財務省の財政制度等審議会財政制度分科会(十倉雅和会長)は11月20日、「令和6年度予算の編成等に関する建議」を取りまとめ、鈴木俊一財務相に手渡した。年末の予算編成過程の焦点となる2024年度診療報酬改定については、診療所の経営が「極めて良好」として、診療所の報酬単価を「5.5%程度引き下げるべき」と主張した。診療報酬で「1%程度」のマイナス改定に相当する。医療界の主張する医療従事者の賃上げについては「重要な課題」としたうえで、プラス改定とすると保険料負担が増加することを懸念し、「診療報酬本体マイナス改定」を打ち出した。増田寬也分科会長代理は手交後の会見で、「足下で収益状況がよい診療所を守るのか、勤労者の手取りを守るのか、国民的な議論をぜひお願いしたい」と述べた。
建議では、「国民負担を軽減する観点から、できる限り効率的に提供するよう、診療報酬の合理化・適正化等を進めていく必要がある」と指摘。「診療所の極めて良好な経営状況を踏まえ、診療所の報酬単価を引き下げること等により、現場従事者の処遇改善等の課題に対応しつつ診療報酬本体をマイナス改定とすることが適当」と主張した。
◎現場従事者の処遇改善は重要課題も「プラス改定は現役世代所得の減少に」 マイナス改定主張
「医療界の現場従事者の処遇改善は重要な課題」としたうえで、「診療報酬本体をプラス改定すると保険料負担等が増加して全産業で賃上げを進める中で現役世代の手取り所得が減少することになる」と指摘。「過度な利益が生じている診療所の報酬単価を適正化することにより、国民の負担を軽減しつつ、同時に現場の従事者の処遇改善が可能」とした。こうした対応により、現役世代の手取り所得を確保することが「物価高に対応する変革期間における経済政策とも整合的」ともした。
◎全産業平均の経常利益率と同程度まで引き下げるべき
診療所については、「初診料・再診料を中心に引き下げ、診療報酬本体をマイナス改定とすべき」と主張。一方で、病院については踏み込まなかった。具体的には、財務省が約2万2000医療機関を対象に実施した機動的調査を引き合いに、診療所の経常利益は8.8%と高水準であることを強調し、「全産業やサービス産業平均の経常利益率(3.1~3.4%)と同程度となるよう、5.5%程度引き下げるべき」と主張した。これにより、保険料負担は年間2400 億円程度(現役世代の保険料率(労使合計)では▲0.1%相当。年収500 万円の者の場合年間5千円相当)軽減されるという。
診療所の単価(1受診当たり医療費)はコロナ特例等の一時的要因の影響を除いても過去3年間物価上昇率を上回るペースで継続的に上昇しており、今後2年間は継続する可能性があり、今後経常利益が上昇する可能性も指摘し、報酬単価引き下げの必要性を指摘した。医療関係団体が公定価格である診療報酬は物価上昇などを転嫁できないことを主張する中で、「診療所の報酬単価が物価を大きく上回って上昇してきている実態を踏まえると、公定価格を引き上げないと医療機関は物価上昇分を価格に転嫁することができないとの議論は診療所における診察実態に基づくものとは言えない」とも指摘した。
◎処遇改善は利益余剰金、賃上げ税制の活用を 経営情報見える化の必要性も指摘
一方で、現場従事者の処遇改善については、「毎年生じる単価増・収入増を原資とすることを基本」としたうえで、「診療所を経営する医療法人に積み上がった利益剰余金(1医療法人当たり1.24 億円)の活用、強化される賃上げ税制の活用、その他賃上げ実績に応じた報酬上の加算措置を検討していくべき」とした。利益余剰金は、増加分だけで看護師などの現場従事者の3%の賃上げに必要な経費の約14年分に相当する水準として、ストック面でも十分な原資が蓄積されていると指摘した。
また、医療法人の利益が賃上げに反映される構造とするために、「経営情報の見える化」の必要性を強調。診療報酬における処遇改善についての加算算定に当たっては、職種別の給与・人数の提出を要件化すべきだとも主張した。
