中医協 費用対効果評価の“客観的な検証”で第三者の意見を 「26年度改革の議論前に進めるべき」と釘も
公開日時 2025/09/29 04:52
中医協費用対効果評価専門部会は9月26日、費用対効果評価制度改革の骨子に検証結果を示すことに了承した。政府が6月に取りまとめた骨太方針2025では費用対効果評価制度の更なる活用に向けて、「客観的な検証」を踏まえることとされており、厚労省は費用対効果評価の運用状況の整理を示した。診療・支払各側ともに、「一定の実績が積み重ねられた」との認識で一致した。そのうえで、診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)が専門医や薬剤師、医療経済の専門家など「第三者の意見」も踏まえた客観的な検証が必要との意見もあがった。支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)が「26年度制度改革に向けた議論は前に進めるべき」と釘を刺す場面もあった。
政府が今年6月に取りまとめた経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太方針2025)では、「イノベーションの推進や現役世代の保険料負担への配慮の観点から、費用対効果評価制度について客観的な検証を踏まえつつ、更なる活用に向け、適切な評価手法、対象範囲や実施体制の検討と併せ、薬価制度上の活用や診療上の活用等の方策を検討する」とされている。これを踏まえて、厚労省は同日の中医協費用対効果評価専門部会に、運用状況の整理を報告した。
◎費用対効果実施後も収載品目は変化なく 価格調整後のICER区分変更は1品目のみ
費用対効果評価制度をめぐっては、これまで67品目が指定を受け、39品目の分析が終了した。制度の運用前後で医薬品、医療機器の新規収載数や有用性系加算のある品目数に変化はなかった。費用対効果評価に指定された品目の市場規模は156億円/年(中央値)。20品目で製造販売業者から不服申立てがあった。費用対効果評価が終了した49品目中、価格調整を受けたのは38品目(78%)で、薬価・材料価格全体に対する価格調整額の割合(価格調整率)は、-4.29%(中央値、-2.58%, -8.07%)だった。価格調整率は-5.0%以上0%未満が58%だった。価格調整後の価格を用いて改めてICERを算出した際に、 ICERの区分が変化したものは、価格調整があった30品目のうち1品目のみだった。比較対照技術と比べて追加的有用性が示されなかった18品目のうち、6品目で全ての分析対象集団で追加的有用性が示されなかった。
◎診療側・森委員 制度の成熟度を上げるためにも第三者の意見を
診療側の江澤和彦委員(日本医師会常任理事)が「一定の経験は、積み重ねられたと考えている」、「制度運用の透明性を高め、改革の方向性を示す上で、検証結果を骨子に含めることに異論はない」と述べるなど、一定のエビデンスが集積されたとの見解を示す意見が相次いだ。
診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)も「一定程度の事例が集積されたと思う」との見解を表明。そのうえで、「評価実施時点でのデータが限られることや、それにより不確実性を伴う評価となること、データを提出する企業負担の問題、比較対象技術の選定、選定された技術による追加的有用性の有無の返戻、価格引き上げとなった医薬品がないこと、介護費用の取り扱いなど議論が必要な課題がある」と指摘。「第1ステージが終了し、制度の成熟度を上げるために、第2ステージに向けて、専門の医師や薬剤師などの関係職種や、医療経済に関する専門家など、第三者の意見なども踏まえ、客観的な検証を進めていくべき」との意見を述べた。
◎支払側・松本委員 客観的な検証「業界の理解を得るためにも、否定するものは全くない」
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「業界の意見もお聞きしながら、運用の見直しや分析体制の整備を行って、現在に至っているというふうに理解している」と指摘。「当然、不備があれば改善することはやぶさかではないが、すでに公平性や中立性は、かなりのレベルで担保されているものと認識している。これまでの実績を踏まえて、今後より積極的に活用する時期に来た」との認識を示した。
客観的な検証については、「業界の理解を得るためにも、否定するものは全くない」と強調。厚労省の示したデータに基づく運用状況の整理については、「業界の要望も踏まえて十分に客観的な検証が必要」と指摘した。そのうえで、整理できていない部分は個別論点で取り上げ、「26年度制度改革に向けた議論は前に進めるべき」と釘を刺した。
支払側の鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は、「イノベーションへの配慮とともに、国民皆保険の持続可能性確保に加え、保険料を負担している被保険者と事業主にとって、納得感のある薬価となるよう、費用対効果評価のさらなる活用に向けて、議論を進めていくべき」と表明。「有用性系の加算がない品目の取り扱いや、レケンビの取り扱いを踏まえた価格調整範囲のあり方など、今後検討していく必要がある」との見解を示した。
業界代表の藤原尚也専門委員(中外製薬執行役員渉外調査担当)は、「制度導入時の目的でもございました。単にコストを減らすことが目的ではなく、イノベーションも評価するといった本来の趣旨にかなった状況になっているのか、という視点で現行制度そのものにおける丁寧な検証が必要」と指摘。客観的な検証には医療経済学者、対象品目の疾患を専門とする臨床医、患者、統計学者を含む第三者の専門家によって実施されるべきとの意見を改めて示し、「客観的な検証の機会を設けていただくことが必要」と強調した。
◎費用対効果の“費用対効果” 1品目の1年間当たりの価格調整は4.8億円
このほか、江澤委員の質問に答える形で、費用対効果を実施することそのものに対する費用対効果についても議論となった。事務局は年間10品目程度が対象となり、25年度の予算が11.5億円であることなどを引き合いに、「1品目の1年間当たりの価格調整は、おしなべて計算すると約4.8億円。さらなる運用の改善についても、引き続き全体の中で具体的に検討を進めていきたい」としている。