Krystal・笠本社長 DEBの遺伝子治療薬バイジュベックゲルを10月22日発売 「1日も早く届けたい」
公開日時 2025/10/22 04:50

Krystal Biotech Japan(KBJ)の笠本浩代表取締役社長は10月21日、栄養障害型表皮水疱症に対する国内初の塗布する遺伝子治療薬・バイジュベックゲルについて、22日の薬価収載を経て即日発売すると発表した。21日に開催したバイジュベックに関するプレスセミナー/事業戦略説明会で明らかにした。バイジュベックは国内初の在宅投与が承認された遺伝子治療薬でもあり、納品前の医療従事者の講習が義務化されるなど、納品・処方開始までに複数のステップを踏む必要がある。笠本社長は、「本製品を1日でも早くお届けしたい患者さんのために、社員一丸となってそれを目指す」と強調し、「処方を検討している医師は早めに当社に問い合わせを」と呼びかけた。
◎「この世に存在する痛みの中でも最も残酷」 皮膚がん発症のリスクも
国の指定難病の栄養障害型表皮水疱症(DEB)は、VII型コラーゲンα1鎖(COL7A1)遺伝子変異により、VII型コラーゲン(COL7)タンパク質の産生が不足し、皮膚と粘膜組織に影響を及ぼす希少な遺伝性皮膚疾患。皮膚を支えるタンパク質(VII型コラーゲン)は、表皮と真皮をつなぎとめる「係留線維(アンカリングフィブリル)」という糸のような構造を作るが、DEB患者は遺伝子変異により係留線維を作ることができず、表皮がはがれて傷ができ、その間に体液がたまることで水疱や潰瘍が生じる。国内患者数は250~500人程度。
患者にとって最もつらい症状は日々繰り返す全身の痛み。毎日何時間もかけて全身のガーゼを交換する際の、皮膚が剝がされる痛みは、専門医からも「この世に存在する痛みの中でも最も残酷」と評されるほどの激痛とされる。些細な摩擦でも傷ができることから、傷が絶え間なく身体のどこかにある。また、症状が強い潜性DEB患者は、生涯に必ず皮膚がんになると考えられており、早ければ10代から発症し、繰り返し発症することで他の臓器にがんが転移し致命的な経過をたどることがある。
◎北大大学院皮膚科学教室・夏賀准教授 「治験の結果は非常にプロミシング」
バイジュベックは単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)ベースの遺伝子治療薬。通常、週1回、本品の液滴を約1cm×1cmの格子状になるように皮膚創傷部に滴下塗布して用いる。これにより係留線維を作る。日本人患者4例を対象とした非盲検延長試験では、4人全員が主要評価項目の「6カ月時点での創傷の完全閉鎖」を達成し、これは米国で実施された第3相試験をはじめとする臨床試験と一致していた。安全性は、良好な忍容性を示し、安全性プロファイルもこれまでの試験結果と一貫していた。
KBJメディカル本部長で日本の治験責任医師を務めた髙徳正昭氏は、治験における創傷閉鎖の持続期間は約3カ月で、創傷閉鎖時は休薬となるが、また傷が開放すると投薬するとの手順になると説明。「バイジュベックは永続的に効くわけではない」と述べた。
この日のプレスセミナーに登壇した北海道大学大学院医学研究院皮膚科学教室の夏賀健准教授(写真)は、「今回の治験の結果は非常にプロミシングと考える。これまでにない治療成果」と評価した。そして、「(バイジュベックは)完全治癒できる治療薬ではない」とした上で、「患者さんがより良い生活をおくれる完全治癒を目指した治療法を開発したい。これに向けてバイジュベックの上市は非常に大きな第一歩」と話した。

登壇したNPO法人表皮水疱症友の会DebRA Japan代表理事で国内治験に参加した宮本恵子さん(写真)は、「新しい傷は非常に治りが早く、何回も皮膚の癒着を繰り返して瘢痕化するなど、治りにくい傷ほど(バイジュベックでの)治りが遅かった」と自身の治験経験を話してくれた。乳幼児から使用するなどより早期からバイジュベックでの治療を開始することで傷が治りやすいのではないかと期待を寄せ、患者向け勉強会の開催に意欲をみせた。
◎バイジュベックの在宅投与 アルフレッサグループとワンストップサービス構築
笠本社長は、バイジュベックの在宅投与の実現にあたり、未知の成分を拡散させないためのカルタヘナ法への対応と、患者宅への配送システム構築の“2つの壁”があったと振り返った。
24年10月の承認申請からの1年間に当局相談しながら“2つの壁”にも挑んだと言い、アルフレッサグループでスペシャリティ製品の流通を手掛けるエス・エム・ディ(SMD)社と連携して、製品の輸入、製造、保管、流通、配送と、その後のカスタマーサポートを含むワンストップサービスを構築したと紹介した。在宅投与を希望する患者宅には、製品をマイナス20℃で保管するための鍵付き小型冷凍庫を事前に配送し、患者向け投薬キットも用意した。
処方にあたっては、最適使用推進ガイドラインに則った納品前の医療従事者(医師向け、薬剤部向け、投薬に関与する看護師向け)の講習が義務化されており、KBJがこれらの講習を担う。講習を全て修了し、カルタヘナ法への理解と遵守を約束してもらったうえで、納品となり、処方を開始できる。
◎大学病院を中心に80施設に納品予定 講習会修了は30施設以上
笠本社長によると、講習会を修了した医師と患者の間で、病院で週1回投与するか、在宅投与とするかを決定し、在宅投与とした場合は長期投与制限もあるため、26年10月までは2週間分が患者宅に配送されると説明した。投与日が確定すると、投与日の10~14日前に患者宅に冷凍庫が届くとした。
KBJは各都道府県の大学病院を中心に暫定で80施設への納品を予定している。笠本社長は、「講習会をおえた施設が30施設以上ある」と明かし、早ければ11月初旬から在宅投与が始まるとの見通しを示した。