厚生労働省は9月19日、新有効成分含有医薬品12製品を承認した。この中にはノバルティスファーマの転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)に対するPSMAを標的とした放射性リガンド療法(RLT)・プルヴィクト静注や、日本ベーリンガーインゲルハイムのHER2遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんに対する経口HER2阻害剤・ヘルネクシオス錠、ファイザーの片頭痛発作の急性期治療及び発症抑制を適応とする経口CGRP受容体拮抗薬・ナルティークOD錠がある。
アステラス製薬の萎縮型加齢黄斑変性(萎縮型AMD)における地図状萎縮(GA)の進行抑制を適応とする補体因子C5阻害剤・アイザベイ硝子体内注射液は、条件付き承認された。日本人患者の安全性を主要な評価項目として実施中の国内臨床試験の成績を「速やかに提出」する必要がある。厚労省はこれまでに、試験成績の提出期限は2028年2月にする予定と説明している。
承認された製品は次の通り(カッコ内は一般名、製造販売元)。投与経路順及び薬効分類順。
〈新有効成分含有医薬品〉
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ナルティークOD錠75mg(リメゲパント硫酸塩水和物、ファイザー):「片頭痛発作の急性期治療及び発症抑制」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。薬効分類119。
経口カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体拮抗薬。CGRPを標的とした初の経口薬で、予防療法と急性期治療の両方の適応を持つ。用法・用量は適応で異なり、片頭痛発作の急性期治療では「通常、成人にはリメゲパントとして1回75mgを片頭痛発作時に経口投与する」、片頭痛発作の発症抑制では「通常、成人にはリメゲパントとして75mgを隔日経口投与する」となる。
国内では、抗CGRP抗体としてエムガルティ皮下注、アジョビ皮下注、アイモビーグ皮下注が「片頭痛発作の発症抑制」(予防療法)の適応で承認されている。
承認取得を受けてファイザーは、「片頭痛発作の急性期治療と発症抑制の両方に有効な経口薬が、新たな治療選択肢として加わる。片頭痛に苦しむ患者さんのライフスタイルに応じた治療選択とよりよい生活に貢献することが期待される」とコメントしている。
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ネクセトール錠180mg(ベムペド酸、大塚製薬):「高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。薬効分類218。
肝臓中のクエン酸分解酵素であるATPクエン酸リアーゼに作用することでコレステロール合成経路を阻害する新規作用機序医薬品。用法・用量は「通常、成人にはベムペド酸として180mgを1日1回経口投与する」。また、用法及び用量に関連する注意で、「HMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない場合を除き、HMG-CoA還元酵素阻害剤と併用すること」とされている。
高LDLコレステロール血症に対してはHMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)が第一選択となっている。大塚製薬はネクセトールについて、「スタチン効果不十分またはスタチンによる治療が適さない高コレステロール血症患者さんに対する新たな治療選択肢となることが期待される」とコメントしている。
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ビルベイ顆粒200µg、同顆粒600µg(オデビキシバット水和物、IPSEN):「進行性家族性肝内胆汁うっ滞症に伴うそう痒」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間は10年。薬効分類391。
経口回腸胆汁酸トランスポーター阻害剤。対象疾患の進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)は、遺伝子変異が原因で、乳児期から慢性肝内胆汁うっ滞による肝脾腫や著明なそう痒感を呈して進行性の経過をとる疾患であり国の指定難病。
用法・用量は、「通常、オデビキシバットとして40μg/kgを1日1回朝食時に経口投与する。なお、効果不十分な場合には、120μg/kgを1日1回に増量することができるが、1日最高用量として7200μgを超えないこと」。
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ボラニゴ錠10mg、同錠40mg(ボラシデニブクエン酸水和物、日本セルヴィエ):「IDH1又はIDH2遺伝子変異陽性の神経膠腫」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間は10年。薬効分類429。
変異型イソクエン酸脱水素酵素(IDH)1及び2を阻害する分子標的薬。適応とする神経膠腫(グリオーマ)は、悪性の脳腫瘍の一つ。
用法・用量は、「通常、成人には、40mgを1日1回、空腹時に経口投与する。通常、12歳以上の小児には、体重に応じて以下を1日1回、空腹時に経口投与する。40kg未満:20mg、40kg以上:40mg。なお、患者の状態により適宜減量する」。
