第1回日本デジタル医学会 鈴木前厚労省医務技監「希望はデジタル」 ”4P”が拓くAI医療の未来像を語る
公開日時 2025/10/20 04:53
第1回日本デジタル医学会が10月18日から2日間、東京都内で開催された。基調講演には前厚労省医務技監で国際医療福祉大学の鈴木康裕学長が登壇し、「日本が抱える人口構造問題、財政問題、労働力問題など、それらを解決する希望はデジタルではないか」とメッセージを発した。デジタル医学が目指す究極のゴールとしては、①個別化医療(personalized)、②予測医療(predictive)、③予防医療(preventive)、④参加型医療(Participatory)-の4つの「P」を目指すことが大切だと強調。また、AI活用こそが「生産年齢人口の減少や働き方改革を相殺できる可能性を秘めている」と語り、デジタル医学は日本の医療課題を解決する最大の希望だと強調した。
◎AIがもたらす医療のパラダイムシフト「時間からの開放」、「空間からの開放」
鈴木学長は、AIがもたらす医療のパラダイムシフトに言及。「時間からの開放」として、24時間・365日の遠隔モニタリングやAIによる超高速診断の実現可能性を指摘した。また、「空間からの開放」では、オンライン診療や遠隔手術支援、地域包括ケアなどをあげた。さらに「経験知からデータ知」へのパラダイムシフトとして、「医師個人の経験や勘(Art)に、膨大なデータに基づく科学的根拠(Science)が加わることで、医療の質の標準化と高度化を実現する」と指摘した。さらに臨床現場と研究開発の最前線にもたらすインパクトとして、「診断分野でAIは医師の“第3の目”となる」と述べ、例えば内視鏡AIによる微小がんの発見や放射線画像の見落とし防止など、「精度向上と負担軽減」にも貢献するとした。
◎2040年の「ある患者の一日」を予測
一方で、2040年の「ある患者の一日」を鈴木学長は予測した。ベッドサイドにあるセンサーが患者の体位の変化を自動感知し、AIが可能性のある疾患を探し、受診勧奨する。「さすがに医師を受診せず全てAIでやるのは難しい」と鈴木学長は述べながらも、「オンラインで専門医の診察を受け、AIが処方案を作成し、医師が判断して、電子処方箋が薬局に届く。ドローンが自宅に医薬品を届けることもできる。患者は自宅を離れず、早い段階で診断が可能にある」と未来予想図を語ってくれた。
鈴木学長は、「今までは自分任せだった。人間ドックで指摘され、医師を受診しても医療従事者任せというところがあった。これからは、個人が食べ方や眠り方など生活習慣を変えていかないと、最適な治療が継続できないと考え、患者参加型の医療が台頭することになる」と見通した。
◎「いま、日本はすごくチャンスだと思っている」鈴木学長
「いま、日本はすごくチャンスだと思っている」―、鈴木学長は貴重講演の最後に、こう語ってくれた。「米国はトランプ大統領によって良い面もあるが負のイメージもある。FDAやNIH、CDCでどんどんリストラをやっている。欧州はウクライナの問題で高いエネルギー価格を受け入れなければならない状況にある。これまで3%くらいだった防衛費を5%くらいにしている。こうなると科学技術や医療に回す国家予算もそうそう豊かではない」と指摘した。
一方で日本は、「政治は安定してないし、円も安い。大変だけれども、それほど生活に困っているわけではない」と述べ、「日本には比較的平等な医療システムがある。改善することは多々あるが、こういうところにデジタル化をうまく進めることができれば、将来の課題である生産年齢人口の減少分をうまく補いながら、いまの医療・医学を、もう少しいい形で、今後20年、30年うまく活かすことができるのではないか」と語り、講演を締めくくった。