中医協 25年度薬価改定で焦点の安定供給 不採算品再算定で支払側・松本委員「特例繰り返すべきでない」
公開日時 2024/12/05 07:30
中医協薬価専門部会は12月4日、2025年度薬価改定について議論を行った。2024年薬価調査の結果が明らかになる中で、診療・支払各側から“イノベーションと安定供給”を基本方針として維持する必要性が指摘された。円高や物価高騰が続くなかで、22年度、23年度と2年連続で実施された不採算品再算定が導入されたものの、供給状況が改善された品目は一部にとどまっており、“効果”に対する懸念があがっている。支払側の松本真人委員・健康保険組合連合会理事)は、「不採算品に対する特例的な対応はこれ以上繰り返すべきではないということも強く主張する」と釘を刺した。 今後、業界ヒアリングを踏まえ、さらに検討を進める方針。
薬価改定の方向性については、診療・支払各側から「これまでのイノベーションの推進と安定供給という方針を維持しつつ、メリハリをつけた改定を行うとともに、医療の質が下がることのないよう十分に配慮し、現状に即した合理的な判断を行うべき」(診療側・長島公之委員・日本医師会常任理事)、「医療保険制度の持続可能性を前提としつつ、イノベーションの推進や安定供給の確保に向けた対応を行うためには、薬価制度全体のバランスが重要」(支払側・松本真人委員・健康保険組合連合会理事)との声があがった。
◎不採算品再算定 改定対象限定的なら「不採算や最低薬価に充当する財源も当然限定的」
22年度、23年度薬価改定では、医薬品の安定供給の観点から特例的に不採算品再算定が適用された。現在も円安や物価高騰の影響が続くが、不採算品再算定で対応している状況にある。また、20円未満の低薬価の医薬品の多くが限定出荷となっている状況も報告されている。一方で、厚労省が11月6日の中医協に報告したデータによると、2024年度薬価改定で不採算品再算定が適用された品目で供給状況の改善傾向が認められたのは4割程度にとどまっており、不採算品再算定の“効果”も疑問視されている。この日も、業界代表の石牟禮武志専門委員(塩野義製薬渉外部専任部長)が「悪化している例においては、不採算採算性というよりは、別の要因での悪化の要因がある」と述べ、薬価以外に課題があるとしている。
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「24年度薬価制度改革において、イノベーションの評価を相当程度充実したこと、また原材料価格の高騰やインフレへの対応について、不採算品再算定の特例を2年連続で実施したにもかかわらず、一方で効果は限定的であったこと。さらに薬価差が縮小して、メーカーや卸のコスト増が実勢価格に反映されていることもあり、企業の実績が総じて好調であることを踏まえれば、不採算品に対する特例的な対応はこれ以上繰り返すべきではないということも強く主張する」と述べた。
この日の中医協では改定の対象範囲についても議論がなされたが、「実勢価改定の範囲が限定的になれば、不採算品再算定や最低薬価品に充当する財源も当然限定的になる。薬価改定を行わない場合でも、低薬価品にのみ薬価上で対応するということはなかなか困難だ」と釘を刺した。
診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「不採算品再算定については必要な対応と考えるが、今回どのような範囲で行うのかは、多数の品目が対象となった過去2年の薬価改定による不採算品再算定の適用による供給状況の改善等を考慮しつつ、効果的な範囲も含めて、業界ヒアリングを踏まえた検討が必要」と述べた。
◎新薬創出等加算の累積額控除、G1・G2ルールは「当然適用」 市場拡大再算定も
25年度薬価改定で適用する既収載品目の算定ルールについても論点にあげた。これまでは、実勢価改定と連動するルールに適用された。支払側の松本委員は、「23年度改定で収載後の外国平均価格調整の適用実績も踏まえ、政策的な対応を含めて原則全てのルールを適用すべき」と主張した。特に、新薬創出等加算の累積額控除に言及。業界ヒアリングで“イノベーション評価と一体”と製薬業界が主張したことを踏まえ、「製薬業界からもご理解をいただいたと受け止めている」と述べた。また、後発品の実勢価改定と連動する長期収載品のG1、G2ルールについても「当然適用すべき」と述べた。また、「さらに近年、高額医薬品による財政影響が大きくなっていることを踏まえれば、市場拡大再算定の適用も検討すべき」と述べた。
一方、診療側の森委員は、「基本的に実勢価改定と連動するルールに限定すべき」と述べた。
◎後発品の企業指標 シェア3%以下の品目の占める割合でマイナスに シミュレーション求める
