IQVIAによると、2024年度(24年4月~25年3月)の国内医療用医薬品市場が前年度比1.0%増の11兆4874億円(薬価ベース、1億円未満切捨て)となった。2年連続で11兆円台にのり、会計年度として最高額を更新した。国内最大の抗腫瘍薬市場が前年度比0.7%増と成長が鈍化する一方、新型コロナワクチンや子宮頸がんワクチンといった「ワクチン類」、漢方薬、糖尿病治療薬、投与間隔の長い新薬が大きく伸長した。製品売上をみると、1位のキイトルーダは1900億円を突破。売上1000億円以上のブロックバスターは8製品あった。
文末の「関連ファイル」に、24年度の市場規模や売上上位10製品の売上データに加え、売上上位製品の四半期ごとの売上推移をまとめた資料を掲載しました(ミクスOnlineの有料会員のみ閲覧できます。無料トライアルはこちら)。
◎ワクチン類市場 前年度比42.9%増、金額で1026億円増加 新型コロナワクチンなどで
IQVIAは5月22日に24年度の国内トップラインデータを発表した。24年度の国内市場は額で1166億円伸びた。領域別にみると、抗腫瘍薬市場は143億円の伸びにとどまる一方、ワクチン類は1026億円の大幅増を記録した。
ワクチン類市場の24年度売上は前年度比42.9%増の3418億円だった。24年10月から定期接種となった新型コロナワクチン、子宮頸がんワクチンのキャッチアップ接種、24年4月から定期接種となった5種混合ワクチン――などが市場成長に貢献した。ワクチン類は薬効別の売上規模で前年度の10位圏外から今回6位にジャンプアップした。
◎売上上位3薬効 トップから抗腫瘍薬、糖尿病薬、免疫抑制剤で変わらず
売上上位薬効を詳細にみると、1位は抗腫瘍薬、2位は糖尿病治療薬、3位は免疫抑制剤――で上位3薬効の順位は前年度と変わらなかった。4位は前年度5位の抗血栓症薬、5位は前年度4位の全身性抗ウイルス薬で、順位が入れ替わった。
1位の抗腫瘍薬市場の24年度売上は0.7%増の1兆9737億円だった。抗腫瘍薬市場は、薬効別売上ランクで2位の糖尿病治療薬の2.5倍の規模を誇る国内最大市場だが、24年度の成長率は鈍化した。コロナ禍が落ち着いた23年度に未受診患者の治療再開があった一方で、24年度は「再開影響が一服した」(IQVIA)ことに加え、オプジーボやイミフィンジで市場拡大再算定の影響が大きく表れたことが、抗腫瘍薬市場の低成長に影響した。
◎再算定のオプジーボは16.9%減収 イミフィンジは14.5%減収
オプジーボの24年度売上は16.9%減の1367億円だった。24年4月の薬価改定で、バベンチオの共連れによる市場拡大再算定で薬価が15%引き下げられたことに加え、成長を目指した尿路上皮がんや食道がんが競争激化により思うように伸びなかったことも影響した。オプジーボの売上は抗腫瘍薬内でキイトルーダに次ぐ2位だが、全製品の売上ランクでは前年度の2位から今回3位に順位を落とした。
イミフィンジは14.5%減の1031億円だった。胆道がんや肝細胞がんの適応追加で成長が加速していたが、24年2月に市場拡大再算定で25%の薬価引下げ、同年8月に用法用量変化再算定で11.1%の薬価引下げを受けた影響が大きく出た。イミフィンジの四半期ごとの売上の伸び率は、24年1~3月期は64.5%増だったが、4~6月期5.3%増、7~9月期14.6%減、10~12月期26.5%減、25年1~3月期19.2%減――で、再算定の影響の大きさがわかる。抗腫瘍薬内の売上ランクは4位、全製品では前年度の5位から今回8位に後退した。
◎キイトルーダ16.3%増収 薬価維持に胃がん、胆道がん、子宮体がんの適応追加が貢献
なお、抗腫瘍薬内の売上1位で、かつ全製品売上ランクでも1位のキイトルーダは16.3%増の1917億円だった。24年4月の薬価改定で新薬創出等加算品として薬価が維持できたことや、同年5月の胃がんと胆道がん、12月の子宮体がんの適応追加も2ケタ成長に貢献した。
抗腫瘍薬内でキイトルーダ、オプジーボに次ぐ3位、全製品売上ランクで6位(前年度7位)のタグリッソは3.7%増の1110億円だった。23年6月に市場拡大再算定により10.5%の薬価引下げを受け、その後マイナス成長が続いたが、24年7月以降は四半期ベースで5%前後の成長となっている。
◎糖尿病薬市場は7%成長 CKD適応もつフォシーガ18.1%増収、ジャディアンス35.0%増収
薬効別売上2位の糖尿病治療薬の市場規模は7.0%増の7744億円となり、堅調な成長が続いた。CKD適応を持つSGLT2阻害薬のフォシーガやジャディアンス、週1回投与のGLP-1受容体作動薬・マンジャロが同市場をけん引。フォシーガは18.1%増の1035億円で、糖尿病薬内で引き続き売上1位、全製品では7位(前年度9位)となった。ジャディアンスの成長率は35.0%だが、売上は非開示(IQVIAは全製品売上上位10製品のみ製品売上を開示)。マンジャロの売上は422%アップを記録した。
◎デュピクセント40.5%増収、市場拡大再算定後も2ケタ成長 BS参入のステラーラは11%減収
薬効別売上3位の免疫抑制剤市場は3.0%増の6380億円だった。同市場内で引き続き売上1位、全製品で4位(前年度10位)のデュピクセントは40.5%増の1217億円となり同市場をけん引した。デュピクセントはアトピー性皮膚炎の小児適応や慢性蕁麻疹の適応が成長ドライバーで、24年4月改定では新薬創出等加算に小児加算もつき、汎用規格の皮下注300%ペンは5.0%薬価が引き上げられた。結果、24年4~6月期、7~9月期は前年同期比50%以上の大幅増を記録した。11月に市場拡大再算定により13.1%の薬価引下げを受けて成長率は鈍化したが、それでも10~12月期は前年同期比37.5%増、25年1~3月期は同16.6%増と成長を続けている。
