財務省の財政制度等審議会は5月21日、22年度から3年間を歳出改革の継続期間とする「財政健全化に向けた建議」を麻生財務相に提出した。22年度、24年度の薬価・診療報酬改定と23年度の薬価中間年改定がこの期間にある。建議では、医療について、「医療提供体制の改革なくして診療報酬改定なし」と指摘し、地域医療構想を推進する方針を明示した。薬剤費の適正化については、薬事承認（年4回）された新薬のほぼ全てが薬価収載されていると指摘し、「保険適用された医薬品に対する予算統制のあり方を抜本的に見直す」と、薬剤費への予算規律の導入を提言した。

◎「地域医療構想」遅滞なく進めるべき　「かかりつけ医」機能の法制上明確化も

22年度予算編成の焦点に次期診療報酬改定がある。その前哨戦となる今回の財政審建議では、「医療提供体制の改革なくして診療報酬改定なし」とのメッセージを刻んだ。新型コロナ対応で自治体の意識が高まっていることを踏まえて、「地域医療構想」について遅滞なく進めるべきとした。効率的で質の高い医療提供体制の整備では、緩やかなゲートキーパー機能を備えた「かかりつけ医」の推進は不可欠とし、「かかりつけ医」機能の法制上明確化（制度化）を求め、機能分化を進めるためのメリハリをつけた方策を推進すべきと提言した。

診療報酬の考え方について、「民間医療機関の対応が鍵を握るからこそ、民間の経営原理に働きかけることができる診療報酬の役割が舵取り役として極めて重要」とした。ただ、過去の診療報酬改定で「旧７対１入院基本料の算定病床の急増が生じ、その後これに相当する急性期一般入院料１の算定病床の適正化も進んでいない」と批判し、「医療資源が散在する“低密度医療”の現状の改革につながらなければ、財政資源としても散財となりかねない」として、「（診療報酬の）あり方の真摯な見直しが必要」とした。加えて、消費税増収分を活用して診療報酬に充てる場合は、「診療報酬増が保険料負担・患者負担の増加をもたらすことを踏まえれば、改革を通じてその効果が国民に還元されるものでなければならない」と強調している。

◎新薬の保険収載　既存医薬品の保険給付範囲の見直しなど財政中立で

薬剤費については「予算規律」の導入を求めた。特に新規医薬品について、「年４回、薬事承認されたものは事実上すべて収載され、保険収載で生ずる財政影響は勘案されていない。予算規律の埒外となっている」として、財政の予見可能性が失われていると指摘した。その上で、新規医薬品を保険収載する場合は、保険収載と既存医薬品の保険給付範囲の見直しとを財政中立で行うなど、「予算統制のあり方を抜本的に見直し、正常化を図るべき」と提言している。

薬価算定方式については。行革推進本部の指摘を踏まえ、類似薬効比較方式を採用する時の薬価算定の厳格化や、原価計算方式の更なる適正化、補正加算のあり方の見直しを行うべきとした。新薬創出・適用外薬解消等促進加算については、「毎年の薬価改定のタイミングで、後発品が収載された先発品や、収載後15年が経過した先発品について、それまでの累積額を控除する仕組みとすべき」と強調。さらに費用対効果分析については、長期収載品にも対象を拡大するとした。

◎毎年薬価改定の完全実施を「早期に実現」　「調整幅」のあり方見直しも

毎年薬価改定については、改定対象品目数が約７割となったことや、「長期収載品の薬価改定（G1,G2,C）」 や「新薬創出等加算の累積額の控除」等が適用されなかったことを指摘しながら、完全実施を早期に実現すべきとした。

さらに、「新型コロナウイルス感染症特例として薬価の削減幅が0.8％分緩和されたことは21年度薬価改定限りである」とし、「調整幅」について「その合理的な根拠（エビデンス）を含め、あり方を見直すべき」との見解を示した。後発品の使用促進については、バイオシミラーを含めて新たな数量目標の設定を求めたほか、「フォーミュラリのガイドラインの策定に取り組む中で後発医薬品の選定基準を設けることなどを検討すべき」とした。

◎奨学寄附金は廃止を含めて見直す

「奨学寄附金については廃止を含めあり方を見直す」ことも盛り込んだ。建議では、大学に対する奨学寄附金と大学病院における薬剤の適正使用との関係がかねて注目されていると強調。奨学寄附金の規模が、国内売上上位10社（2019年度）で、1万1355件、総額72億円に及ぶとし、製薬業界は、「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」を改定するなどの取り組みを示しながらも、「院内処方や先発医薬品使用との関係についても疑念が生じないようにする必要」とした。