創薬・先端医療WG AIやデータ利活用推進 「データの質」が創薬生む好循環実現を 治験体制整備も
公開日時 2026/03/17 04:51
政府の日本成長戦略会議創薬・先端医療ワーキンググループは3月16日、創薬力強化に向けて研究開発推進や創薬人材をテーマに議論した。創薬力を強化に向けて、“データの質”を競争力の核に据えたデータ基盤の整備や治験実施体制の整備を求める声が複数の構成員からあがった。座長代理を務める若山慎司内閣府大臣政務官は官民投資ロードマップの策定に向けて、「AIやデータの利活用について、各種課題を整理しながら推進することとし、特に質の高い研究データが AIの活用を通じて次の創薬につながる好循環を生むよう措置を検討する」よう指示した。このほか、治験実施体制の整備や、人材の流動性を高める施策についても官民投資ロードマップの重要課題に位置付けた。
◎仁木厚生労働副大臣「治験実施数を倍増させる覚悟で取り組む」 国際共同治験に危機感
今回のテーマとなった研究開発推進をめぐっては、仁木博文厚生労働副大臣が「特に国際共同治験は他国から遅れており、再生医療や遺伝子治療等の先端領域も含め、研究成果を実用化につなげる体制は十分とは言えない状況になっている」と問題意識を表明。さらに、「AI を活用した創薬への期待が高まっており、基盤整備の必要性が高まっている」と述べた。こうした課題を踏まえて、「厚労省としては、まず治験等実施体制の効率化や国際対応力の向上、人材確保、治験等に関する理解増進などを通じて、治験実施数を倍増させる覚悟で取り組む」と決意を示した。また、全ゲノム解析についてのデータ利活用を推進するほか、AIの解析基盤についても具体化を図る考えを示した。
◎森田参考人 医療データ二次利用「大量で信頼できるデータを安く早く利用できる環境整備を」
医療データの二次利用をめぐっては、2025年6月の閣議決定に基づき、EUのEHDS(European Health Data Space)も参考にしながら、医療等情報の利活用の推進に関する検討会で議論が進められており、今夏までに結論を出すこととされている。検討会の座長を務める森田朗氏(東京大名誉教授)は参考人の立場から発言。医療データの二次利用に向けて、データの質の高さが重要と指摘。「大量で信頼できるデータを安く早く利用できる環境を作ることが非常に重要ではないか」と指摘。「信頼できるデータをできるだけ低いコストで利用できるような制度、データ基盤が重要」との考えを示した。
また、「研究開発の結果、使われたデータを患者さん、国民に還元していく。その結果についての情報を集めて、さらにそれを開発につなげていくという、いわゆる循環するフィードバックの仕組み、一次利用と二次利用のフィードバックの仕組みというものが機能するような制度にすることが重要ではないか」との考えを示した。
◎藤本構成員 「高品質データ取得基盤の構築」を提言 質の高いデータを「競争力の核に」
藤本利夫構成員(アイパークインスティチュート代表取締役社長)は、日本のAI創薬スタートアップのニーズを踏まえて提言を行った。まず、「高品質データ取得基盤の構築」を提言した。藤本構成員は、「AI 創薬では、海外とデータ量で競うのではなく、品質性、再現性、そしてトレーサビリティの高いデータを継続的に生み出せる体制を日本の競争力の核にすべきだ」との考えを強調した。そのため、「共通の実験環境、プロトコル、フォーマット、メタデータの標準などを備えた集中拠点を整備して、実用化実験ラボの整備も組み合わせて、質で勝つ戦略を見えやすく打ち出す必要がある」との考えを示した。
このほか、大企業とスタートアップの連携を動かす初期支援や、人材と案件が集まるエコシステムの形成、セキュアで利用しやすい計算インフラの整備の必要性も指摘した。藤本構成員は、これらを一体的な施策とする必要性を強調。「これらを一体型で集積して推進する AI 創薬の基盤整備を強力に進めていただきたい」と訴えた。
中釜斉オブザーバー(日本医療研究開発機構理事長)も、「データ駆動型の開発研究を大幅に加速するためには、医療研究DXの推進が必須。医療分野の研究開発における全ゲノムデータや画像データなどの利活用を加速するためのデータ基盤の整備が喫緊の課題だ」との認識を示した。蓄積したデータにAIを用いて利活用することで研究開発の加速につながるとして、「時系列での診療情報に紐付いた多種多様なデータを ID に突合できるようなことが必要だ」と述べた。
◎藤原オブザーバー「症例数ではなく、質の高いデータを迅速に提供する国を目指すべき」
治験実施体制をめぐっては、藤原康弘オブザーバー(医薬品医療機器総合機構理事長)は、日本が臨床開発の場として世界から選ばれるために「症例数で勝つ国ではなく、質の高い、科学的に不可欠なデータを、迅速に提供する国を目指すべき」と主張した。治験の実施体制整備に向けて、コスト構造の抜本的改革に加え、国際共同治験・臨床試験で戦える人材・施設基盤の強化の必要性を訴えた。藤原オブザーバーは、「人材は、まさに日本が一番足りないところだ。優秀な基礎研究者はたくさんいるが、国際的に通用する臨床試験ができる人がほとんどいない」と指摘した。
