
内閣官房の日本成長戦略会議創薬・先端医療ワーキンググループは1月21日、初会合を開き、“官民投資ロードマップ”の策定に向けて議論を開始した。官民投資ロードマップには、危機管理投資と成長投資について、投資内容や時期、目標額を盛り込む方針。ヒアリングに臨んだ宮柱明日香構成員(武田薬品工業・ジャパンファーマビジネスユニットプレジデント)は、日本の創薬力再生に向けて、創薬力の復活、国内製造力の強靭化、人材基盤の堅持・強化の3本柱を「単なる施策の集合ではなく、法的根拠を有する国家戦略として明確に位置付ける」必要性を指摘。「制度の裏付けが、官民の継続的、戦略的投資を可能にする」と述べた。これにより、「日本の GDP 5兆円以上の貢献も予測される」との見通しも示した。
◎官民投資ロードマップ策定へキックオフ 実効性も
ワーキンググループは、成長戦略の取りまとめに向けて、日本成長戦略会議に17戦略8分野横断的な検討を行うために設置。今春にも官民投資ロードマップを策定。今夏にも取りまとめる成長戦略に反映することを視野に入れる。取りまとめに際しては、複数年にわたる予算措置のコミットメントや税制など、投資の予見可能性向上につながる供給力強化策の検討することや、戦略的投資により、成長率など国富拡大に与えるインパクトについても定量的な見込みを示すことなどが求められている。
共同座長を務める小野田紀美内閣府特命担当大臣(科学技術政策)は会議冒頭で、「今後、官民による大胆な危機管理投資、成長投資により、その成果を患者、国民の皆様にしっかりと届け、さらには強い経済を実現する」ことを目指して議論を深めることを求めた。
共同座長の松本尚デジタル大臣はコメントを寄せ、医薬品の安定供給などの喫緊の課題に加え、「日本創薬力を高めるための議論を着実に進め、実効性あるものとするために、AI活用の急激な広がりなどを踏まえて、未来の医療の姿と、そこに向けて必要な研究開発投資について考えることが求められている」と表明。実効性のある官民投資ロードマップの作成を求めた。
◎宮柱構成員「制度の法的裏付けが、官民の継続的、戦略的投資を可能にする」
「皆さんの想像以上に日本の創薬力が低下している。日本はかつて世界トップクラスの創薬力を誇っていましたが、今では各国の研究開発力の急速な向上に追随できていない」-。宮柱構成員は、冒頭で危機感を露わにした。
新薬の上市には10年以上の時間がかかると指摘されるなかで、「単年度予算を前提とした予算編成や制度設計が続いた結果、日本の創薬力は国際競争力を失いつつある」と指摘。「長期にわたり、戦略的な投資の枠組みを確立するためには、法的根拠に基づく国家戦略の創設が不可欠であり、その中で医薬品を明確に位置づけることが重要だ」と主張した。
医薬品産業が急成長を遂げる中国や韓国との違いについては、「医薬品産業を国家戦略の中核に据えているかどうかという差がある。各国が国家戦略の下で巨額かつ継続的な公的投資を行う一方、日本においては規模、スピードの両面で見劣りをしている」との見方を示した。さらに、日本の市場成長率が諸外国と比べて見劣りする一方で、産業が生み出す付加価値は大きいと指摘。「日本の経済成長及び経済保障において不可欠な医薬品産業が、このように他国に劣後する状況を果たして看過してよいのか、今こそ問い直す必要がある」と強調した。
そのうえで、「創薬力の復活、国内製造力の標準化、人材基盤の堅持強化の3点に沿った議論」を提案した。「3本柱を基に、官民による投資ロードマップの作成・推進を行うことで、日本の GDP 5兆円以上の貢献も予測される」と強調。「重要なのは、これら3本柱を単なる施策の集合ではなく、法的根拠を有する国家戦略として明確に位置付けることだ。制度の裏付けが、官民の継続的、戦略的投資を可能にする」と訴えた。
