したインセンティブ措置を検討する必要がある」などと指摘し、都市部など診療所過剰地域における診療報酬点数単価を引下げることなどを提案している。松本会長は、「医師の数は各地域の人口に応じて現在の形に落ち着いているものだ。診療所の過不足の状況に応じて診療報酬を調整する仕組みは、我が国の人口分布の偏りに起因するものであるにもかかわらず、診療所に責任を負わせ、あたかも医療での調整をさせるような極めて問題の多い提案だと思う」と指摘。財政審の提言について、「医療現場の感覚からは甚だしく乖離しており、人件費や物価が高い都市部の単価を下げるといった典型的な机上の空論であると思う。国民の生命と健康を守る立場である日本医師会としては容認できない」と強調した。

医師の偏在については、「医療費財源と同様に一つの手段で解決するような魔法の杖は存在しない。あらゆる手段を駆使して、複合的に対応していく必要があると考えている」との考えも示した。

◎社会保障費の伸び抑制に「人件費に上限を設けるようなもの」

財政審が「規律ある歳出の目安の下で歳出改革の取組を継続すべき」と主張。社会保障関係費の伸びを高齢化による増加相当分に抑制する方向性を堅持するとしている。

これに対し、松本会長は「医療の高度化等を勘案しない歳出の目安を続けたことによって、我が国の医療水準は論文数などで諸外国に後れを取りつつある。歳出の目安は、政府がコストカット型経済からの脱却を目指している中で、人件費に上限を設けるようなものであり、政府が重要性として位置付ける賃上げを欺くものであると思う」との見解を改めて表明。「デフレ下の遺物であり、インフレ下では税収も保険料も増加、収入も増加することを考慮すべき」と強調した。