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レカネマブ、医療保険の評価に厳しい声 「基金設立で国家予算から手当」に賛同も 中医協・合同部会

公開日時 2023/11/09 07:00
中医協薬価専門部会・費用対効果評価専門部会合同部会は11月8日、認知症治療薬・レカネマブ(製品名:レケンビ)の保険収載に向けて、製薬業界からヒアリングを行った。製薬業界は、「薬剤費抑制に偏らない、イノベーションの適切な評価」を訴えた。しかし、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「薬価に転嫁するのであれば、薬剤費の適正化をさらに検討せざるを得ない」と述べるなど、診療・支払各側から「医療保険」の枠の中での評価には厳しい声があがった。一方で、認知症が国家施策に位置付ける中で、「例えば」と断ったうえで、「基金を設け、そこに国家予算から保険とは別に手当するなど、そういった方策もあるのではないか」との意見も表明し、これには委員から賛成の声があがった。

◎支払側・松本委員 医療保険への影響大前提なら「厳しい判断を取る」

「日本から生まれたイノベーションにより、認知症患者さんやそのご家族に希望の光をもたらそうとしている。ぜひともこの光を消すことなく、将来のイノベーションを加速させるためにも、薬剤費抑制に偏ることのないよう、イノベーションの適切な評価をご検討いただきたい」-。日本製薬団体連合会の上野裕明副会長(日本製薬工業協会会長)は、業界ヒアリングでこう訴えた。焦点となるのは、同剤の介護費用の軽減効果をいかに薬価上で評価するかだ。費用対効果評価の枠組みの中で検討が進められている中で、「家族や介護者にかかる介護費用等を含めた分析結果を用いた評価の実施について積極的に検討いただきたい」と要望した。

しかし、診療・支払各側からは厳しい声が飛んだ。診療側の長島委員は、「医薬品の価値の適切な評価に関しては、どのような立場で価値を見出すかによって評価の仕方が変わる。中医協においては、健康保険法に基づく医療保険の視点で評価するという立場が大前提」と強調した。支払側の松本委員は、「我々としては医療保険財政への影響を大前提に考えることからも、これについてもやっぱり厳しい判断を取ることについてご理解をたまわりたい」と強調。介護費用を薬価に転嫁することは、医療保険制度になじまないと指摘したうえで、「最終的に薬価に転嫁するということになるとすれば、医療保険者の立場からすると、全体を考えた場合には薬剤費の適正化をさらに検討せざるを得ない」と述べた。

◎「基金を設けてそこに国家予算から保険とは別に手当」などの方策も

上野副会長は、「認知症は身近な疾患であるとともに、社会的影響が大きいことを踏まえますと、治療薬の負担については、国の認知症施策の中で幅広く検討することも必要ではないか」との見解も表明。具体的には、「例えば、という話になる」と断ったうえで、「認知症対策が社会保障とは別の国家施策として位置づけられるのであれば、これまでと同様に保険の中だけではなくて、例えば基金を設けてそこに国家予算から保険とは別に手当するなど、そういった方策もあるのではないかということで、こういった点も含めて幅広くご検討いただければと思っている」と述べた。

これに対し、診療側の長島委員は「同意する」と賛意を示した。そのうえで、「その場合、開発途中で断念した薬剤も含めて、治療薬開発に取り組む企業に国からどのような配慮があるべきなのか。適切な国の検討の場において検討いただければと思う。その際は、日本が誇る国民皆保険が破綻することのないような配慮が必要だ」と述べる一幕もあった。

◎費用対効果評価の価格調整範囲拡大の業界に支払側・松本委員「主張に一貫性ない」

同剤をめぐっては、介護費用の軽減効果を費用対効果評価の枠組みで検討がなされている。こうした中で、価格調整範囲について議論が集中した。上野副会長は、「価格調整範囲を加算部分より拡大することは薬価本体(比較薬または原価相当の水準)を割り込むことになり、薬価制度と矛盾するため、受け入れられない」と主張した。価格調整範囲については、24年度制度改革に向けてた焦点となっており、有用性系加算部分だけでなく、拡大する方向で議論が進んでいる状況にある。

