ミクスは6月16日、創刊50周年特別講演会を開催した。厚生労働省の城克文医薬産業振興・医療情報審議官の講演から、「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」が取りまとめた報告書に込められたメッセージを紹介する。(望月 英梨)
ミクス創刊50周年特別講演会の内容は、Monthlyミクス7月号(7月1日発行)に掲載します。
◎創薬力強化は「薬価問題ではない」 ビジネスモデル転換を促進
ジェネリックだけでなく、新薬にも構造的課題はある。城審議官は、「創薬力の強化は昔から言っているが、薬価問題ではない」と強調した。規模や販路などからグローバル企業とのシーズ獲得競争に負けている実態に触れ、「創薬力強化は、日本の創薬研究のアーリーなところから含めた構造の問題だ」と指摘した。有識者検討会の報告書では、自民党社会保障制度調査会の「創薬力の強化育成に関するプロジェクトチーム(橋本岳座長)」の提言も踏まえ、「積極的な新規モダリティへの投資や、国際展開を見据えた事業展開を企業が行うよう政府一丸となった総合的な戦略を作成」することを盛り込んだ。このほか、ベンチャー企業について、資金調達や知財戦略等、開発から上市、海外展開まで一環したサポートの実施など、創薬エコシステムの構築も明記した。
一方で、「革新的創薬に向けた研究開発への経営資源の集中化」も盛り込んだ。「研究開発型企業においては、革新的創薬に向けた研究開発への経営資源の集中化を図るべきであり、特許期間中の新薬の売上で研究開発費の回収を行うビジネスモデルへの転換を促進するため、薬価制度の見直し等を行うことが必要」とし、「あわせて、諸外国に比べて長期収載品の使用比率が高いこと等を踏まえ、長期収載品による収益への依存から脱却を促すため、原則として後発品への置換えを引き続き進めていくべき。その際、長期収載品の様々な使用実態に応じた評価を行う観点から、選定療養の活用や、現行の薬価上の措置の見直しを含め対応を検討する」としている。
城審議官は、薬価引下げありきではなく、「研究開発費を回収できるような、薬価制度の見直しをするということを言っている」と説明し、「プラスのこと」と述べた。一方で、2018年度に新薬創出等加算が見直された経緯として、過去に必ずしも革新的新薬と言えない品目が含まれていたことに触れ、「どんなにいい制度を創っても使う側がその趣旨を徹底できずに変な使い方をするとダメになる」との課題認識を示した。
◎ドラッグ・ラグ対策で国際共同治験の日本人データの必要性整理「創薬力強化にも」
もう一つの柱が、「ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消」だ。城審議官は、これは「薬事問題であり、薬価の問題」であって、「構造問題というよりは、まさに制度の問題だと私は思っている」と表明した。創薬の主体がベンチャー企業に移り、開発される品目も生活習慣病から希少疾患へとシフトしてきている。
有識者検討会では、日本での開発が未着手な品目は、ベンチャー企業発、希少疾患用医薬品、小児用医薬品の割合が多いことが指摘した。一方で、日本の承認制度では、臨床第1・2相試験による日本人症例での安全性確認が求められており、臨床第3相試験から組み入れることが難しい。日本では治験に時間やコストがかかることから、優先的に開発が進みづらい現状がある。特に、創薬の主体が海外のバイオベンチャーに移る中で、こうした状況はドラッグ・ラグやドラッグ・ロスにつながる懸念もある。有識者検討会では、臨床第1・2相試験を日本で実施しない場合も含めて、「国際共同治験に参加するための日本人データの要否等、薬事承認における日本人データの必要性を整理」することを提案した。希少疾病用医薬品指定制度について、早期段階から指定できるよう制度を見直すことも盛り込んだ。
城審議官は、「日本で開発する企業にとっては導入品だけでなく、相当楽になる」と説明。「表現としては限定的に見えるかもしれないが、創薬ターゲットが希少疾患に移っているなかで、これから上市される新薬は相当カバーされるはずだし、そういう創薬をすべきだと思っている」と強調。こうした対策により、創薬力強化にもつながるとの考えも示した。
「新規モダリティなどの革新的医薬品についての新たな評価方法を検討」などの対策も報告書には盛り込まれた。城審議官は、「ポイントは日本市場の魅力の向上」と説明。世界に先駆けて日本で上市される品目を評価する先駆加算は世界同時開発を促すものだが、グローバルでの最初の承認から30日を過ぎると加算が計上できず、ゼロになってしまう。このため、日本で世界同時開発をするリスクが高まっているとして、「リソース配分として、1、2年待って、データを確認した後に日本市場にリソース回せばいいじゃないかとなる」と指摘し、「30日以内」、「30日から半年間」、「1年以内」などを例にあげて、インセンティブを明確にする必要性を指摘した。このほか、創薬トレンドを踏まえ、新薬創出等加算についてはベンチャーの開発品目の適切な評価を行うことや、市場拡大再算定について、再算定の対象となる類似品の考え方の見直しの検討などを提案した。
城審議官は、「日本としてほしい医薬品が来ない、それを解決するためには対策が必要だということは、結構説得力があるのではないか。ステークホルダーの人たちにこの課題の解消が必要だということに共感してほしいと思って、ファクトに基づき、それがなぜ生じているのかというロジックを丁寧に書き、この方向で解決するのではないか、と提案している」と説明した。
◎流通問題「構造的課題の最たるもの」 解決の答えがそう簡単に出ない
もう一つの大きな柱に据えたのが、「適正な医薬品流通」だ。流通について城審議官は、「構造的課題の最たるものだと思う。何十年も議論しているが、解決の答えがそう簡単に出ない」と述べた。有識者検討会では、“薬価差”が論点にあがった。医薬品の価格のバラつきについて城審議官は、「医薬品の価格は、取引条件の違い(例えば都市部と離島の配送コスト)から、バラつくのが当たり前。一方で、薬価差を得ることを目的とした値下げ交渉により発生するものがある」と整理したことを説明した。
そのうえで、「薬価差が悪いわけではないが、今の薬価改定は市場で評価された医薬品の価値を医療保険で払うというのが前提となる考え方。しかし、現状としては、医薬品の価値を考えた価格交渉はされていないことが起きている」と指摘した。乖離率が開いても改定後に薬価が戻る仕組みである最低薬価品目や安定確保医薬品などが、総価取引の調整弁として用いられ、医療上必要性の高い品目であるにもかかわらず、他の品目に比べて乖離率が開いている状況にある。
さらに、大型チェーンや価格代行業者(ボランタリーチェーン)が価格交渉に力を入れるなかで、「大規模化して、それ(薬価差追及)が常態化し、大幅な値引きをしていると、さすがに制度の趣旨から見てやりすぎじゃないですか、という言い方になる」と問題意識を表明した。有識者検討会の報告書では、こうした実態を調査したうえで、「海外でクローバックや公定マージンが導入されていることも踏まえ、流通の改善など、過度な薬価差の偏在の是正策を検討」、「薬剤流通安定のためのものとされている調整幅について、流通コストの状況等を踏まえ、どのような対応を取り得るか検討」とした。
城審議官は、データを踏まえて流通当事者が議論を深める必要性を強調。「有識者検討会の相当の項目は今年度中に検討し、結論を出し、提案し、整備できるだろうと思っているが、流通については最低でも数年はかかると思っている」とも述べた。
(その3に続く)