承認取得を受け、日本セルヴィエのアントニー・マレ代表取締役は、「神経膠腫の領域では、長年にわたり治療法の進展が乏しく、がんの進行を抑えるための手術後の治療選択肢が限られている」と指摘。その上で、「ボラニゴはIDH1又はIDH2遺伝子変異陽性の神経膠腫を対象として承認された国内初の治療薬」だとし、投与対象の神経膠腫患者に「この新たな治療選択肢を一日も早くお届けできるよう、引き続き全力で取り組む」としている。
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ヘルネクシオス錠60mg(ゾンゲルチニブ、日本ベーリンガーインゲルハイム):「がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間は10年。薬効分類429。
経口HER2特異的チロシンキナーゼ阻害剤。肺がんの約4%はHER2遺伝子異常によって引き起こされるという。国内では、エンハーツ点滴静注用が「がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」の適応を持っているが、ヘルネクシオスは同適応を持つ初の経口薬となる。
用法・用量は「通常、成人には、1日1回120mgを経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する」。
今回の承認を受け日本ベーリンガーの荻村正孝代表取締役 医薬事業ユニット統括社長は、「治療の選択肢が限られている患者さんに、一刻も早く新たな治療選択肢を届けるべく、開発ペースを引き上げながら取り組んできた」と振り返った。そして、ヘルネクシオスの承認取得により、HER2遺伝子変異陽性の進行性非小細胞肺がん患者のQOLの向上に貢献するとともに、適正使用の推進に努めるとした。
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イブトロジーカプセル200mg(タレトレクチニブアジピン酸塩、日本化薬):「ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間は10年。薬効分類429。
経口ROS1阻害薬。用法・用量は「通常、成人には1日1回600mgを空腹時に経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する」。国内では、ROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対して、ザーコリ、ロズリートレク、オータイロが承認されており、イブトロジーは4剤目となる。
日本化薬は承認取得を受け、「ROS1融合遺伝子陽性の進行性NSCLCを有する患者さんに新たな治療の選択肢であるイブトロジーを速やかに提供できるよう、引き続き取り組む」としている。
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アイザベイ硝子体内注射液20mg/mL(アバシンカプタド ペゴルナトリウム、アステラス製薬):「萎縮型加齢黄斑変性における地図状萎縮の進行抑制」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。条件付き承認。再審査期間は8年。薬効分類131。
補体因子C5阻害剤。C5タンパク質を標的とすることによって網膜細胞の変性を引き起こす補体系の活性を低下させ、地図状萎縮(GA)の進行を遅らせると考えられている。GAは加齢黄斑変性(AMD)の一病態であり、不可逆的な視力低下を引き起こす可能性がある。
用法・用量は、「アバシンカプタド ペゴルナトリウム2mg/0.1mL(リンカーを含むオリゴヌクレオチド部分として)を初回から12カ月までは1カ月に1回、硝子体内投与し、以降は2カ月に1回、硝子体内投与する」。承認条件として、「本疾患の患者を対象に実施中の国内臨床試験については、当該試験成績を速やかに提出するとともに医療現場に適切に情報提供すること」などが課された。
厚労省の担当官は8月29日の薬事審・医薬品第一部会後の記者説明会で、条件付き承認の内容などを説明。条件は「実施中の国内臨床試験の試験成績の速やかな提出」であり、その試験は「日本人患者の安全性を主要な評価項目とする試験」と説明した。試験成績の提出期限は2028年2月と設定する予定だとした。
なお、部会審議では、GAが中心窩に至ると視力が落ちるというところで、同剤はGAの中心窩への進行を抑制するという観点から臨床的な意義はあると判断された。ただ、臨床試験において視力の明確な改善効果は認められていないため、この点を医療従事者や患者に情報提供することを前提に、承認して差し支えないとの結論に至った。また、同剤のリスク・ベネフィットについても、▽硝子体内投与という侵襲性のある治療法であること、▽通院に負担をかける治療法であること――とのリスクの観点と、臨床的意義(ベネフィット)を十分理解した上で使用する必要があるとの意見もあった。
アステラス製薬は、アイザベイは条件付き承認制度のもと、承認申請から7カ月で承認された萎縮型AMDにおけるGAの進行抑制に対するファーストインクラス薬だとした上で、「アイザベイを一日も早く患者さんに提供し、アンメットメディカルニーズの高いGAを伴う萎縮型AMDの治療に貢献していく」としている。