診療所の報酬単価の高さが医師の偏在を招き、病院勤務医不足を招いている一因との考えも表明。「診療所の報酬単価を適正水準まで引き下げ、診療所と病院の配分のあり方を見直すことにより、開業を過度に促す報酬体系を改める必要がある。医師の偏在対策は病院勤務医の働き方改革とあわせ総合的な対策を講じる必要があるが、その中でも診療所の報酬単価の適正化は必須」などと主張した。
◎リフィル処方箋 未達成の適正効果達成まで「処方箋料の時限的引下げ」を
リフィル処方箋については、診療報酬改定に向けて「リフィル処方箋による適正化効果が未達成であることを踏まえ、処方箋料の時限的引下げなど、未達分を差し引く調整措置を講じるべき」と主張した。導入された22年度診療報酬改定において大臣合意では、リフィル処方箋の導入・活用促進による医療費効率化効果を改定率換算で▲0.1%(医療費470 億円程度)とされていた。しかし、日本保険薬局協会(NPhA)の調査に基づいて単純計算すると医療費効率化効果は年間▲70 億円程度(改定率換算で▲0.014%程度)と推計されている。
このほか、「薬剤師がリフィル処方箋への切り替えを処方医に提案することを評価する仕組み」に加え、「OTC 類似薬」を例示し、「薬剤師の判断でリフィルに切り替えることを認めること等を検討すべき」とした。
◎薬価改定 イノベーション推進は「長期収載品の自己負担の在り方の見直しとあわせ実施を」
薬価については、「日本の医薬品費等の対GDP 比や1人当たり医薬品費等は、先進国の中で極めて高い水準にある」と指摘。「毎年薬価改定を着実に実施していくこととあわせ、イノベーションの適切な評価とともに、長期収載品等の自己負担の在り方を見直す必要がある」とした。
国民皆保険の持続性とイノベーション推進の両立し、「長期収載品に依存しない創薬開発型企業の転換を促していくためには、新薬のライフサイクルに着目しつつ、薬価制度などの在り方を見直していく必要がある」とした。画期的な新薬については、収載時に画期性加算などで最大120%の加算が得られ、後発品が上市されるまでの間(または15 年間)は加算後の薬価が維持される枠組みが設けられていると説明。「こうした枠組みについて、イノベーションの適切な評価の観点からの見直しを長期収載品等の自己負担のあり方の見直しとあわせ実施すべき」とした。
◎OTC類似薬「保険外併用療養費制度の柔軟な活用・拡大とあわせて検討を」 保険給付範囲見直しを
年末に策定する医療・介護分野の改革工程表に向けて、保険給付範囲の見直しの必要性も指摘。「現在の保険給付の範囲の在り方を見直し、より小さなリスクにおける保険給付のウエイトを引き下げていくべき」とした。また、「保険収載を見合わせた際の受皿として保険外併用療養費制度や民間保険の積極的な活用も含めて検討していく必要がある」ことも盛り込んだ。
単価が高額な医薬品の収載が増え、保険財政への影響が大きい医薬品が登場することも想定される中で、「高額・有効な医薬品を一定程度公的保険に取り込みつつ、制度の持続可能性を確保していくためには小さなリスクへの保険給付の在り方を検討する必要がある」とした。OTC類似薬が医療機関で処方される方が購入するよりも負担が低いことから、「OTC 類似薬に関する薬剤の自己負担の在り方について、市販品と医療用医薬品とのバランス、リスクに応じた自己負担の観点等を踏まえ、保険外併用療養費制度の柔軟な活用・拡大とあわせて検討すべき」とした。
高額な医薬品については、「費用対効果を見て保険対象とするか判断する、医薬品の有用性が低いものは自己負担を増やす、あるいは、薬剤費の一定額までは自己負担とするといった対応を採るべき」と主張。保険外とする場合や未承認での使用する場合は、「民間保険を活用することも検討すべき」とした。