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「Well-being Ecosystem Forum 2026」 データの海から医療の未来を創る ウェルビーイングで議論

公開日時 2026/07/29 04:52
データの海から医療の未来を創る―をテーマに「Well-being Ecosystem Forum 2026」(主催:PwCコンサルティング合同会社 7月10日)が東京都内で開催された。東京大学公共政策大学院の村上敬亮特任教授(元デジタル庁統括官)は、「デジタル立国の航路、Society5.0は生活者をどこへ導くか」について講演し、地方創生の本質を生産性の低いサービス業の効率改善と定義し、人口減少が地域消費社会に与える影響を報告した。

村上特任教授は、長野県白馬村のタクシー事業者5社が共同で予約配車管理システムを導入した成功事例を紹介。外国人宿泊者数の急増により「宿泊分離」に踏み切った結果、タクシー需要が増加したが、各社1人の配車係では対応しきれない状況が発生したと説明。そこで5社共同で予約アプリシステムを導入し、AI活用したオンデマンドタクシー4台を運用することで、地域の移動需要データを相当程度蓄積することに成功したと説明した。

村上特任教授はまた、マイナンバーカード普及とマイナ救急システムの成果報告。3年で全消防本部に普及し、健康保険組合データの参照により病院選択ミスや投薬ミスを防止、実際に致死率低下を実現した。また、茅野市では定期運行バスをAIオンデマンドタクシーに切り替え、7年間で交通需要増加と市民一人当たり助成金額減少を達成したと紹介した。

◎「デジタル公共財」のエンジンとなる仮想統合基盤を提案

「デジタル公共財」のエンジンとなる仮想統合基盤の構築を村上特任教授は提案する。地域サービスの業務効率化を実現するため、データが集約・分析される頭脳となる「街のデータセンター(D.C.)」を設置するというもの。紙おむつなど生活必需品の統計的需要予測により、公民館への一括配送とマイナンバーカード機械読取による個人認証システムを組み合わせた物流効率化モデル「販売店2.0/デジタル公民館」を構築し、さらに商流と物流をデータによって最適化する「予測物量」に基づく効率的なサービス提供システムの構築を求め、これらを統合した仮想基盤の構築を提案した。

◎健康危機管理研究機構・三宅邦明DX担当理事-健康ビッグデータの航海学

続いて登壇した国立健康危機管理研究機構(JIHS)DX担当理事の三宅邦明氏(元厚生労働省医系技官、ディー・エヌ・エー CHO室室長)は「健康ビッグデータの航海学」をテーマに講演した。三宅理事は、医療AIが直面する「データ貧困」という課題を指摘し、生成AIがネット上の無限のデータを活用できた一方で、医療分野では現実世界の生データが不足していることを説明した。また、国内アカデミアの日本語医療LLMの研究例を引用し、日本の診療ガイドラインや専門医試験データを追加学習させても、海外の商用生成AIには勝てなかったという結果を示した。

◎医療データの「鎖国状態」から「開国」への転換

三宅理事は、医療データの「鎖国状態」から「開国」への転換について説明した。COVID-19パンデミックでFAXによる感染者報告などの問題が露呈し、2024年12月のマイナンバーカード一本化、2025年度の全国医療情報プラットフォーム本格稼働など、国主導の開国が進んでいることを報告した。三宅理事はこの日の講演スライドで、全国医療情報プラットフォームを基盤に、「AX」(生成AI、AIエージェント)と、「DX」(多職種連携プラットフォーム)、「PHR」の3つを国の基盤の上に重ね、「国は基盤、民間は現場実装を進める」考えを強調した。また生成AIやAIエージェントについて三宅理事は、2023年以降、実用レベルに到達し、いまでは必要不可欠な存在になっていると指摘。DXとPHRについては、「国の医療情報基盤の整備で、制度面の地ならしが進み、複数ベンダーから製品が出揃う時代になった」との認識を示した。