後発品の企業指標をめぐり、厚労省は「少量多品目構造の適正化」の観点から、新たな指標を導入することを提案した。「同一成分内でのシェアが3%以下の品目」が、同社が製造販売するすべての品目に占める割合に応じてマイナスにするというもの。企業評価はポイント制で行われるが、新たに評価に反映される「後発品の安定供給に関連する情報の公表」は公表していない場合にマイナス、「後発品の安定供給のための予備対応力の確保」を行う企業はプラス、製造計画を下回って供給する場合は品目の割合に応じてマイナスとする方針。
診療側の森委員は、「こうした評価は初めての試みであり、企業経営や安定供給などにどのような影響があるのか。また、この指標や方法が企業評価として妥当なのかなど検証しながら慎重に進めていくべき」と指摘。支払側の松本委員は、「新たな評価方法で企業の分布がどうなるのか、事務局にシミュレーションを行っていただきたい」と要望した。
◎24年薬価調査のシミュレーション 長収品は8割超、新薬創出等加算品は3割が対象に
この日の中医協薬価専門部会では、24年薬価調査によるシミュレーションも示された。いわゆる中間年改定となった21年度、23年度改定の対象範囲は、「平均乖離率の0.625倍超」で決着した。厚労省のシミュレーションによると、改定対象を“平均乖離率の0.625倍超(3.75%超)”とすると、長期収載品は88%が対象となる一方で、新薬は61%、新薬創出等加算品目は33%だった。厚労省は平均乖離率の0.5倍から1倍のシミュレーションを提示。係数により、新薬や新薬創出等加算品目では対象範囲が大きく動く一方で、長期収載品はいずれの場合も8割前後が対象となった。なお、25年度薬価改定の根拠となる24年薬価調査の平均乖離率は約5.2%で、0.625倍は約3.25%。
診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「もっと対象範囲は限定すべき」と主張。最初の中間年改定が実施された21年度薬価改定では平均乖離率が約8.0%で、5%超が改定の対象となったことに触れ、「ほぼ同等のレベルに達してしまっている」と指摘。「乖離率が縮小し、21年度改定の対象乖離率である5%とほぼ同じ乖離率になっているにもかかわらず、同じ改定対象範囲で実施することは対象範囲をさらに拡大していることと同義と考える」と指摘した。
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「例えば範囲を狭くするほど、新薬、そのうち新薬創出等加算品目が対象から外れていき、逆に後発品や長期収載に偏った改定になる」と指摘。「24度薬価制度改革でイノベーション評価の観点から、新薬創出等加算を充実し、特許期間中に薬価が維持されやすくなったことを踏まえると、新薬を含めて値引き販売されているものを最大限に幅広く対象とすべきだと強く主張する」と述べた。
◎日医・長島委員「薬価財源は医療現場へ還元すべき」 日薬・森委員「保険薬局の経営影響に配慮を」
この日の中医協では薬価改定の実施を前提とした議論が進んだが、診療側からは医療機関・保険薬局の経営に配慮を求める声が相次いであがった。診療側の長島委員(日医)は、「もし、今回改定を実施するなら、薬価財源は医療現場へ還元すべき」と強調した。
診療側の森委員(日薬)も、「大前提として、イノベーションと安定供給確保、保険薬局、保険医療機関に与える影響に十分配慮する必要がある」と指摘。特に、保険薬局では薬剤料の割合が多いとして、「調剤にかかわる医薬品の廃棄・損耗にかかる費用の捻出を極めて困難にさせことになる。また、総売上収益の減少、資金繰りの悪化にもつながる」と述べ、保険薬局の経営に配慮を求める必要性を強調した。
◎業界ヒアリング 支払側・鳥潟委員「特別に配慮する事情、あるなら具体的なエビデンスで説明を」
このほか、業界ヒアリングについて、“具体性”を求める声がこの日もあがった。診療側の長島委員が「関係業界や企業は、令和6年度薬価改定で行った薬価上の評価が、ドラッグ・ロス/ラグや供給停止の解消にどのような効果があったのか、どのような取り組みをしてきたのか。具体的に説明していただきたい」と強調した。
支払側の鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は、「ドラッグ・ラク/ロスや安定供給の問題は薬価のみで対応する問題ではなく、またこれまでにご提示いただいた資料などを踏まえると、25年度薬価改定の際に何らか特別な配慮をする必要性があるかについてはまだ十分に落ちていない。今回の薬価改定にあたって、特別に配慮すべき事情にあるかについて、具体的なエビデンスに基づき説明いただきたい」と要望した。