【24年度薬価改定のインパクト】検証突き付けられる新薬開発 行動変容のトップは「国内試験実施数」
公開日時 2024/03/11 04:52
新薬創出等加算の見直しや迅速導入加算の新設など、イノベーション評価が拡充された24年度薬価改定。一方で、薬価制度改革の導入に際しては、ドラッグ・ラグ/ロス解消に向けた医薬品開発の影響を「分析・検証」が条件に付いた。制度改革の実効性を保険者や国民に納得感のあるものにするためにも、新薬創出に向けて行動変容することが求められている。ミクス編集部が新薬を有する製薬企業を対象に、今後2年間で自社の新薬開発で行動変容する項目を尋ねたところ、「国内試験の実施数(日本を含む国際共同試験含む)」がトップ。「世界に先駆けた新薬の開発(品目数)」、「新薬収載実績(収載成分数)」、「革新性のある新薬の収載実績(収載成分数)」が次ぐ結果となった。
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24年度薬価制度改革では、製薬企業の主張を踏まえ、イノベーション評価が拡充された。ただ、結論に至るまでの中医協の議論では、診療・支払各側から最後まで疑義が出され、いわば「分析・検証」の条件付きで了承された格好だ。24年度診療報酬改定の答申書附帯意見では、「今回の薬価制度改革の骨子に基づき、ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消等の医薬品開発への影響」について、「製薬業界の協力を得つつ分析・検証等を行うともに、こうした課題に対する製薬業界としての対応を踏まえながら、薬価における評価の在り方について引き続き検討すること」とされている。
◎国内試験数、新薬実績数などに回答集まる 「難しい」と2社が回答
ミクス編集部は、新薬を有する製薬企業を対象に、新薬の開発動向について、「新薬創出等加算の対象企業の確認事項」として用いられる9項目を指標に自社の行動変容を尋ねた。なお、「24年度薬価改定における薬価算定基準の見直し」で確認事項は、検証において活用されることが明記されている。回答は48社(内資:33社、外資:15社)から得た。
今後2年間で自社の行動変容がある項目としてトップになったのは、「国内試験(日本を含む国際共同試験含む、実施数)」で17社、「世界に先駆けた新薬の開発(品目数)」が12社、「新薬収載実績(収載成分数)」、「革新性のある新薬の収載実績(収載成分数)」が11社で次ぐ結果となった。一方で、「薬剤耐性菌の治療薬の収載実績(収載成分数)」、「開発公募品(開発着手数,B-2分を除く)」、「開発公募品(承認取得数)」の回答はゼロだった。
このほか、「オープンイノベーション活用による創薬シーズの獲得や、創薬研究のスピードアップによる開発パイプライン拡充等の活動をさらに強化する」(内資)、「日本国内での早期上市や小児適応拡大を実現するための開発計画の見直し、開発パイプラインの拡充等」(内資)、「小児、オーファンの開発」(外資)との回答があがった。「すでに取り組んでおり、変容の必要はない」との回答も内資、外資1社ずつあった。
一方で、「上記項目は難しい」との回答も2社あった。「自社の開発方針に従って、一日でも早い上市を目指していく」(内資)、「医薬品は研究開発期間が長いので、次回改定までの期間で上記要件が充実したとしたら2024年度の制度改革が要因ではないと考える」(内資)との回答も寄せられた。
◎5年間で傾向拡大 「すでに取り組んでおり、行動変容しない」との回答も
今後5年間での自社の行動変容も尋ねた。傾向は大きく変わらないものの、回答者数は増加傾向で、トップの「国内試験(日本を含む国際共同試験含む、実施数)」は18社が回答。「新薬収載実績(収載成分数)」と「革新性のある新薬の収載実績(収載成分数)」が16社、「世界に先駆けた新薬の開発(品目数)」が12社となった。「開発公募品(開発着手数,B-2分を除く)」との回答はなかったが、「薬剤耐性菌の治療薬の収載実績(収載成分数)」、「開発公募品(承認取得数)」との回答は1社ずつあった。「上記項目は難しい」との回答は1社あった。