24年5月にバイオシミラー(BS)が参入したステラーラは24年度に11.2%の減収となった。
◎全身性抗ウイルス薬は25.6%減 新型コロナ治療薬の大幅減収で
薬効別売上4位の抗血栓症薬は0.2%減の4320億円だった。薬効内売上1位、全製品でも2位となったリクシアナは12.7%増の1515億円に拡大。その一方で、24年12月に後発品が参入したイグザレルトは26.4%減収となり、抗血栓症薬市場は若干縮小した。
全身性抗ウイルス薬市場は25.6%減の3945億円となり、市場規模は前年度の4位から今回5位に後退した。ラゲブリオなど新型コロナ治療薬の大幅減収が響いた。
◎不採算品再算定適用の漢方薬含む市場 15.5%増収 前年度10位圏外から今回8位
このほか、漢方薬を含む「その他の治療を目的とする薬剤」が15.5%増の3144億円となった。薬効別売上ランクは前年度の10位圏外から今回8位となった。2ケタ成長の原動力は24年4月改定で不採算品再算定が適用された漢方薬。IQVIAによると、成長率15.5%のうち、13.2%が漢方薬等の薬価引上げによるものだとしている。
◎製品別売上 年間1000億円超は8製品 エンレストがトップ10入り
24年度の売上上位10製品をみると、8製品が売上1000億円以上となった。1位はキイトルーダ(売上1917億8700万円、前年度比16.3%増、前年度1位)、2位はリクシアナ(1515億8900万円、12.7%増、4位)、3位はオプジーボ(1367億2300万円、16.9%減、2位)、4位はデュピクセント(1217億5600万円、40.5%増、10位)、5位はタケキャブ(1208億3600万円、3.7%増、6位)、6位はタグリッソ(1110億6500万円、3.7%増、7位)、7位はフォシーガ(1035億1000万円、18.1%増、9位)、8位はイミフィンジ(1031億9200万円、14.5%減、5位)、9位はアイリーア(950億9700万円、6.5%増、8位)、10位はエンレスト(889億9300万円、47.7%増、10位圏外)――となった。
今回売上トップ10入りしたエンレストについてIQVIAは、「24年2月の慢性心不全の小児適応の追加を受け、5月に小児専用製剤を発売したことで売上げを伸ばした」と分析している。エンレストがトップ10入りする一方、ラゲブリオがトップ10圏外となった。
◎販促会社ベースの企業別売上 中外製薬が4年連続1位
企業売上ランキングを見てみる。「販促会社ベース」(販促会社が2社以上の場合、製造承認を持っているなどオリジネーターにより近い製薬企業に売上を計上して集計したもの)では、中外製薬が4年連続で1位となり、売上は1.0%減の5343億円だった。乳がんや大腸がんに対するパージェタとハーセプチンの固定用量による配合皮下注製剤フェスゴが788%増収、加齢黄斑変性症治療薬バビースモは42%増収をなる一方、パージェタは45%減収、バイオシミラーが参入しているアバスチンは2ケタ減収となるなどし、結果1%の減収にとどめた格好だ。
トップ5社をみると、2位は前年度と変わらずアストラゼネカ(5112億円、0.4%減)だが、3位は前年度4位の第一三共(4924億円、2.3%増)、4位は前年度3位のMSD(4511億円、9.3%減)、5位は前年度と変わらず武田薬品(4278億円、3.8%減)――だった。MSDはキイトルーダが大きく伸びる一方、ラゲブリオの減収影響が大きかったとみられる。
◎売上上位20社 10%以上成長はファイザー、日本イーライリリー、サノフィ、ツムラの4社
売上上位20社について、前年度から10%以上の力強い成長をみせたのは8位のファイザー(3192億円、26.1%増)、10位の日本イーライリリー(2712億円、13.7%増)、11位のサノフィ(2650億円、12.3%増)、20位のツムラ(1932億円、22.1%増)――の4社あった。ファイザーはコミナティやプレベナー20といったワクチンや抗がん剤が貢献。日本イーライリリーはマンジャロ、イブグリース、ベージニオ、サノフィはデュピクセントやベイフォータスなどが貢献。ツムラは漢方薬の不採算品再算定による薬価引上げが高成長につながった。
◎病院市場と開業医市場は堅調に成長 「薬局その他」市場は0.2%減、眼科用薬の減少も影響
なお、国内市場を100床以上の病院市場、100床未満の開業医市場、主に調剤薬局で構成する「薬局その他」の市場別で売上規模を見てみると、病院市場は前年度比1.6%増の5兆4163億円、開業医市場は1.9%増の2兆1551億円、薬局その他市場は0.2%減の3兆9159億円――だった。
病院市場は前年度に4.6%伸びたことと比較すると、24年度は堅調な成長をみせたものの、成長率は鈍化した。抗腫瘍薬の成長が著しく低下したことが大きく影響した。開業医市場は前年度とほぼ同様の成長率。新型コロナ治療薬の下落分をワクチン類や糖尿病治療薬、アトピー性皮膚炎の新薬でカバーした。
マイナス成長に転じた薬局その他市場は、新型コロナ治療薬のほか「眼科用剤の減少が影響した」(IQVIA)。24年4月に後発品が参入したジクアスは24年度に66.9%減収となるなどした。