城元経済課長(現AMED理事)が語る22年の焦点 いまこそ製薬業界の姿勢が問われている~薬価制度改革
公開日時 2022/05/23 04:52
城克文元厚労省医政局経済課長(現・AMED理事)は本誌取材に応じ、薬価制度改革に臨む製薬業界の姿勢に苦言を呈した。日米欧製薬団体からは、政府が行った過去の薬剤費抑制策に対する批判の声はあがるものの、国民が納得できる大義ある業界の主張や提案がない状況が続いている。城元経済課長は「当事者意識」のなさを指摘。過去に調整幅や新薬創出等加算が導入された際には、必ず実現するとの意気込みで製薬業界が数年がかりで議論の俎上に載せてきたが、「財政側や保険者をはじめ、関係者の多くがいまのままでいいと思っているなか、抜本的に制度を変えようというのであれば、最低5年はかけるつもりで段取りや手順を考え、場を作るところから始めないといけない」とプロセスを踏むことの必要性を強調。いまだに製薬業界側で内部コンセンサスさえ得られていない状況について問題意識を露わにした。
薬価制度改革をめぐっては今年に入り、財務省主計局が財政制度等審議会財政制度分科会で、調整幅について「可及的速やかに、廃止を含めて制度のあり方を見直し、少なくとも段階的縮小を実現すべき」と主張。薬価流通政策研究会(くすり未来塾)が提言を公表するなど、動きも出始めた。日本製薬工業協会(製薬協)の岡田安史会長は1月の会見で、「医薬品市場のなかで、従来の延長線上の線引きを超えた議論を私はする」、「給付と負担の議論に積極的に参画する」と表明した。
◎「現行の薬価制度が制度疲労を起こしているのは間違いない」
現行の薬価制度は、2000年度改定で「加重平均調整幅方式」が導入され、調整幅が一律2%で維持されてきている。今の薬価制度の根幹には市場実勢価格主義が貫かれているが、後発品の浸透やポートフォリオや取引実態の変化などで、取り巻く環境は大きく変化してきた。城元経済課長は、「当時は良かれと思って制度を導入したのだろうが、20年以上の時が過ぎ、そもそもの前提も背景事情も変わっている。現行の薬価制度が制度疲労を起こしているのは間違いない」との見解を表明。そのうえで、「製薬業界は、新しい制度設計が必要だと言うのであれば、第三者の議論に参画するといった他人事ではなく、メインプレーヤーとして議論を主導する姿勢がまず必要だ」と指摘した。
◎「目先の自社経営の大変さを主張しても、誰も共感しない」
製薬業界は、“中間年改定阻止”を掲げてロビー活動を活発化させているが、「いまの状況はただ批判しているにすぎず、何の主張も提案もしていない」とも指摘する。エネルギー価格の高騰やそれに伴う為替変動で日本経済が厳しさを増すなかで、「ただ目先の自社経営の大変さを主張しても、誰も共感しない」と切り捨てる。
◎「薬価制度が時代に合致したものになるよう合意形成しようという姿勢は見られない」
製薬業界は、国民が革新的な新薬やワクチンを届けるためとして薬価制度改革の見直しを求めている。城元経済課長は、「国民観点からの薬価制度、というお題目なら誰でも言える。薬価制度が時代に合致したものになるよう、合意形成を主導しようという姿勢が見られない」と指摘。「業界内に様々な意見があるのはいつの時代でも当然のこと。直近の自社の経営だけを考えていては、いつまでたっても話は噛み合わない。それを業界内で許容しておいて、業界として意見がまとまらないから自ら意見を出さない、というのでは、そもそも各関係者との合意形成のスタートラインにすら立てていない。当事者意識の有無以前の問題なのではないか」と苦言を呈した。製薬業界の求める薬価制度改革を実現するには、政府や中医協で診療・支払側が同意することが必要になる。「業界内部の合意形成もできないのに、反対側を含めた関係者間の合意形成ができるわけがない」と断じた。
城元経済課長は、「どんな提案であっても、(自社のためではなく)社会全体のためにこれを実現しようという意識を業界全体で共有し、取り組まなければ何も前に進まない。その重要性すら認識できていないことが問題だ」として、個々の企業の立場を離れて業界としてのコンセンサスを作る意識を高めることの重要性を指摘した。
制度改革を実現するためには、時間をかける必要性も指摘。薬価制度をめぐっては過去に調整幅や新薬創出等加算などで製薬業界側の主張が実を結んだこともある。城元経済課長は、「過去の製薬業界は、もっと主張もしていたし、活動もしていた」と振り返った。そのうえで、「これまでの薬価制度の議論を見ればわかることで、歴史も少しは勉強したほうがいいと思うが、製薬業界側はいつも一枚岩でなかったが、それでもきちんとわかりやすい案を提案し、表舞台の俎上に載せてからも3年がかり、5年がかりで議論し、関係者の合意を得て仕上げてきている」と続けた。
「財務省や保険者がいまの舞台のままでいいと思っているなか、制度自体を変えようというのであれば、最低でも5年はかかる覚悟で、段取りや手順を考えて、場を作るところから始めることが必要だ」と話した。企業の新規プロジェクトの立案を引き合いに、目標設定やスケジューリング、各関係者の関心事項の分析や合意形成のための戦略、表舞台での段取りなど、初期段階での設計の重要性を指摘。「それを製薬業界では、誰も行っていない」と断じた。
ステークホルダーから共感を得るためには、「まずはエビデンスに基づいたファクトにより現状を提示する。そして、他社より多少高くとも自社の提案がいかに相手にメリットがあるものであるかを説明し、相手の共感を得て企画を通していくのが普通ではないのか。自社の経営が苦しく潰れそうだから高い価格で、とプレゼンされて受け入れる社はない。進め方も、まずは薬価制度を議論する場の立ち上げの必要性から、順序だてて一つひとつピン止めしながら進めていくことが重要だ。ひとりよがりな最後の結論だけを声高に叫んでも、誰も関心を示してはくれない」と指摘した。行政などは多くが2年で担当を交代することに触れ、業界の強みについて、「メンバーが変わらないことだ」として、長期の議論にも臨める強みを強調した。
こうしたプロセスを製薬業界が踏まないようであれば、「薬価制度は現状の手直しを繰り返し、製薬業界が沈んでいくことになるだけだ。そもそも関係者には業界が本気で薬価制度改革を実現しようと必死に取り組んでいるとは映っていない。当事者が本気で取り組んでいないものをさらに甘やかすようなお人好しは、医療保険関係者にはいない。困るのであれば、未来塾の議論に”参画する”といった第三者的な立場ではなく、自らの手で改革を実現する覚悟で本気で業界内を取りまとめ、改革に向けて行動するしかない」と述べ、議論に臨むうえでの覚悟を求めた。(聞き手 望月英梨)