健保連・幸野理事 PPI経口薬にフォーミュラリ適応で1335億円の効果 医療費適正化計画への導入も一考
公開日時 2021/10/26 04:52
健康保険組合連合会の幸野庄司理事は10月23日、オンライン開催した日本フォーミュラリ学会設立記念シンポジウムで講演し、PPI経口薬にフォーミュラリを適用した場合、1335億4000万円の薬剤費削減効果があるとの粗い試算を示した。幸野理事は、「フォーミュラリは桁違いに効果が高い。後発医薬品の使用促進も重要だが、最終的にはフォーミュラリを確立することが必要ではないか」と指摘した。中医協の支払側委員を務める幸野理事だが、診療報酬上の評価については議論がなかなか前に進まない現状も口にした。そのうえで、2024年度からスタートする第4期医療費適正化計画を引き合いに、「まず行政が動き、地域医師会、地域薬剤師会と議論し、医療費適正化計画にフォーミュラリを入れてPDCAを回すことも大事ではないか」と述べた。
◎降圧薬、脂質異常症、血糖降下薬とPPIの4カテゴリー 4000億円超の薬剤費削減効果
幸野理事は、2019年度のNDBオープンデータを用いて、PPI経口薬(P-CABを含む)に対するフォーミュラリの効果を検討したデータを提示した。数量では後発品は44.8%(12.6億錠、後発品の数量シェア「新目標」では83.9%)だが、薬剤費では19.7%と2割にとどかない状況にある。一方で、新薬は数量でも46.5%と依然として半数近くを占め、薬剤費ベースでは71.2%と7割を超える。この新薬を、同程度の効果が期待される成分規格から最も単価の低い銘柄に優先的に機械的に置き換えると、粗い試算で1335億4000万円の薬剤費削減効果が示せたという。なお、健保連では2019年の政策提言において、降圧薬、脂質異常症、血糖降下薬について同様の試算を行っており、年間約3100億円の薬剤費削減効果があると発表した。荒い推計とはいえ、4カテゴリーだけで4000億円超の薬剤費削減効果が見込めるという。
幸野理事は、高齢化のピークとなる2025年を見据え、「高齢者への拠出金で健保組合も解散の危機を迎えている組合も多くある。国民皆保険崩壊の危機であるということもある。医療費のなかで占める薬剤費の統制は国をあげて考えていかないといけない」との考えを表明した。そのうえで、「ジェネリックの推進という段階ではなく、本当のところ大きいのはフォーミュラリ。ジェネリックはどれだけやっても限界があって、フォーミュラリという新薬の使い方をどうするかということを考えていくところにシフトしていく時期に来ている。政策としてフォーミュラリを進めていくことをしていかないといけない」と強調した。
◎地域医療構想のフォーミュラリ版 地域の医師会、薬剤師会、保険者も絡むアプローチを
中医協の場では、日本医師会代表の診療側委員がフォーミュラリの診療報酬上の評価に難色を示すなかで、幸野委員は、「地域医療構想のフォーミュラリ版みたいなものを地域で検討する。医師会、薬剤師会、場合によっては保険者も絡んでやっていくというアプローチも大事では」との見解を表明した。現在のところ、医療費適正化計画には、後発品の数量目標は盛り込まれているが、フォーミュラリは盛り込まれていないことにも触れ、フォーミュラリを盛り込む必要性についても言及した。
◎厚労省・紀平薬剤管理官 同じ薬理作用で安全性・有効性・経済性をどう考えるか
厚労省保険局医療課の紀平哲也薬剤管理官は、薬剤費は薬価と使用量を掛け合わせ、それを個々の医薬品ごとに足し合わせた、数式で示せる(薬剤費=Σ(薬価×使用量))と説明した。そのうえで、薬剤費の適正化の議論は、個々の医薬品の薬価引き下げ、薬剤使用量の適正化、保険給付範囲の見直しの3点に帰着すると指摘。保険給付範囲の見直しではビタミン剤やうがい薬などの給付範囲の見直し、薬剤使用量の適正化としては、保険上の留意事項通知や最適使用ガイドライン、ポリファーマシー対策などが行われてきたと説明した。
