流改懇 流通改善GL改訂へ 製薬企業は「流通コスト」意識した仕切価設定を 流通不採算・逆ザヤで
公開日時 2025/11/06 06:29
厚生労働省は11月5日の医療用医薬品の流通改善に関する懇談会に、流通改善ガイドライン改訂に向け、製薬企業・医薬品卸の川上取引で、「流通コスト」を明記することを提案した。長期収載品、後発品ともに、流通不採算や逆ザヤが存在し、川下の医療機関・薬局が薬価を超える価格で購入しており、負担を強いられているとのデータを示した。流通改善ガイドラインに明記することで、製薬企業側の意識醸成を図り、流通コストを踏まえた仕切価設定、割戻しを設定につなげたい考え。このほか、薬機法改正で重要供給確保医薬品、供給確保医薬品が設けられたことを踏まえ、取引上の“別枠品”を見直す。厚労省は、流通改善ガイドラインは、26年度薬価改定後の価格交渉に間に合うよう、改訂する方針。
◎GE薬協・製薬協アンケート 逆ザヤ仕切価格は25年で6.4% 年々増加傾向
厚労省はこの日の流改懇に、薬価を超える販売額を軸にいわゆる“逆ザヤ率”を試算した結果、が後発品0.095%、長期収載品0.003%だったことを示した。日本医薬品卸売業連合会(卸連)のデータを引き合いに、流通不採算は後発品で10.5%、長期収載品で6.9%とのデータも提示。卸の仕入原価率と販売管理費が増加しており、カテゴリーごとの販売額に占める薬価超過部分の割合も後発品は年々、長期収載品も23年から24年に増加がみられた。このため、流通コスト(メーカー仕切価率含む)及び卸の流通不採算と逆ザヤの状況は、いずれも上昇傾向にあることが確認されたとした。
◎逆ザヤ品目大半が後発品 GE薬協・村岡構成員「赤字品目は設定せざるを得ない現実」
一方で、日本ジェネリック製薬協会(GE薬協)と日本製薬協会(製薬協)の加盟社を対象に行ったアンケートによると、仕切価率が100%以上となる逆ザヤ仕切価が設定された包装単位は、全包装単位数に対して、23年3月に5.2%、24年3月に5.8%、25年3月に6.4%と右肩上がりで推移していた。逆ザヤ設定の理由として、原材料費の高騰が約8割、販売管理費(人件費や配送費)の高騰は約5割以上だった。ただ、安定供給確保の為の設備投資・原薬追加、将来の開発品などの検討費用が必要などの回答もあったという。カテゴリー別にみると、逆ザヤ品目のうち、100%超の仕切価を設定した品目の約8割が後発品だった。
この理由を問われた村岡英徳構成員(日本ジェネリック製薬協会流通適正化委員会委員長)は、「大前提として、協会としては、たとえ赤字であっても、可能な限り仕切価を薬価以上に設定すべきではないと考えている。しかしながら、製造原価の高騰や毎年改定の結果、薬価が急激に下落することによって、製造原価が薬価を上回る品目について、言い換えれば、売上の増加が赤字の拡大につながってしまうような品目については、企業によっては、仕切価を薬価以上に設定せざるを得ない現実も存在する。一般的に、後発品の仕切価率が高いのは、薬価が低いことによって、相対的に原価率が高くなることに起因する。また、後発品では総価取引の比率が高く、乖離率が大きくなりやすいこと、さらに低薬価品が多いことも影響している」と説明。「いわゆる逆ザヤ品目に関しては、その理由や背景を丁寧に、卸業者さん、あるいは販売会社さんへ説明するように、今後も会員企業に対して周知徹底を図っていきたい」と述べた。
熊谷裕輔構成員(日本製薬工業協会流通適正化委員会委員長)は、「逆ザヤは、流通の中で、通常の状態ではないと我々も捉えている。製薬協としては、数値的には非常に少ない、数々%ということになっている。だからいいというわけではないが、一つずつ、通常の状態ではない状態になっているので丁寧に見ていきたい」と述べた。
◎小山構成員「医療現場にしわ寄せ」 メーカーは自由にあげて不採算も
貞弘光章構成員(全国自治体病院協議会常務理事)は、「逆ザヤ品は、金額的に大きくはないが、意外と安定供給医薬品に近い薬剤がなっているものが多い。使わざるを得ないことを言い訳に逆ザヤになっている」と指摘。総価取引では逆ザヤも少ない一方で、「単品単価している公立病院、正直にしているところは、今後も逆ザヤが出てくるだろう」と見通した。特に流通コストを明確にされることでの地方の病院への影響を懸念し、「地方の公立病院には風が厳しい」と述べ、公平性を求めた。
