中医協 費用対効果評価 追加的有用性示せず費用増は見直しへ 「レケンビに倣った価格調整を」
公開日時 2025/10/16 05:59
中医協費用対効果評価専門部会は10月15日、次期制度改革に向けて議論し、追加的有用性が示されず費用増加となった分析対象集団における価格調整について見直すべきとの意見が診療・支払各側からあがった。支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「例えば、レケンビの例に倣って、加算の範囲にとどまらない価格調整をすべき」と述べるなど、加算の対象範囲にとどまらず、薬価本体まで切り込む必要性を指摘した。一方、価格調整の引上げ要件について、薬価制度の有用性加算などを参考に明確化することについて異論は出なかった。
◎追加的有用性が示されていない品目は27集団、18品目
現行制度では、追加的有用性が示されず費用増加となった場合、分析対象集団ごとに価格調整係数を有用性系加算部分は0.1、営業利益部分は0.5として価格調整を行っている。諸外国では、比較対照技術に対する追加的有用性が示されない場合、比較対照技術の価格を基準として、同等の価格またはそれ未満の価格が設定される等の対応が行われている。事務局は、「例えばドイツでは保険収載から9か月間は製造販売業者が希望する価格で販売することが可能で、その後に追加的有用性の評価が明らかになった時点で、価格調整を行う」などと制度の違いを説明し、違いを踏まえた議論を進める考えを示した。なお、客観的な検証では追加的有用性が示されていない品目は27集団、18品目にのぼるという。
診療側の江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「評価を見直すべき」と述べた。支払側の松本委員は「保険償還の可否の判断には用いないという制度の前提を考えれば、例えばレケンビの例に倣って、加算の範囲にとどまらない価格調整をすべきであり、少なくとも追加的有用性が認められて、ICERが高い場合より厳しい対応が不可欠だ」との考えを示した。なお、レケンビはICERが500万円/QALYとなる価格と見直し前の価格の差額を算出し、差額の25%を調整額とし、価格の下限は、価格全体の85%(調整額が価格全体の15%以下)として算出された。
支払側の鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は、レケンビでの例を引き合いに現行では価格調整後の価格によるICER と閾値の乖離が大きく、費用対効果評価の結果を十分に反映できていないとの指摘があると説明。「現役世代の保険料負担への配慮や国民皆保険の持続可能性の観点から、費用対効果評価結果を十分に反映できるよう価格調整の在り方について見直していくべき」との考えを示した。
一方、診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「費用対効果評価は、比較対照技術の選定、不確実性に対する対応、価格引き上げになった品目がないことなどが課題だ。現状の課題がある中で価格調整範囲の拡大は、業界の意見も踏まえつつ、ドラッグ・ラグ/ロスの影響にも配慮した慎重な検討が必要だ」との考えを示した。
◎引上げ要件明確化は異論出ず
価格調整の引上げ要件をめぐっては、医薬品の場合の「薬理作用等が比較対照技術と著しく異なる」や医療機器の場合の「基本構造や作用原理が比較対照技術と著しく異なる等一般的な改良の範囲を超えた」といった表現ではなく、薬価制度の有用性系加算の要件などを参考に、引上げ要件の記載を見直すことを論点にあげた。
診療側の森委員は、「引上げ要件を明確にすることに異論はない。価格引上げとなったものがない要因は、薬剤の要因なのか、比較対照技術の選定方法なのか、そもそも要件設定の問題なのか、あるいは要件緩和の内容や範囲が不十分だったのかなど、幅広い視点で業界の意見も踏まえた検討が必要だ」と述べた。支払側の松本委員は、「要件緩和ではなく、曖昧なものを明確化するという趣旨であれば、異論はない」と述べた。
◎比較対照技術 支払側・松本委員「相対的に安価なものと比較が最も合理的」
比較対照技術をめぐり、業界は意見陳述で効能効果を直接比較できない場合には最も安価な品目が設定されることがあると主張しており、あり方も論点となった。事務局は、「まずは臨床的に幅広く用いられているもののうち治療効果がより高いものを選定することが原則」としたうえで、「一意に決めることが難しい場合に、「費用対効果の程度」を考慮する観点から相対的に安価なものを選択することも可能であり、他の考慮要素等も踏まえながら、費用対効果評価専門組織で議論されるべき」と示した。支払側の松本委員は、「比較対照技術が決められないのであれば、相対的に安価なものと比べることが最も合理的だと思うが、最終的には専門組織でご判断いただくこと。ただ、仮に安価なものと比較すること自体が問題だということであれば、治療の選択肢になり得る複数の技術と比較することも当然検討すべき」との考えを示した。
◎ICERを基本に不確実性踏まえ総合的評価を実施
現行制度ではICERは一定の不確実性があることを踏まえ、ICERの区分で幅を持たせて価格調整率を決定してきた。業界は意見陳述で、ICERの不確実性を指摘し、総合的な評価を行うことが必要と主張していた。事務局は諸外国でもQALY(疾病横断的な指標)を用いた分析を基本として、ICERを用いた判定を実施していると説明。費用対効果評価の実施にあたっては、これまで通りICERを用いることを基本とし、ICERの不確実性を踏まえつつ、引き続き専門組織において総合的評価を行うことを提案した。また、業界がICERでは利便性や効果の持続性、標準的治療法であること、などが十分に評価できない価値であるとの意見を踏まえて諸外国の状況について調査を行ったうえで議論を進めることを論点にあげた。
診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「これまで注射で使用されていた医薬品が経口で投与可能となることや、投与間隔が延長されることは、医療提供上も、患者にとってもメリットとなる。費用対効果評価として、どう考えるかは論点にあるように、諸外国の状況を調査し、検討を進めていくものと考える」と述べた。
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「どのような尺度だったとしても、必ず限界があり、現状でも評価区分に幅を持たせていることや、総合的評価も行っていることを踏まえれば、業界から具体的な代替案が示されない限りは、事務局案の通り、現行の取り扱いを継続しつつ、諸外国の調査を進めることが現実的だ」との考えを示した。
◎藤原専門委員「第三者の専門家を交えた検証の機会を」
業界代表の藤原尚也専門委員(中外製薬執行役員渉外調査担当)は、「価格調整範囲、追加的有用性の評価、並びにICERの不確実性に関する事項は、薬価制度との整合性、イノベーションの評価に深く関わる重要な論点であると認識している。制度の大幅な見直しを検討するにあたっては、制度の信頼性と透明性を確保するためにも、第三者の専門家を交えた検証の機会を設けていただき、丁寧に議論することが必須だ」との意見を述べた。