日医・松本会長 財政審に抗議「医療介護提供体制維持に危機感なく極めて遺憾」 個別項目言及「越権行為」
公開日時 2025/11/07 05:44

日本医師会の松本吉郎会長は11月6日の定例会見で、財務省の財政制度等審議会財政制度分科会の議論について、「人材流出と経営悪化で医療介護提供体制が維持できなくなるという危機感が全く感じられないことは極めて遺憾。強く抗議する」と強調した。財務省が、適正化を主眼に、かかりつけ医機能など2026年度診療報酬改定の個別改定項目に踏み込んだ主張を繰り広げたことについても、「越権行為と言わざるを得ず、看過できない」と語気を強めた。この日の定例会見で松本会長は、改めて医療機関の窮状を訴え、「前例のない大規模で抜本的な対応、純粋に財源を増やす、いわゆる真水による思い切った改定が必要だ」と強調した。
財務省主計局は財政審で、「病院に比べ、診療所が高い利益率を維持している現状を踏まえ、病院への重点的な支援のため、診療所の報酬の適正化が不可欠」などと主張。外来管理加算や機能強化加算、地域包括診療料の見直しなど、診療所に関連する個別改定項目の見直しに踏み込む姿勢を示している。松本会長は、「財政的な観点のみから、財政審で個別の診療報酬まであげつらうことは、越権行為と言わざるを得ず、看過できない」と述べ、個別鵜目に踏み込む財務省の姿勢そのものを糾弾した。そのうえで、「これまでにも増して大変正直、腹立たしい内容で、いくらでも反論したい気持ちはある」と述べ、個別項目にも触れた。
◎財務省主計局が主張する診療所に焦点を絞った適正化 「怒りでしかない」
診療所に焦点を絞って適正化を求めた点については、「怒りでしかない」と語気を強めた。無床診療所の経常利益率の中央値は2.5%で、最頻値は0.0~1.0%とのデータを示しながら、「地域医療を守る診療所は、一定の利益率がないと安定的に存在していくことが困難だ。診療所の収入は平均1億円程度で、もっと少ないところもたくさんある。その2.5%は250万円だ。それが本当に過大な金額と言えるのか。とてもそうとは思えない」と説明。無床診療所の経営も25年度にはさらに悪化していることが予想されるとして、危機感を示した。
松本会長は、「病院も大変だと思う。ただ、病院と診療所では規模が違うなかで、同じ利益率で比べることもどうかと思う」と問題意識を表明。「病院は6~7割、診療所は4~5割が赤字になりつつある。そういった状況を考えれば、診療所が非常に裕福や、まだ大丈夫と言う考えは誤っている」と指摘した。
◎かかりつけ医機能に関連する個別改定項目への踏み込みは「点数の削減ありきの話だ」
かかりつけ医機能に関連する個別改定項目にまで財務省が踏み込んだ点については、「点数の削減ありきの話だ」と反発。「高齢化もあり、地域医療で外来の体制を整えなければいけない。金額のみをもった議論で無理やり削減しようとすることには強く抗議していきたい」と強調した。
財務省が“かかりつけ医”のあるべき姿として、「登録制」などを打ち出したことにも反発。「現在が“過渡期”と表現されているが、法改正も施行され、現在の制度に基づき、地域を面で支えるものであり、この方向性に沿って完成形として近づけていくべきだ」と述べた。診療科や専門性に応じた複数のかかりつけ医を持つことは当然のこととして、「いわゆる登録制は、患者の医療へのアクセス権、医師を選ぶ権利を阻害する提案だ。国民、患者側からすれば、財務省が主張する登録制で自分の行ける医療機関が限定され、かかりつけ医を固定されるような提案は、決して望んではいないと思う」と反論した。
受診時定額自己負担の導入についても触れた。外来受診は患者の主体性に委ねられていることから、「医療が必要な患者に対して自己負担を上げることにより、受診をためらわせることがこれ以上あってはならない。我が国は国民皆保険制度により病気の早期発見、早期治療に寄与してきた。これからもそうあるべきだ」との考えを示した。
OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しについては、「自己負担のみに特化した形で、患者さんに負担を負わせていくことには反対だ」と述べ、自助、共助、公助のバランスを考えることが必要との考えを示した。
◎松本会長「現在の危機的状況から速やかに抜け出す十分な経済対策をお願いしたい」
松本会長は、「近年の物価・賃金上昇局面において、医療機関の半分が赤字という危機的な状況にある。医療・介護分野で働く現役世代が離職せず、働き続けられるよう、また医療・介護サービスを提供する基盤を将来にわたって維持するためにも、現在の危機的状況から速やかに抜け出すための十分な経済対策をお願いしたい」と強調。高市首相がスピード感をもって病院・診療所の経営改善、従業員の処遇改善に取り組むことを表明したことに触れながら、「適正化等の名目により医療費のどこかを削って財源を捻出するという方法で、これ以上医療費が削減されれば、医療機関の窮状は変わらず、国民の医療アクセスが保障できない。前例のない大規模で抜本的な対応、純粋に財源を増やす、いわゆる真水による思い切った改定が必要だ」と訴えた。
26年度改定では、「改定2年目以降も予想される賃金・物価の上昇に確実かつ機動的に対応できるよう、医療の高度化や高齢化等に対応した通常の改定である政策的改定とは別に、賃金・物価の毎年の上昇を視野に入れた改定をお願いしたい」と要望。「次期改定で必要な対応として、まずは過年度の対応不足分を補正予算による対応等を行った水準に加え、賃金上昇と物価高騰には別枠で対応することを求める」と改めて主張した。