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中医協薬価専門部会 26年度薬価改革で業界に早くも冷風 特例拡大再算定や原価開示ルール見直しに慎重論

公開日時 2025/10/09 06:00
中医協薬価専門部会は10月8日、2026年度薬価制度改革に向けて議論を行ったが、製薬業界の要望する市場拡大再算定の共連れや特例拡大再算定の廃止を認める声は上がらなかった。特に、年間販売額が極めて大きい“市場拡大再算定の特例(特例拡大再算定)”をめぐっては、診療・支払各側から「薬剤費の適切な配分メカニズム」として必要性を指摘する声があがった。また、原価計算方式の開示度ルールの見直しなどについても、慎重な声が相次いだ。製薬業界の要望してきた項目の多くに、診療・支払各側からいずれも厳しい声があがった格好。26年度薬価制度改革に向けて、早くも製薬業界にとって厳しい風が吹いた。

◎市場拡大再算定の共連れ 領域追加に「一定の基準やルール設定も」

市場拡大再算定をめぐっては、類似品に再算定を適用する、いわゆる“共連れ”ルールや、年間販売額が極めて大きい“市場拡大再算定の特例(特例拡大再算定)”などが論点にあがった。支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)が「市場拡大再算定は、新薬において患者負担、国民負担の軽減に貢献していくための仕組みだ。基本的には現行の仕組みを守り、さらには高額医薬品が増加している状況を踏まえると、将来に向けて国民皆保険の持続性を高めるために、ぜひともご協力いただきたい」と述べるなど、必要性に理解を求める声があがった。

共連れルールは24年度薬価制度改革で、 PD-1/PD-1リガンド結合阻害作用とヤヌスキナーゼ(JAK)阻害作用は適用除外とされ、「領域の追加については、次期薬価制度改⾰の検討に合わせ、関係業界からの意見や本規定の適用実績等を踏まえ、必要に応じて検討すること」とされていた。診療側の江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は、「現在のPD-1、PDL-1やJAK阻害剤のほかに、今後どのような事例が想定されるのか検討する必要もある。あわせて、類似品としての再算定の適用を除外する領域について、基準あるいはルール設定も必要ではないか」との見解を示した。支払側の松本委員も「中医協の合意事項に従い、除外する領域の追加を検討することに異論はないが、共連れルールは現段階では必要だ」と話した。

◎特例拡大再算定 「薬剤費の適切な配分メカニズム」

業界が廃止を求める市場拡大再算定の特例について、診療側の江澤和彦委員(日本医師会常任理事)が「市場が大幅に拡大した場合における薬剤費の適切な配分メカニズムとして現在も非常に重要な役割を果たしており、国民皆保険維持のため、今後も必要な制度だ」と強調。支払側の鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は、「年間販売額が極めて大きい品目のみを対象としているものであり、国民皆保険の持続可能性を確保するにあたって、薬剤費の適切な配分メカニズムとして維持が妥当」との見解を示すなど診療・支払各側が必要性を強調した。

一方で、有用性が認められた場合の、有用な効能及び効果等が追加された場合は、改定時加算と同様の補正加算を⾏い、引き下げ率が緩和されている。診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)が、「市場拡大再算定は、医療保険制度における薬剤費の適正な配分メカニズムだが、真に有用性が評価された場合の仕組みについて、今後も必要であれば、適宜見直しが必要だ」と話すなど、一定の理解もあった。再生医療等製品における市場拡大再算定については支払側の松本委員が「特別な取り扱いをする合理性は必ずしもない」と指摘した。

このほか、業界の要望する小児、希少疾病のみ効能追加に対する市場拡大再算定の適用についても論点にあがった。なお、18年度以降、小児や希少疾病の効能追加で市場拡大再算定が適用された事例としては、ヌーカラ皮下注100mg ペン、ヘムライブラ皮下注90mgという。診療側の江澤委員は「原則、小児・希少疾病の効能等の追加のみをもって市場拡大再算定の対象品目に該当とは判断していないとのことですので、そうした実績をしっかりと公表していくべき」と指摘した。藤原尚也専門委員(中外製薬執行役員渉外調査担当)は、「“使用実態が著しく変化した既収載品には該当しない”という旨を明確化いただくことで企業にとっては予見性が高まり、希少疾患・小児薬のさらなる開発を促進することにつながるというふうに考えている」と見直しを訴えた。