「上記については従来から積極的に取り組んでいる」(内資)、「今回回答した各項目については、行動変容ではなく今後も継続して取り組む内容である」(内資)などのコメントが寄せられた。
◎附帯意見に明記で「製薬企業としての使命感と責任感」の声も 新薬創出と検証に積極的な姿勢
答申書附帯意見に、ドラッグ・ラグ/ロス解消に向けた医薬品開発の影響を「分析・検証」が条件に付いたことに対する所感も聞いた。
製薬企業として、革新的新薬創出に注力する姿勢を改めて表明する企業が多かった。「引き続き革新的医薬品の開発に尽力していく」(内資)、「新薬創出加算の見直しや小児用医薬品の評価の充実の観点で踏み込んだ対応がなされたことは企業の開発意欲を高めることにつながると考える」(内資)、「革新的な新薬のイノベーションの適切な評価を促進するための薬価上の措置が継続的に行われるよう、一企業としては日本国民のために医薬品開発が行われるよう尽力していく」(外資)との声があった。
「医薬品の開発について明記されていることについて、製薬企業の一員としてドラッグ・ラグ/ロスの解消に向けて我々の行動が変わらねばならないことに、使命感と責任感を感じる。国民の健康に最大限貢献すべく、まだ充足されていないアンメット・メディカルニーズの高い治療薬の開発に最大限精進する」(外資)との声も。
「今後の日本への革新的新薬の早期導入において大きな意義を持つと考えている」(外資)、「グローバル開発戦略において、日本の薬価制度改革の内容を共有する価値があると考える」(内資)など、開発戦略に言及する声もあった。
“検証”についても積極的に参画する必要性を指摘する声が寄せられた。「制度導入に対して、製薬業界としてドラッグ・ラグ、ロスへの解消に取り組んだことを示す客観的な実績が必要になってくるのではないか」(内資)、「今回の改正では業界側の要望を反映していただいた形なので、それに対する効果の検証は必要と思われる」(内資)、「業界としても影響の検証に協力する必要があると考える」(外資)との声が寄せられた。「必要な分析・検証等には積極的に協力する。引き続き医薬品開発について前向きに検討しイノベーションが公正かつ適切に評価される薬価制度改革がなされることを強く希望する」(外資)との声もあった。
◎「検証に時間かかる」と牽制の声も 制度の不明瞭さ指摘も
一方で、検証に時間がかかることに対する理解を求める声も複数寄せられた。「開発計画の見直しと共に、今後実施される分析・検証へ積極的に協力していく所存だが、今回の薬価制度改革を受けた行動変容が実を結ぶには一定の時間を要することに十分配慮いただきたい」(内資)、「分析・検証には長期のスパンを要する」(内資)、「薬価制度改革によるラグ/ロスの改善には一定程度の時間を要するので,短期的な指標で政策の成否を拙速に評価するのは避けていただきたい」(外資)、「今回の薬価制度改革は製薬企業にとってポジティブな要素が含まれる一方、医薬品開発には10~15年かかる性質上、短期間での成果は現れにくいことをご理解いただきたい」(外資)との声が寄せられた。
制度の不明瞭さを指摘する声もあった。「予見性の低い制度設計も散見されるため、今回の制度改革に係る医薬品開発への影響を確認することに加えて、制度設計に係る問題点も確認した上で、現実的に実効性がある運用としていく必要があると考える」(内資)、「今回の制度改革が及ぼす影響については不明瞭な点が多いが、日本におけるドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスを回避する可能性が高まることを期待している」(外資)との声があった。
このほか、「迅速導入加算や革新的新薬の特許期間中の薬価維持など、これまで業界が提案してきたことの多くが実現され、日本が患者さんの新薬へのアクセスの改善を可能とするイノベーション重視の国に変貌を遂げるための近年まれにみる重要な一歩であったと認識している」(内資)との声もあった。
(ミクス編集部・薬価改定調査取材班 望月英梨、神尾裕、岡山友美、梅澤平、沼田佳之)