◎五十嵐構成員 米トランプのMFN施策の中で「危機とともにチャンス」
五十嵐啓朗構成員(ファイザー代表取締役社長)は、自国強化と世界連携の両方を追求する創薬エコシステムを構築することが重要との考えを示した。米ボストンなど、欧米を中心に、ベンチャーキャピタル(VC)を含めたグローバルでのサイエンス・ビジネスコミュニティが構成される中で、「そこのコアの部分に日本企業、日本人が入っていっていくことがまず重要だ」と指摘した。
五十嵐構成員は、「これまで製薬会社は米国の創薬エコシステムにかなり頼ってきた。多くのグローバル製薬企業の利益の6、7割は米国によって叩き出されていて、それによってグローバル研究開発投資をして、まず米国で発売し、高い薬価で投資回収をしながら、それによって日本や欧州、全世界でローンチできるというようなモデルに成り立ってきた」と説明。一方で、米トランプ大統領が最恵国待遇価格(MFN)を打ち出すなかで、「日本で新薬が発売されなくなる危機にもつながるが、チャンスでもある」との見方を示し、「このチャンスをものにしていくことが重要だ」と強調した。その際には、「イノベーション、新薬評価をエンジンとした市場規模の拡大が必要だ」と表明。薬価制度については、“出る杭を打つ”制度から、“出る杭を報いる”薬価制度に転換することが必要だと主張した。
◎吉川構成員 最初から世界を狙うアプローチ グローバル開発主導できる人材育成を
吉川真由構成員(ARCH Venture Partnersベンチャーパートナー)は、日本のスタートアップが成長するためには、「特に創薬分野においては、最初から世界を狙うアプローチが不可欠だ」との考えを示した。海外の市場規模の大きさに加え、「創薬は研究・開発・承認の方針をかなり初期の段階で設計し、それに従って進める必要がある。初期からグローバルな視点を持たないと、なかなか、VC から投資してもらえるようなアップサイドが期待できるスタートアップとならない」との見解を示した。
特に、人材面での課題の大きさを指摘。「グローバルな開発経験、成功者の層が薄い」と述べた。アーリー段階に投資するVCは資金不足や人材マネジメントを理由に創薬が進まないリスクを避けたい想いがあるとして、「グローバル開発を主導できる人材層の薄さが資金・開発環境・海外接続の課題を増幅している可能性がある」と述べた。
◎藤本構成員 AI 創薬は「単なる研究テーマでなく国家戦略に位置づける時が来ている」
藤本利夫構成員(アイパークインスティチュート代表取締役社長)は、AI創薬が進むなかで、「個社任せのアプローチでは限界がある。日本から AI 創薬スタートアップを継続的に生み出していくためには、政府と民間が役割分担を明確にして、共用すべき基盤を整備する必要がある」との考えを表明。セキュアデータ基盤、計算資源アクセス、自律ラボ教養設備、人材育成・アクセラレータ、規制・倫理を基盤としたAI創薬プラットフォームを構築する必要性を指摘。「これらが日本版AI創薬エコシステムの要となる」との考えを示した。
そのうえで、「創薬の未来は自然には訪れない。世界的な競争と共創コンペティションとコクリエーションの設計こそが、日本の数年後の競争力を決める。AI 創薬は単なる研究テーマではなく、国家戦略として位置づけるべき時が来ている」と訴えた。
◎畠参考人 国内製造体制強化を
畠賢一郎参考人(ジャパン・ティッシュエンジニアリング相談役)は「先端医療である再生医療で世界をリードし、日本の成長につなげる戦略が不可欠だ」と強調した。このためには財源の確保に加え、国内製造体制を強化する必要性などに言及。「再生医療は製造プロセスが極めて重要だ。経済保障、安全保障の観点からもサプライチェーンの強靭化が必要で、 CDMO の拠点整備を進め、自動化技術を導入すべくプロセス開発、投資も不可欠だ」と述べた。