小山信彌構成員(日本私立医科大学協会参与)は、「取引価格は薬価を超えた状況とあるが、薬価を超えても全く問題ないということなのか」と指摘。藤沼義和主席流通指導官は、「取引の中では当然、必要な原価などを計算して価格を設定するというのは、市場取引のあり方だと考えている。例えば、仕切価の設定はメーカーの裁量にゆだねられている」と説明した。これに対し、小山構成員は「では、なぜ不採算品再算定が出てくるのか。不採算は値引き交渉をしてはいけないという縛りが病院にはかかるが、片や(メーカーは)それなりの理由があれば、上げてもいいとなると、しわ寄せがすべて医療機関に来るのではないか」と指摘した。このほか、川下の医療現場の委員からは、逆ザヤによるしわ寄せを懸念する声が相次いだ。
安中健・医薬産業振興・医療情報企画課長は、「流通にかかわる関係者のどこかにしわ寄せがいっていいということでは決してない。物価上昇や薬価が実勢価に下がってくる中で、市場取引委ねている中で、お互いに川上・川下の状況を理解しながら仕切価を設定して取引していくか議論する場だ」と述べ、理解を求めた。
小山構成員は、「結局、メーカーは不採算になれば値段は上げられるが、使う方は(医療保険のなかで)一切上げられないという条件下でいま、診療が行われていることを、ぜひご理解いただきたい」と応じた。
◎原構成員「公定価格のはずが、メーカーは自由薬価?」と問題提起
その後も川下の医療機関・薬局の構成員からは批判が相次いだ。眞野成康構成員日本病院薬剤師会副会長)は、「医薬品の全納入価と使用した薬価の金額で比較すると、もうすでにイーブンか少しマイナスで、納入価が若干上回っている状態になっている。すでに薬価差益がゼロか、マイナスになっている。医療機関によって差はあるだろうが、国立大学病院ではどこも似たような状態だと思っている」と表明。「卸さんや製薬企業の方は、その価格転嫁できるっていう話になっているが、我々薬価は動かせないし、割戻しのような都合の良い仕組みもない。そういう意味では、医療機関、あるいは薬局がそれらを全部負担しているということを考えると、きちんと議論し、ガイドラインに盛り込む必要がある」と述べた。「すでにしわ寄せは来ている」と危機感も示した。
原靖明構成員(日本保険薬局協会 医薬品流通検討委員会副委員長)も、「公定薬価だが、メーカーにとっては自由薬価ですか、と言われかねない状態になっている」と問題提起した。
◎不採算適用から2年経過の品目も単品単価を 安定確保医薬品Bの扱いは検討へ
薬機法改正で重要供給確保医薬品(安定確保医薬品A・B)、供給確保医薬品が位置付けられたことを踏まえ、別枠品の取り扱いも議論の俎上に上げた。現行の流通改善ガイドラインでは、安定確保医薬品Aが別枠品となっており、事務局は「重要供給確保医薬品のA群(概念的には安定確保医薬品カテゴリAに相当)」を引き続き別枠品とすることを提案した。また、ワクチンが供給確保医薬品に追加されたことを踏まえ、薬価基準に収載されているワクチンを対象とすることを提案した。
折本健次構成員(日本医薬品卸売業連合会参与)が「卸連合会としては、できれば別枠品にBも加えていただきたい」と要望。別枠品に設定されて以降、安定確保医薬品Aの乖離率が縮小したことを説明。さらに、「重要確保医薬品はAとB。Aは別枠でBは別枠ではないという説明はしづらい」と指摘した。このほかにも、Bも別枠品とすることを求める声があがった。一方で、Bを含めることで品目数が増大し、単品単価交渉の実効性に懸念もある。厚労省は意見を踏まえて考え方を整理する方針。
また、不採算品再算定は別枠品とされているが、適用から2年を経過した不採算品再算定適用品目の扱いについてはこれまでガイドライン上、明示されていなかった。このため、「新薬創出等加算品と同等に、引き続き単品単価交渉を求める」方針を示した。これについては構成員から異論は出なかった。