◎NTT研究開発マーケティング本部・爪長美菜子部門長-AI時代の医療データ活用

NTT執行役員で研究開発マーケティング本部アライアンス部門長の爪長美菜子氏が、「データの海から医療の未来を作る――AI時代の医療データ活用」について講演した。

爪長部門長は、日本では年間25億回のカルテ情報、21億件のレセプト、5000万件のCT・MRI検査データが生成されているが、単位、項目、基準が揃っていないため活用が困難であることを指摘した。爪長部門長は、医師偏在指標において全国平均と東京都・青森県で1.8倍の格差があることを示し、診療支援AIの必要性を説明した。しかし、汎用AIによるハルシネーションが25%発生し、日本の診療ガイドラインに沿わない誤回答が6割を占めるという課題を指摘。これに対し、NTTは医学書院と共同で医療AI情報プラットフォームを開発し、RAG(Retrieval-Augmented Generation)技術を活用して信頼性の高い回答を提供する取り組みを進めている。

◎レセプトデータを活用した患者発見システムの構築

創薬分野では、日本の治験における患者リクルートの困難さを指摘し、NTTドコモの健康アプリや100万人のアンケートパネル、370万人のレセプトデータを活用した患者発見システムの構築を進めている。また、DCT(分散型臨床試験)の支援により、遠隔での治験参加を可能にする取り組みも紹介した。
 PGx(ファーマコゲノミクス)を活用した個別化医療については、がんの薬剤有効率が20数%に留まることや、ワルファリンの処方量が個人間で5-10倍異なることを示し、遺伝子情報に基づく薬剤選択の重要性を説明した。NTTグループでは、18種類の薬剤関連遺伝子を解析し、70種類の薬剤成分を対象とした「遺伝子検査Genovision PGx」サービスを提供開始した。

医療データ活用の制度整備については、内閣府の「医療等情報の利活用の推進に関する検討会」に経団連代表として参画し、日本版EHDS(European Health Data Space)の検討を進めていることを報告した。データの一次利用と二次利用を一体的に設計したヘルスケアデータスペースの構築と、本人同意に過度に依存しないデータ利活用の仕組み作りを提言している。

◎弘前大学副学長・村下公一教授-「岩木検診」包括的な健康診断実施

弘前大学副学長の村下公一教授は、日本の長寿社会における課題と弘前大学の取り組みを紹介した。日本人の平均寿命は女性87歳、男性80歳で世界最長寿国だが、青森県は平均寿命が日本で最下位という課題を抱えている。この課題解決のため、2005年から22年間にわたり研究を継続し、現在約50社の企業と連携している。特徴的なのは一般的なヘルスケア企業だけでなく、異業種企業が参画していること。弘前大学では「岩木検診」という包括的な健康診断を実施しており、朝6時から夕方5時まで約12時間かけて3000項目のビッグデータを収集している。これは一般的な健診の30~40項目と比較して100倍の幅広さを持つビッグデータとなっている。検査ブースは今年64ブースを設置し、22年間で3万人のデータを蓄積した。

村下教授は、健康を目的化するのではなく、目的達成のための手段として捉える重要性を強調した。また、長寿の秘訣として人と人の関わりや目的意識の重要性を挙げ、ウェルビーイングの概念を中心とした健康資本論の考え方を紹介した。これは人的資本論をベースに、健康産業への投資により人々がより健康になり、地域の資本が高まり、経済も活性化するという循環モデルである。一方、研究成果として、富士通へのライセンシング事例や、スマートフォンを使った内臓脂肪測定技術、顔動画による10秒でのバイタルデータ推定技術などを紹介した。AIが搭載された鏡との会話により脳年齢を測定する技術も開発されている。

ウェルビーイング研究について村下教授は、ハーバード大学との共同研究を通じて、多様な軸からの評価手法を開発していることを報告。日本のウェルビーイング指標は国際的に低く、世界幸福度ランキングでは61位、ハーバード大学の調査では22カ国中最下位という結果が示されたと明かした。この背景として、経済格差の拡大や共助の弱体化を指摘した。

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