厚生労働省は７月17日、日医工のセファゾリンについて供給再開までの間、医療機関の理解・自発的協力、製薬企業・医薬品卸の協力の下で互いに融通することを呼びかける方針を決めた。同省は３月には代替薬のリストを通知で発出するなど対策を講じてきたが、日医工のセファゾリンのみ採用している医療機関は依然として多い。手術の延期や受け入れ不能など、医療に支障を来たしている実態も浮き彫りとなるなかで、影響を最小限に食い止めたい考えだ。日医工のセファゾリン供給開始は今秋から年末頃の見通し。

日医工のセファゾリンは2018年末頃に輸入する原薬に異物が混入していることが発覚。原薬物質の製造停止などが重なり、同剤の生産に支障が出ていた。19年２月には、日医工から採用全医療機関に対して供給停止を案内する事態に追い込まれていた。先発品のほか、後発品も５品目が流通しているが、日医工のセファゾリンがトップシェアとなっており、医療現場への影響が懸念されていた。

◎500床以上の医療機関半数がセファゾリンの使用を制限

同省はこの日開催した厚生科学審議会感染症部会に、医療機関を対象にセファゾリンの供給状況などを聞いたウェブ調査の結果を報告した。1176施設から回答を得て、1071施設の回答を分析した。その結果、術前予防投与にセファゾリンを活用する医療機関、治療に使用する医療機関ともに400施設以上で日医工のみ採用している実態が浮き彫りとなった（2019年６月時点）。

特に500床以上の大病院では、通常セファゾリンの術前予防投与を行う医療機関のうち、半数以上が「一部で使用を制限している」、「原則としてセファゾリンを使っていない、または使えない」と回答した。実際、術前投与に使用できず手術を延期したなどと回答した医療機関が４施設、治療が必要な患者を受け入れられなかったことがあったと回答した医療機関も６施設あった。

2019年３月に厚労省健康局結核感染症課・医政局経済課が連名で発出した事務連絡では、周術期予防抗菌薬（セファゾリンを選択する術式の代替薬）を示したが、供給が滞っているとの声も医療機関からあがっている。同省は、製薬企業が出荷調整を行う際、前年の販売量実績などを基準に調整するため、出荷調整が行われている局面では、抗菌薬を手にしづらくなっている可能性を指摘。医療機関によって、セファゾリンや代替薬の入手のしやすさ、利用できる代替品目が偏っており、「各症例において最適な抗菌薬が使用できないケースが一定程度生じていると考えられる」とした。このため医療・医薬品関係者に協力を求め、互いに同剤や代替薬を融通するよう呼びかける通知をできるだけ早く発出。日本ジェネリック製薬協会や日本医師会などに周知を図る。また今後の対策として、臨床・公衆衛生上の重要性や生産・流通の安定性などを踏まえ、複数の抗菌薬を抽出し、継続的、積極的な情報収集に注力する姿勢も示した。

委員からは、対策を急ぐよう求める意見が相次いだ。大曲貴夫委員（国立国際医療研究センター病院　国際感染症センター長）は、「納入実績のない医療機関に納入することには高い壁があるが、融通を呼びかけることで、変わると期待している」と述べ、卸の協力を求めた。また、釜萢敏委員（日本医師会常任理事）は、今後の対応について、「新規の抗菌薬開発が行われていない現状ある。原薬の輸入に関する問題も洗い出して考える必要がある」と指摘した。

◎抗インフル薬の備蓄　原薬保管も追加へ　保管費用削減に期待

同日の部会では、抗インフルエンザウイルス薬の備蓄方法に、原薬での備蓄を追加することも了承された。梱包されている製剤の備蓄に比べ、原薬備蓄では、製剤面積が少なくて済むタンクで保管できることから、保管費用の削減が期待されている。対象となるのは、タミフル（オセルタミビル）、リレンザ（ザナミビル）、イナビル（ラニナミビル）、ラピアクタ（ペラミビル）、アビガン（ファビピラビル）－の5剤。学会等の位置づけが定まっていないことから、ゾフルーザ（バロキサビルマルボキシル）は対象から外れている。