◎武田薬品・宮柱構成員 バーチャル治験の浸透で治験スピードに強み
宮柱明日香構成員(武田薬品ジャパンファーマビジネスユニットプレジデント)は、「治験スピードの面では諸外国と比べて治験施設の分散がボトルネックになっている。DX を駆使したバーチャルな治験を活用、地域単位で実施することで、医療者側の負担も軽減でき、リクルーティングのスピードも戦略的な強みが生まれる。治験を含む臨床試験が医療機関の収益源にもなり得るというふうに考えている」との考えを示した。
そのうえで、「日本が魅力ある場所となるには、治験環境の改善だけでなく、制度全体を戦略的に考えることがやはり重要だ」と指摘。「企業はグローバル開発を前提として、各国の開発環境、制度、市場規模を勘案して、世界中の市場の魅力度を比較した上で参入や投資を決定する」と説明。「諸外国と比較して日本が選ばれるか、あるいはグローバル開発を行う企業の視点から日本で早期に上市させる意思決定を導くような市場形成はなくてはならない」と訴えた。
◎ファイザー・五十嵐構成員 日本の相対的魅力低い「大手企業は早期臨床試験の組み込み中止している」
五十嵐啓朗構成員(ファイザー代表取締役社長)は、中国の台頭を引き合いに、「相対感の中で、日本の成長性、予見可能性が低いという中で、実際大手の製薬企業の中で早期臨床試験への組み込みを中止したり、数が減ったりということも起こってきている」と述べた。官民投資ロードマップの素案で目標として「我が国の製薬企業がグローバルで獲得する特許品の市場規模について、特許品のグローバル市場の年平均成長率(年平均9.6%)と同水準の成長を実現すること」が掲げられたことを引き合いに、「これ並みに伸ばしていくんだということをしっかり記載した上で、官民共同でキャンペーンを張っていくということができればいい」と述べた。
そのうえで、財源論にも言及。「財源、自己負担、特許品以外の領域の効率化、患者さんの薬剤アクセスを阻害しない形での民間保険の活用検討など、多様な論点を正面から取り組んでいきながら、アカデミアを含む創薬エコシステムにしっかりと経済合理性でお金が流れ、エコシステムが活性していく」必要性を指摘した。
◎人材流動性で 製薬企業のベネフィット「経済的合理性の観点から見た設計」求める声も
アカデミアやスタートアップ発のシーズを実用化につなげるためには、製薬企業の目線を有する人材の重要性も指摘されている。日本では人材の流動性が低いことも指摘される中で、厚労省は人材流動性を高めるため、製薬企業における兼業副業の導入促進、臨床研究従事者に対する行政研修の実施、バイオ医薬品の製造人材の育成などに取り組んでいるという。仁木厚生労働副大臣は、「副業兼業の利用の推進による人材の流動性の向上を図るとともに、創薬に関する中長期的に必要な人材スキルを調査し、我が国の創薬エコシステムの発展に必要な人材スキル育成と確保の方策を検討する」姿勢を強調した。
宮柱構成員は、「企業から人材を出す、あるいはシーズを出す時には、企業にとってベネフィットとなる設計が必要だ」と指摘。日本製薬工業協会(製薬協)とAMEDは、「AND-E」と銘打ったプロジェクトを始動させた。4月以降、製薬協から4人の研究者がAMEDに出向し、早期から製薬企業の目線を入れることで、いわゆる“魔の川”を乗り越え、革新的新薬創出につなげていくことを目指している。宮柱会長は、「人が動く他にも、製薬企業の創薬ノウハウをアカデミアなどにトランスファーをする仕組み作りも一つの解決法になり得る」との考えを表明。「人材・ノウハウの供給源と言われている製薬企業にとっては、経済的合理性の観点から見た設計というのをぜひ議論させていただきたい」と述べた。
◎松本デジタル相 ゲームチェンジのきっかけに「民間投資で企業の自律的、継続的な成長を」
会議冒頭で、松本尚デジタル相は挨拶を寄せ、「今回の成長戦略の議論では、大胆な政策パッケージによって民間投資を引き出すことで、企業による自律的、継続的な成長を実現するこことしている。このワーキンググループの成果が関連産業のゲームチェンジのきっかけとなるように、近い将来に大きな国益を生み出すように、ぜひ一緒に明るく、前向きに創薬・先端医療分野の未来を切り開く議論を進めてまいりましょう」と呼びかけた。
◎官民投資ロードマップ 産学近接化、治験実施体制の整備、人材育成と流動性高める施策
若山座長代理(内閣府大臣政務官)は議論を踏まえ、官民ロードマップ策定に向けて、「一点目が、日本の優れた基礎研究が実用化につながるよう、産学を近接化し、研究開発を推進する。二点目が、 AIやデータの利活用について、各種課題を整理しながら推進することとし、特に質の高い研究データが AIの活用を通じて次の創薬につながる好循環を生むよう措置を検討する。三点目が、日本発の創薬を推進するだけでなく、海外からの開発も呼び込める質とスピードを両立した魅力ある治験体制、治験実施体制を整備する。四点目が、創薬の実用化を担う人材育成と副業兼業の活用による人材の流動性を高めるための施策を積極的に進める」よう求めた。