◎新薬創出等加算 診療側・江澤委員「累積額控除も含め変更できるものでない」 名称変更も

新薬創出等加算についても議題に上った。診療側の江澤委員は、「現行の新薬創出等加算は、10年度薬価制度改革から試行的に導入され、現在に至るまで10年以上の歳月をかけて検討され、現在の形に至ったもので、累積額控除も含めて、これまでの経緯も踏まえて変更できるものではない」と指摘した。支払側の松本委員は、「わかりやすさということでは、特許が切れた後もわかりやすく、それまでの実勢価と薬価の累積乖離部分について、後発品の上市に合わせて直ちに解消していただきたい」と指摘。支払側の鳥潟委員は、「どういった方策が取られるにしても、現行制度の要件を満たすもののみが対象で、特許期間が終われば、後発品に市場を譲るという考え方の下、現行制度と同様に、加算の累積分相当の控除が行われることを前提とするべき」と述べた。

一方で、コンセプトをわかりやすく伝えるために、名称を変更することも提案された。診療側の江澤委員は、「この加算が通称として“新創加算”などと呼ばれているように、用語やその内容が分かりにくいということであれば、国による丁寧な情報発信をするなど、制度の趣旨を損なわない面での対応は検討してもよいのではないか」と述べた。

藤原専門委員は、「理解することは大変難しいという声をたくさん聞いております。制度を設けた時の趣旨を踏まえつつ、革新的新薬については、特許期間中はシンプルに分かりやすく薬価を維持する仕組みとしていただき、そうしたメッセージを発信することは、日本市場の魅力度を向上し、ドラッグ・ラグ/ロスの解消につながる」と訴えた。

◎原価計算方式の開示度見直し「薬価の透明性確保と相いれない」

原価計算方式をめぐっては、開示度が50%未満の場合は加算係数がゼロとなるルールの見直しを製薬業界が訴えている。診療側の江澤委員は、「サプライチェーンの複雑化などの要因は理解するが、内訳が不明確な価格をもとに加算をつけることは薬価の透明性を確保するという取り扱いとは相いれない。現状、具体的にどういった取り組みを行った結果、どうであったのかという事実関係もよくわかっていない」と指摘。「一企業の対応として、難しいということであれば、業界全体として原価の開示に向けた環境を整備していただくなど、現行ルールの中で、開示度向上のための努力を継続していただくのが公的医療保険制度における薬価のあり方として、目指すべきところではないか」と述べた。診療側の森委員は、「開示度の向上に向けて、各企業が努力するのが基本」としたうえで、「同一グループによる移転価格の場合と、独立系企業による独立企業間価格の場合の基準が、同じでよいのか。また開示度が低いと先駆加算や迅速導入加算が評価されても反映されない。ドラッグ・ラグ/ロスが進行してしまうのかなど引き続き議論していくべき」と述べた。

支払側の松本委員は、「サプライチェーンの複雑化もあり、原価の開示が難しいという側面があることは一定程度理解するが、透明性の確保が極めて重要だということは改めて指摘させていただく」とクギを刺した。

原価計算方式における販売費及び一般管理費計上の上限についても論点となった。現行で特例的な上限とされる70%を超えて計算することも可能となっている。診療側の江澤委員は業界から、上限緩和の要望が出されたことに触れ、「取り扱いが関係者に周知されていないという点にも問題があるように思う。ルールの明確化を検討してはどうか」と指摘した。支払側の松本委員は、「一定の制約は当然あるべきで、青天井というのは、なかなか難しいと言わざるを得ない」と述べた。

藤原専門委員は、「例えば、製剤や原薬等を輸入している場合は、その当該企業に対して日本の薬価算定ルールを説明し、利益を含めた原価構成を当局に開示してもらうよう、お願いしている。しかし、取引先にとっては、その原価構成を外部に開示するというのは、なかなか一般的な商習慣として難しい。特に外国企業の場合は、日本独自の薬価算定ルール、開示のルールというものを理解していただくことが難しいため、開示を断られるケースが多いと認識している」と説明。「新薬の開発は国際的に進められているものが多く、委託なども含めて様々な企業が関わりながら進められている。申請企業が自社の責任において開示できる他の費用の原価構成をすべて開示しても、すべての原価情報を明らかにするということは困難で、結果的に開示度が低くなってしまっているというのが実態」として、理解を求めた。


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