政府・AI戦略本部 創薬・医療含む戦略19分野 「バーティカルAI」開発・実装で集中的な官民投資を確認
公開日時 2026/07/13 04:52
政府の人工知能戦略本部(AI戦略本部 議長・高市早苗首相)は7月10日、「第2期人工知能基本計画」を決定した。創薬・医療を含む戦略19分野で「バーティカルAI」の開発・実装に向けて集中的な官民投資を行う方針を確認した。AI創薬については、「今後の製薬産業の構造改革も見据え、基礎研究から臨床開発までの創薬バリューチェーン全体にバーティカルAIを活用する」と指摘。AIを前提に審査業務や組織の再構築を実現するとし、創薬プロセスの高度化・迅速化の推進に官民投資を集中する。一方で医療分野では、エージェント型AIやフィジカルAI等の活用を前提とした医療者や医療機関の業務・経営改革を推進するとした。
◎基礎研究から臨床開発までの創薬バリューチェーン全体にバーティカルAIを活用
自律型のエージェント型AIの登場により、日本政府としてもAI実装能力を国家基盤として強化する必要性が急速に高まっている。この日のAI戦略本部には、官民投資を集中化する「バーティカルAI領域別戦略」の中間とりまとめが示された。創薬力強化の面からは創薬領域全体のAI駆動化の推進が盛り込まれた。基礎研究から臨床開発までの創薬バリューチェーン全体にバーティカルAIを活用するとし、「創薬とAIを橋渡しする人材の育成や事業化支援を後押しし、AIを前提とした創薬産業・市場を形成していく」と明記した。
◎薬事審査・安全対策でのAI生成物の検証・評価 審査報告書作成へのAI活用など検討
一方でバーティカルAIを創薬領域に活用していく際の課題にも触れ、創薬領域での社会実装には、ウェット(実験)工程自動化の高額な投資、創薬データ標準化の未整備、データの分断・サイロ化、バリデーション(検証)に必要な正解データの商用利用の困難さ、AI前提の評価・薬事審査の不明確さ等があると指摘した。特に制度的な課題では、「AI生成物と薬事審査の関係性が不明確」と強調。AIを用いた治験設計やデータの二次利用ルールやプライバシー保護要件等の規制の複雑さ、データ利用契約、匿名加工、知財、薬事における機関横断連携の困難さなどをあげた。さらに、薬事審査・安全対策におけるAI生成物の検証・評価や、審査報告書作成におけるAI活用による業務効率化と迅速化などへの対応が必要としている。
◎官民連携で創薬プロセス工程を高度化・迅速化する共用の“AI駆動型自律ラボ”を整備
課題解決の手段・アプローチでは、「官民連携で創薬プロセスの各工程を高度化・迅速化する共用の“AI駆動型自律ラボ”を整備し、AI計算基盤やセキュアデータ基盤へのアクセスを確保することにより、スタートアップを含む企業や連携するアカデミア等が低コストで創薬活動に利用可能な体制を確保する」と強調。制度課題に対しては、審査の迅速化・高度化に資する薬事審査におけるAIの利活用を推進する。医療データの二次利用に関するルールの明確化を進めるとともに、匿名加工・プライバシー保護・知財の取扱いを一体的に整理することが必要とも指摘した。
政府は、2030年度に向けてAI駆動型自律ラボとの連動により“ドライ”と“ウェット”を融合した AI創薬を実現するとし、創薬プロセス全体の迅速化・高度化を推進するための官民投資を集中させる方針も明示した
◎医療・介護分野 施設間・システム間・制度間でのデータの分断等の課題解決を進める
一方、医療・介護分野については、「AIの活用を前提とした業務・経営改革を推進することにより、構造的な従事者の不足や労働負荷に直面する中であっても、安心・安全で質の高い持続可能なサービスを安定的・効率的に提供できる環境を構築する」と指摘。AIの活用に関する法令や規制、運用ルール等の曖昧さの解決、AI活用に関する課題である施設間・システム間・制度間でのデータの分断等の課題解決を進めるとした。
◎エージェント型AI活用 「電子カルテの仕様に依存しない医療AIの市場を創出」
医療・介護分野でのAI活用のイメージとして、医師、看護師等による記録業務や診療支援の自動化、相談業務支援、薬局での患者の治療離脱の検知等を例示。実効性の高い領域から、導入意欲がある施設・機関へ段階的にAI導入を進め、そのインパクトを定量的に評価・共有することで、現場や経営層の意思決定を支援し、AI活用の横展開を図ると強調。「このために、現場への財政的・技術的観点から普及支援を行うとともに、AI導入効果の定量指標やベンチマーク等の客観的な指標を整備する」と指摘。さらに、「個社の電子カルテとエージェント型AIの連携を可能とする標準規格を策定し、その実装を進めることで、電子カルテの仕様に依存しない医療AIの市場を創出していく」との見解を示した。
◎改正個人情報保護法も参院本会議で与野党の賛成多数で可決・成立
なお、この日は参院本会議で改正個人情報保護法の採決が行われ、与野党の賛成多数で可決・成立した。改正法では、これまで新薬開発のために医療データを利用する際、原則として患者本人の同意(オプトイン)を必要としてきたが、今回成立した改正法では「統計作成等の特例」により、AIモデルの学習や統計作成の目的に限り、本人の同意なしに病歴などの「要配慮個人情報」を取得・提供できるようになる。今後のAI創薬を議論する際に、今回成立した改正個人情報保護法が追い風になるとの見方もある。今後、分野別ガイドライン策定など議論が行われる見通し。改正法の施行は交付から2年以内(2028年度)となる。