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有識者検討会・報告書 創薬力強化でビジネス転換促す 長期収載品依存脱却で「選定療養」導入を提言

公開日時 2023/06/07 05:55
厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」は6月6日、報告書案を座長一任で取りまとめた。報告書案では、内資系企業の創薬力低下が課題となる中で、長期収載品依存から脱却し、研究開発型のビジネスモデルへの転換をさらに促す必要性を強調。長期収載品について、患者の嗜好などを踏まえた「選定療養の活用」を盛り込んだ。一方で、新薬開発の主流が米国のベンチャー企業などに移り、ドラッグ・ラグ、ドラッグ・ロスが懸念される中で、解消に向けて、革新的医薬品を国内に迅速導入した場合、薬価上の「新たなインセンティブ」を検討することも盛り込まれた。

有識者検討会は、革新的医薬品の日本への早期上市、医薬品の安定供給という課題に対し、流通や薬価制度、産業構造から検証し、対策を検討してきた。

◎研究開発型企業は「革新的創薬に向けた研究開発への経営資源の集中化を図るべき」 薬価制度見直しを提言

日本の医薬品産業をめぐっては、日本起源品目の世界市場シェアが低下するなど、日本の創薬力低下が指摘されている。国内市場においても、外資系企業の売上シェアは内資系企業を上回っており、貿易収支でも輸入超過による赤字が拡大している状況にあるとした。内資系企業がバイオ医薬品などの新規モダリティへの移行に立ち遅れている状況にも触れ、内資系企業で長期収載品による収益に依存する傾向があることを指摘した。そのうえで、「研究開発型企業においては、革新的創薬に向けた研究開発への経営資源の集中化を図るべき」として、「特許期間中の新薬の売上で研究開発費の回収を行うビジネスモデルへの転換を促進するため、薬価制度の見直し等を行うことが必要」と提言した。

◎薬剤変更リスクを踏まえた処方、付加価値に対し「選定療養」の検討を

原則として後発品への置き換えを進める必要性を指摘したうえで、さらなる後発品の使用促進を促す必要性を強調。長期収載品から後発品に置き換わりが進まない理由については、治療ガイドラインで後発品の切り替えが推奨されていないことや、湿布薬の貼り心地など、企業努力による使用感などで患者自身が選択していること、さらにバイオ医薬品などでは医療費助成制度等の存在により、後発品を選ぶインセンティブが働かない場合があることなどを理由にあげた。

そのうえで、「新薬の研究開発に注力する環境を整備する観点や、長期収載品の様々な使用実態(抗てんかん薬等での薬剤変更リスクを踏まえた処方、薬剤工夫による付加価値等への選好等)に応じた評価を行う観点から、選定療養の活用や現行の後発品への置換え率に応じた薬価上の措置の見直しを含め、適切な対応について、検討すべき」と提言した。選定療養は差額ベッドに代表されるように、アメニティなど保険適用外について追加費用が必要になる。検討会では、使用感や企業努力による付加価値について保険に含めるべきかなどが議論の俎上に上っていた。

◎政府一丸となった総合戦略作成を エコシステム構築の重要性も

このほか、新規モダリティ創出に向けて、「積極的に新規モダリティに投資し、国際展開
を見据えた事業を展開できるよう、政府一丸となって、総合的な戦略を作成し、企業等に示すべき」と指摘。新薬候補探索(シーズ・ライブラリ構築)等の支援を検討するほか、バイオ医薬品の製造や人材育成支援を通じた、バイオシミラーの国内製造促進なども盛り込んだ。「エコシステム構築」の重要性も指摘し、「産学間のマッチングが促進されるよう、政府として、現在の取組を更に充実させるべき」と提案した。

◎ドラッグ・ラグ解消へ 国内に迅速導入した場合に薬価上のインセンティブも

ドラッグ・ラグ、ドラッグ・ロスについては、米国のバイオベンチャーなどが開発の主流を担う中で、状況が変化していることを説明。欧米では承認されているものの、国内で開発に着手されていない品目は、ベンチャー企業由来の製品に加え、希少疾患や小児用医薬品の割合が高いとした。そのうえで、「革新的な医薬品を国内に迅速に導入した場合(欧米への上市後一定期間内に国内上市した場合等)の薬価上の評価の在り方を検討すべき」と提言した。

◎新薬創出等加算はベンチャーへの評価検討 市場拡大再算定は「類似品の考え方見直しを」

新薬創出等加算については企業要件が臨床試験数や過去の収載品目数など実績が重視されており、大企業に有利な仕組みとなっていることも指摘される中で、ベンチャー発の品目についての新薬創出等加算の「適切な評価のあり方を検討」することも盛り込んだ。また、「希少疾病や小児、難病等の治療薬といった医療上特に必要な革新的な医薬品については、特許期間中の薬価を維持する仕組みの強化を検討すべき」とも提案した。また、モダリティが変化する中で、再生医療等製品や、比較薬のないような革新的医薬品については、「既存の枠組に捉われず、新たな評価を検討すべき」とした。

市場拡大再算定については、バイオ医薬品や抗がん剤などで効能・効果が多い製品では類似品として市場拡大再算定を受けるリスクが増加していると指摘。「企業が事前に想定していない再算定が行われるなど、予見可能性の低さが問題として顕在化してきた」とした。そのうえで、「再算定の対象となる類似品の考え方について見直しを検討すべき」と提言した。

◎治験環境整備や希少疾病用医薬品指定制度の早期指定、小児用医薬品の開発計画策定も

薬事制度の課題として、臨床試験の実施コストの高さを指摘。国際共同治験に参加するための日本人データの要否など、薬事承認制度における日本人データの必要性を整理することや、治験DXの推進など、治験環境の整備を推進する必要性を盛り込んだ。また、希少疾病用医薬品指定制度の早期段階からの指定や、小児用医薬品の開発計画策定を促すとともに、新たなインセンティブを検討することも提案した。

小児がんなど、すでにドラッグ・ラグが発生している領域については、AMED研究事業による支援により、「先進医療・患者申出療養等を活用した治療が速やかに行える体制を構築すべき」とした。

◎城審議官「省内・省外を含め、各方面の協力を得て、実現すべくしっかりと対応する」

城克文医薬産業振興・医療情報審議官は、ファクトを整理し、課題を抽出し、対応策を提言するという検討会の趣旨を説明。「技術進歩への対応など、様々な最近の変化やトレンドをどのように各制度に生かすかという観点だったのだろうと思う」と述べた。今後、薬価は中医協、流通は流改懇など議論の場を移すことになる。城審議官は、「そういったところにきちんと共有し、省内・省外を含め、各方面の協力を得て、実現すべくしっかりと対応して参りたい」と述べた。

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