一方で、薬価に切り込むものとしては、長期収載品の薬価改定や市場拡大再算定、毎年薬価改定など、個々の医薬品を対象とした“薬価引下げ”に加え、「低薬価品目への置き換え」があると説明。このなかに、後発品の使用促進やフォーミュラリが位置づけられるとした。紀平薬剤管理官は、後発医薬品の使用促進の「延長線上にフォーミュラリの話がでてきているのではないかと捉えている」と述べた。そのうえで、フォーミュラリを有効性・安全性に加え、経済性を相対的に評価したものと見方を示した。紀平薬剤管理官は、「同じ薬理作用を持っている医薬品のなかで、有効性・安全性、経済性をどう考えるかがフォーミュラリの考え方の一つ。より広がって同じ疾患、同じ症状に対して、どの薬理作用の薬を使うかという相対評価のようなものをどう考えるか」と複数のステップがあると指摘。H2受容体拮抗薬とPPIの使い分けを例にあげた。一方で、すべての患者にこの相対評価が当てはまるわけではないとして、「フォーミュラリを作った場合の治療が制限されるかという点で常に議論になる」との見方も示した。
診療報酬上の評価も議論になるが、紀平薬剤管理官は、「フォーミュラリを進めていくことと、どう進めるかのなかに診療報酬という手段を使えるのかどうかは別の議論ではないか」と指摘した。そのうえで、「フォーミュラリを進めていくことは大事なことで、厚労省全体として医療そのものを考えるときに一定重要なものだと思う。言葉が先行して一人歩きすると、形から入ってしまうと中身が伴わないことも懸念される。関係者が正しく理解し、あるべき方向に進むことが必要だ」と述べた。
◎近藤院長 非専門医が標準的な薬物治療を学べる「共通知」となる
医師の立場で講演した近藤医院の近藤太郎院長は、地域フォーミュラリへの期待として、非専門医が標準的な薬物治療を学べる「共通知」になり得ると指摘した。また、医療連携や多職種連携にも役立つほか、医療者間で医薬品情報が共有できるなど、地域包括ケアシステムに有利に働くと述べ、「なによりも患者さんのためになる」と強調した。
近藤院長はその具体例として、自身が関わった東京都糖尿病予防推進医講習会での経験を披露した。この取り組みは医師会が「総合医局のごとく、皆で勉強の場を用意するものだ」と説明。非専門医であっても、「最新の糖尿病治療で連携が可能になった」との成果を報告した。また、特徴的な出来事として、これまで「新薬」や「製品」をテーマに行っていた製薬企業主催の勉強会のテーマが、「疾患」や「医療連携」など、総論的なテーマに変わるキッカケになったと指摘した。
◎日薬・磯部専務理事 地域の総合医局に「薬剤師も是非参加させてほしい」
日本薬剤師会の磯部総一郎専務理事は、近藤院長の地域での取り組みに賛同すると同時に、こうした地域の総合医局の取り組みに「薬剤師も是非参加させてほしい」と訴えた。磯部専務理事は、「地域フォーミュラリの中心は医師のほうがいい。そのほうが、地域がまとまりやすい」とも述べた。金銭的な評価については、「地域完結型の医療を提供するために薬の共通基盤をもたないといけない。ただ、そのためには作業費がかかる。診療報酬がいいのか、一般の公費がいいのか議論があるところ」との認識を示した。
◎今井理事長 「病院の勇み足」に苦言 地域フォーミュラリで「標準的薬物療法の推進」目指す
日本フォーミュラリ学会の設立に際し、今井博久理事長は、“義を見てせざるは勇無きなり”と述べ、自らが羅針盤となる覚悟を表明した。一方、今井理事長は、病院フォーミュラリが乱立するなど、「病院の勇み足」があったことに苦言を呈した。その上で、「黎明期にしばしばあるように、焦った動きが出てきており、制度の導入方法を誤らないことが肝要だ」と強調した。今井理事長は改めて地域フォーミュラリの導入は不可欠だと述べ、日本フォーミュラリ学会を通じて「標準的な薬物療法の推進」を実現する施策の展開でなければならないと呼びかけた。