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プルヴィクト静注(ルテチウムビピボチドテトラキセタン(177Lu)、ノバルティスファーマ):「PSMA陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がん」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。薬効分類429。
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ロカメッツキット(ゴゼトチド、ノバルティスファーマ):「PSMA標的療法の前立腺がん患者への適応判定の補助」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。薬効分類729。
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ガリアファーム68Ge/68Gaジェネレータ(塩化ガリウム(68Ga)、Eckert Ziegler Radiopharma GmbH、選任外国製造医薬品製造販売業者:ノバルティスファーマ):「陽電子放出断層撮影(PET)イメージングのために承認された被標識用製剤のガリウム(68Ga)標識」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。薬効分類430。
プルヴィクトは、前立腺特異的膜抗原(PSMA)を標的とした放射性リガンド療法(radioligand therapeutic:RLT)。ロカメッツキットおよびガリアファームはPSMAの標識に用いる。
プルヴィクトの投与対象は、新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)及びタキサン系化学療法による治療歴のあるPSMA陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)、およびARSIによる治療歴のある(タキサン系化学療法による治療歴のない)PSMA陽性のmCRPC。
用法・用量は「通常、成人には1回7.4GBqを6週間間隔で最大6回静脈内投与する。なお、患者の状態により適宜減量する」。
承認取得を受け、ノバルティスのジョンポール・プリシーノ代表取締役社長は、「RLTは、病気を認識して治療する精密な核医学の一種。この治療をより多くの患者さんに提供することで、私たちが掲げる企業パーパス『ReimagineMedicine~医薬の未来を描く~』の実現を目指す」とコメント。さらに、同社の篠山工場に1億ドルを投資し、国内でRLTを製造可能な施設の建設を進めていることを紹介した上で、「この投資は、安定した供給体制の確立と製造能力の強化を目的としており、26年度の稼働開始を目指す」としている。
なお、ノバルティスにとって、国内でのRLTの承認取得は、ルタテラ静注(適応:ソマトスタチン受容体陽性の神経内分泌腫瘍)に続き2製品目となる。
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アイマービー点滴静注300mg、同点滴静注1200mg(ニポカリマブ(遺伝子組換え)、ヤンセンファーマ):「全身型重症筋無力症(ステロイド剤又はステロイド剤以外の免疫抑制剤が十分に奏効しない場合に限る)」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間は10年。薬効分類639。
FcRnを阻害するモノクローナル抗体。用法・用量は「通常、成人及び12歳以上の小児には、ニポカリマブ(遺伝子組換え)として、初回に30mg/kgを点滴静注し、以降は1回15mg/kgを2週間隔で点滴静注する」。
J&J Innovative Medicine Japan(日本の医療用医薬品事業の法人名:ヤンセンファーマ)のクリス・リーガー代表取締役社長は、「今回の承認取得は全身型重症筋無力症とともに生きる約2万3000人の日本の患者さんにとって重要なマイルストーンとなる」とし、「私たちはこの新たな治療選択肢を、多くの全身型重症筋無力症の患者さんにお届けできることを誇りに思う」とコメントしている。
対象疾患の重症筋無力症(MG)は、自己抗体により引き起こされる自己免疫疾患で、国の指定難病。国内では、全身型重症筋無力症(gMG)に対して、FcRnを標的とする抗体薬としてウィフガート点滴静注/ヒフデュラ配合皮下注、リスティーゴ皮下注が承認されている。
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ワイキャンス外用液0.71%(カンタリジン、鳥居薬品):「伝染性軟属腫」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。薬効分類2649。
局所用テルペノイド。対象疾患の伝染性軟属腫は、ポックスウイルス科の伝染性軟属腫ウイルスの感染によって小児に多く生じる疾患であり、一般に「水いぼ」と呼ばれている。ピンセットによる摘除などが行われる水いぼに対し、ワイキャンスは塗布剤による治療選択肢となる。
ワイキャンスの用法・用量は、「通常、成人及び2歳以上の小児に、3週間に1回、患部に適量を塗布する。塗布16~24時間後に、石鹸を用いて水で洗い流す」。
9月19日付で承認された
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