日本医療政策機構 痩身目的での肥満症薬の供給「流通経路のコントロール限界」薬機法など法整備検討を
公開日時 2025/09/30 04:53
日本医療政策機構(HGPI)は9月26日、「社会課題としての肥満症対策」と題する論点整理を公表し、医療提供体制の課題や美容痩身医療・自由診療についての見解を示した。痩身目的の肥満症薬の適応外使用は医薬品副作用被害救済制度の対象外で、重篤な健康被害を受けた際に補償がない。また、誇大広告や誤解を招く情報によって肥満症へのスティグマを助長する可能性あると指摘。医療広告規制が遵守されない形で「GLP-1ダイエット」等と称し、ネット上で肥満症薬の適応外使用を医療機関が広告していることも問題視した。さらに、製薬企業が痩身目的での肥満症薬の供給を規制することは難しいとし、「処方や流通における適切な管理に向け、分野横断的な議論の推進や薬機法等の法整備も検討が必要」と提言した。
今回公表した論点整理は、日本の肥満および肥満症政策の現状を整理し、肥満対策の歴史や関連政策の課題を分析し、予防から肥満症の医療体制構築までの具体的な論点をとりまとめたもの。肥満症の医療提供体制や美容痩身医療・自由診療の課題や方向性などを明示した。
このうち医療提供体制の課題として、肥満症治療の選択肢について医療従事者・患者双方で認識が不足していると指摘。医療従事者のスティグマによる診断・介入の遅れなどの可能性があり、肥満症治療へのアクセス、専門医療機関・多職種連携体制の不足などが課題だとした。
◎「簡素なオンライン診療やインターネット購入」 肥満症薬の適応外使用を問題視
美容痩身医療・自由診療の課題としては、「痩身目的で肥満症治療薬の処方をオンライン診療や自由診療で希望する、もしくは簡素なオンライン診療やインターネットで自己購入する、いわゆる肥満症治療薬の適応外使用が問題となっている」と指摘。痩身目的での肥満症治療薬の適応外使用は「医薬品副作用被害救済制度」の対象外とし、「同意の上の美容医療とはいえ、重篤な有害事象がおきた際の公的な補償がない」と警鐘を鳴らした。さらに、「このような美容医療は、データの収集やNDBなどの公的なデータベース上にデータが収集されないため、分析や状況把握ができない」とも言及した。
論点整理では、急性膵炎などで保険医療機関に緊急搬送された事例が聞かれ、過去10年において美容外科を標榜する医療機関は約2倍以上に増加したと報告。「美容医療の広がりと共にこのような事案が増加することが見込まれる」とし、限られた社会保険費を国民が納得できる形で運用すべく、混合診療の定義や保険医療の対象範囲を今後見直す必要がでる可能性もあるとした。
◎インターネットやSNS上で肥満症薬の適応外使用を広告 医療広告GL順守を呼びかけ
また、一部医療機関等によりインターネットやSNS上で肥満症治療薬の適応外使用がなされ、さらに広告の影響から本来保険適用で薬剤療法を受けるべき肥満症患者が「自由診療しかないと誤認」し、費用面の心配から専門医療機関へのアクセスを躊躇している実態が一部見られていると指摘。「このような広告はSNSの普及などによるルッキズム、肥満へのスティグマを助長する社会風潮の高まりの中で、被害を拡大させる可能性がある」と警鐘を鳴らし、医療広告ガイドラインの順守を呼びかけた。
◎肥満症治療薬の供給「製薬企業が規制することは難しい」流通等で分野横断的な議論を
このほか、痩身目的のGLP-1受容体作動薬の処方は、「医師法において医師の権利として定められる処方権の下で医師の判断で処方されている」と指摘する一方で、「痩身目的で肥満症治療薬の処方を行う医師を規制する法律は存在しない。また、痩身目的で処方する医療機関へ薬剤を供給しないように製薬企業が規制することは現状難しく、流通経路のコントロールに現行システム下では限界がある」と強調し、適応外処方による深刻な健康被害に対処するには、「処方や流通における適切な管理に向けて分野横断的な議論の推進や薬機法等の法整備も今後検討が必要」との見解を提示した。