こうした中での業界の改めての主張に対し、診療・支払各側からは、製薬業界の主張の一貫性のなさに対して指摘が飛んだ。診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は、外国平均価格調整を適用する場合、有用性系加算が含まれた薬価から引上げ、引下げなどの調整がなされることを引き合いに、「現行の薬価制度においても、価格調整範囲はすでに加算部分に限定されていないと考える」と指摘。「価格調整範囲については、費用対効果評価のあるべき姿をどのようにしていくかという視点で、中医協において議論を重ねていくことが重要と考えている」と述べた。

支払側の松本委員は、費用対効果評価の制度改革に向けた業界ヒアリングで、費用対効果に優れる結果が示された場合でも条件が厳しく、価格調整に反映されないとして、「現行の価格引上げに必要な条件の撤廃・緩和を検討すべき」と訴えたことに触れた。松本委員は、「価格引き上げの条件は、該当品目が有する医療経済上の有用性と価格引き上げ等に関する影響とのバランスを考慮して設けられたものだ。医療保険者の立場からすると、価格を引き上げることに関しては簡単にできるものではない」と述べた。そのうえで、「業界の皆様が、加算の範囲を超えた引き上げを要望する一方で、加算の範囲を超えての引き下げについては、薬価制度と矛盾をしているという表現になっており、若干一貫性がないように感じる」と指摘した。

上野副会長は、「基本的には薬価の本体部分については、これまで厳格に管理された臨床試験で有効性と安全性が評価された結果と、効能効果などを基に認められた基本的な価値であると認識している。一方、費用対効果評価はQOLの改善をしようとしたICERによる評価と認識している。このように全く異なる指標を持って、薬価の本体部分を一緒にして調整するというようなことは医薬品の本来の価値を否定するものではないかというふうに感じている。私どもは合理的ではないと感じている」と述べ、今後費用対効果評価の議論に積極的に参画する姿勢を示した。

◎介護費用分析の難しさ指摘 上野副会長「日常生活自立度を健康状態の代替指標も一考」

費用対効果評価における介護費用の分析は、これまで日本で行われた経験がなく、制度への反映の難しさが指摘されている。診療側の長島委員は、「業界としては、介護費用等を含めた分析は、どのようなデータを用いて実施することを想定しているのか。どの程度、分析が可能と考えられているのか」と質した。

これに対し、上野会長は「業界団体として具体的なものを特に持ち合わせていない」と断ったうえで、「介護レセプトデータに含まれる日常生活自立度を健康状態の代替指標とすることで、費用対効果評価の一つになるのではないかというようなご意見も出された。こういうことも一つの可能性として考えていただければ」と述べた。これに対し、診療側の江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は、日常生活自立度は「認知機能を示すものではない」として、さらなる臨床効果を検討する必要性を指摘した。

◎基準値に配慮求める業界に診療側・長島委員「認知症薬は配慮の対象にならない」

費用対効果評価に用いる基準値への配慮も製薬業界側は求めた。上野副会長は、「これまでアルツハイマー病というものに治療方法がなかった中で、今回レカネマブが出てきたという点で考えれば、抗がん剤と同様にICERの基準値を配慮していただきたい。さらにアルツハイマー病は疾患の進行が遅いために、QOLの変化が表れづらいことや、当事者だけでなく、介護者や家族にかかわるコストが大きいことから、その価値が適切に反映できるような基準値が必要だ」と述べた。

これに対し、診療側の長島委員は、「希少疾病を対象とした医薬品に関するこれまでの評価において、明らかな問題はないと考える。認知症薬は配慮の対象にはならないと思っている」と指摘した。

このほか、製薬業界側は、薬価収載後の価格調整(市場拡大再算定)については、慎重な検討を求めた。上野副会長は、「すでに四半期再算定や売上拡大に応じて、迅速かつ大幅に薬価を引き下げるというルールもある。まずはこの範囲で検討いただければというのが私どもの要望だ」と話した。

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