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日本総研 CAR-T細胞療法など再生医療等製品のエコシステム確立へ提言 薬価・診療報酬改善を国に要請

公開日時 2025/07/30 04:52
日本総合研究所(日本総研)は7月29日、「革新的な再生医療等製品の持続可能なエコシステムの確立」に向けた提言書を公表した。提言書はCAR-T細胞療法など再生医療等製品の普及に向けて、研究開発、製造供給、医療保険制度、治療が一体となったエコシステムの構築が必要と指摘。具体的な提言として、①再生医療等製品の普及を促進する価格制度・診療報酬制度への変革、②エコシステムとしての課題の俯瞰と、次世代のサイクル回転に繋がる施策の継続-の2項目を明示した。まず、価格制度については、有用性評価の十分な価格への反映と市場拡大再算定の適用の見直しを主張。診療報酬制度は、現在の病院経営の悪化など環境要因を含めて、医療現場におけるコストを適切に反映する診療報酬への改善を国に要請した。さらに政府は、国内のエコシステム構築およびアジア諸国への展開拠点の確立を進めるべきと強調した。

提言書(ポジションペーパー)は、「革新的な再生医療等製品の持続可能なエコシステムの確立に向けたホワイトペーパープロジェクト」において、再生医療等製品の実用化やそれを支えるエコシステム形成の課題、その解決策について検討したもの。検討結果から今後日本が取り組むべき事項を特定し、提言として取りまとめた。なお、検討に際しては、CAR-T細胞療法は臨床的価値だけではなく、長期入院・介護費用などの医療支出を削減し、患者の早期社会復帰や経済活動への参加を支援するといった社会的価値の側面からも期待されているとの認識を確認。一方で、従来の医薬品と比較して、高度で複雑なプロセスを要する研究開発や製造に多額の費用がかかることや、それを補う価格制度や診療報酬制度が整っていないために、新たな研究開発投資が十分になされていない現状を直視。加えて、CAR-T細胞の生産能力は一部の国・地域に限定的で製造量も限られていることから、ドラッグ・ラグ/ロス問題にも直面していることが課題感として提起し、必要な改善策を提言としてまとめた。

◎価格制度 社会的貢献を加味した「有用性評価の十分な価格への反映」が求められる

具体的な提言では、まず「現行の医療保険制度が、現在の日本におけるエコシステムの形成・循環を阻害している」と指摘。価格制度については、患者の社会復帰や介護負担軽減など、社会的貢献を加味した「有用性評価の十分な価格への反映」が求められるとした。また、現行の市場拡大再算定は規模の経済性が働くことを前提としており、その適用を受けた場合、患者アクセスの継続が困難になると指摘し、企業が革新的な治療法を持続的に供給できる環境を維持するために、「市場拡大再算定ルールを見直すべき」との見解を打ち出した。

◎診療報酬制度「医療機関が設備や人材への投資を正当に回収できる仕組みを」

一方、診療報酬制度についても、「再生医療等製品の提供に必要な医療提供体制にかかるコストを十分に現行の診療報酬でカバーすることに加え、医療機関が設備や人材への投資が正当に回収できる仕組みを組み込む必要がある」と強調し、国に対して必要な対応策の実施を求めた。

◎再生医療等製品のエコシステム 患者団体、学会、医療機関、開発企業各社が連携

また提言では、再生医療等製品のエコシステムを発展させるためには、「ステークホルダーの連携強化推進」が求められるとし、研究開発分野については「政府は大学発の技術を支援し、スタートアップを含む企業への技術移転を推進する施策を行うべき」と主張した。治療分野については、必要としている患者が迅速かつ適切に治療を受けられるよう、診療ガイドラインの明確化や患者紹介のインセンティブの強化を推進すべきと主張。患者参画を促すため、患者団体、学会、医療機関、製薬企業やバイオベンチャー、CDMOが連携し、疾患および免疫細胞療法を含む様々な治療選択肢に関する最新の情報を共有・議論できる場を構築すべきとした。

◎サプライチェーンの高度化を図る基盤整備 アジア諸国への展開拠点としての確立を

さらに、「コスト削減、基盤整備」にも言及。「政府は、専門性の高い人材の育成や施設整備の推進、サプライチェーンの高度化を図る基盤整備を行い、国内のエコシステムの構築、およびアジア諸国への展開拠点としての確立を進めるべき」と提言した。

日本総研は今回の提言書の公表について、「再生医療等製品は今後グローバルに市場が拡大・成長することが見込まれており、わが国においても製品に関する技術開発が進むことで、バイオ産業の発展や、アジア諸国での市場の確立、国際的なリーダーシップ発揮の機会にもつながる」と期待を込めた。また、患者、社会、産業に対する貢献が期待される再生医療等製品の持続可能なエコシステムの構築に向けて、行政、医療機関、製薬企業・CDMO、バイオスタートアップ等との議論を継続する姿勢を表明した。

なお、今回のプロジェクトには、法政大学経済学部経済学科の小黒一正教授、北海道大学大学院医学研究院内科学分野血液内科の豊嶋崇徳教授、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 の中村洋教授、藤田医科大学橋渡し研究支援人材統合教育・育成センターの八代嘉美教授が参画した。
 
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